第9話 VSヨルムンガンド2

 宝剣。それは意志を持ち使う者を選ぶとまで言われる剣である。

 詳しいことは何一つ分かっておらず、どういった経緯で作られるのかや、そもそも人の手で作ることが出来るのかとも言われている。

 唯一分かっていることといえば、どんなに良質な剣よりも切れ味があること。そして特定の人間が持てば特殊な効果が現れることだ。

 アロマの持つ宝剣【グラム】は、使い手の自然回復力を大幅に高めてくれる。これによりアロマはかすり傷程度なら一瞬で治ってしまう。

 ラクリィの宝剣は少し特殊で、使い手に恩恵を与えるものではなく、ラクリィ以外の人間が使おうとしてもまるで錆びてしまったかのように切れ味がなくなってしまう。

 そんな宝剣で今まで切れない生物などいなかったが――――――


「さて、どうするか」


 勝負には行かずヨルムンガンドの攻撃を危なげなく避けながら言う。


「とりあえず全員で一点攻撃してみるしかなさそうね。わたし、アロマ、レイラ、ラクリィの順番で行きましょう」


 全員が頷くとサレンが剣を鞘に納め構えをとった。

 何年振りだろうあの構えを見るのは。

 俺はあの構えに見覚えがあった。数年前、本当に何度かだけ見せてもらったことがある。


「――――――抜刀風迅閃!!」


 サレンさんが抜刀すると、その剣の放射線状に風の刃が飛んだ。

 この技は鞘の中で激しい風の渦をおこし、それを抜刀の速度を乗せて放つサレンさんのオリジナル技だ。

 ヨルムンガンドに真っすぐ飛んでいった風の刃は鱗を一部そぎ落とした。


「アロマ!」

「はい! フラッシュバースト!!」


 サレンさんの合図と共にアロマが魔法を放つ。

 光魔法を得意とし、様々な種類の魔法が使えるアロマのその中でも一撃の威力が大きい魔法だ。

 光の玉が着弾と同時に爆発が起きる。サレンさんがつけた傷にさらに大きな一撃が加わり完全に鱗が剥がれ肉がむき出しになっていた。


「――――――ふっ!」


 よろめくヨルムンガンドに間入れずレイラ中佐が切り込んだ。

 むき出しになった肉の部分から剣を差し込みそのまま大きく切り裂く。隙間なく生えている鱗だが、どこかに剣を差し込めさえすれば切れないこともないようだ。

 3人の攻撃でヨルムンガンドの巨体に大きな切り裂き傷ができた。

 俺は怒り狂い暴れるヨルムンガンドに向け走る。流石に両断は出来ないだろうが、すぐに再生出来ないくらいのダメージは与えたいところだった。

 揺れる地面を気にせず地面を蹴った。


「空3連撃・・・・・・後輪撃!」


 まず下段からの切り上げ。切り上げの反動を利用してそのまま1回転しさらに下段から一撃。最後は振り上げた剣を返し切り下げる。最初の2撃で広げた傷を最後の一撃でさらに深くまで切り裂いた。

 着地と同時に離脱する。これだけ大きな傷を負ったヨルムンガンドだが動きが鈍るどころか、怒りで俺へと向け突進してきた。


「・・・・・・やば」

「ラクリィ! そのまま下がりなさい!」


 バックステップでは流石に逃げ切れそうもなく冷や汗が出るが、後ろからサレンさんの声が聞こえたので言われるままもうワンステップ踏む。

 するとすぐ横を風の刃が通りすぎた。サレンさんの抜刀風迅閃だ。

 そのままヨルムンガンドの額に直撃しようというところで、ヨルムンガンドは大きく回避した。

 なんだ? 今まで回避行動なんて一切行わなかったのに。

 違和感を感じたが、ゆっくり考えている暇はない。ヨルムンガンドが足を止めた隙に全力で離脱した。


「らっくん怪我は?」

「大丈夫だ。危ないところだったがサレンさんに助けられた」

「間に合ってよかったですよ。それにしても――――――」

「ああ、今のヨルムンガンドの行動はおかしかった。あれ程の攻撃をしても気にした様子もなくこちらを攻撃しようとしてきていたのに最後のサレンの攻撃に対しては回避を選んだ」


 違和感を感じたのはどうやら俺だけではないようだ。

 それにしても何故回避を・・・・・・。いや理由なんて1つしか考えられないか。

 俺は思ったことをそのまま伝えることにした。


「もしかしたら核に対する攻撃に反応したのかもしれません」


 俺の言葉にレイラ中佐は少し考えてから口を開く。


「――――――確かに、その可能性が最も高いと私も思う。だが核に対する攻撃に反応、霧魔獣にそこまでの知能があるとは考えにくいとも思う」


 霧魔獣は俺も少なからず狩ったことがあるが、確かに核に対しての攻撃に反応した霧魔獣は今まで一度も見たことがない。


「レイラ、今までの常識でものを考えてはダメだと私は思いますよ。そもそも大型の霧魔獣は分かってないことだらけなのですから」

「サレンの言っていることも一理あるか・・・・・・。とりあえず一度戻って情報を整理しよう。私達がつけた傷も治りつつあるし」


 呆れた様子のレイラ中佐が言うので見ると、切り裂いた肉の部分はほぼ修復されていた。

 化け物かよ・・・・・・

 俺以外も同じような感想を持っているようで複雑な顔をしていた。

 とりあえず今後の方針を決めるためにヨルムンガンドが動きを止めている間に拠点まで戻ることにした。

 拠点にはすでに出撃し帰ってきた兵士もいるので静かなものかと思ったが、何やらあわただしい。

 何かあったのかと思っていたらこちらに気付いた兵士が慌てた様子でこちらに来た。


「レイラ中佐! 緊急事態が発生しました」

「なにがあった」

「シノレフ王国の軍がこの地に向け進軍中と報告がはいりました!」


 ここにきてまた大きな問題が発生した。

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