第8話 VSヨルムンガンド

 特別部隊であるラクリィ達4人は、大地の裂け目に向け進んでいた。

 既にかなり近くまで来ていることもあり微かに戦闘の音が聞こえてきている。


「役割を確認しておくぞ」


 1番戦闘を走っているレイラ中佐が前を向いたまま声を掛けてきた。


「わたしとラクリィが前衛でなるべく奴の攻撃を誘導する。サレンは中距離からの魔法支援。アロマは魔法で支援しつつ危ない者へのカバーに入ってもらう」


 硬さを気にせず攻撃できる俺と剣で戦うレイラ中佐が前衛なのは誰が言わなくてもすぐに決まった。万能なサレンさんを支援にするのも合理的だ。アロマに関しては、前衛でもいいのではないかとも思ったが、異能によるカバー速度にレイラ中佐は注目したらしく今回は支援という形になった。

 モメントジャンプは奇襲や不意を突いた一撃を加えるのに最適だが、今回の相手にはそういったものはあまり効果が無いだろうとレイラ中佐が話していた。

 確かに人間や通常の霧魔獣ならば死角から剣の一撃を入れれば倒せるかもしれないが、50メートルもあるヨルムンガンド相手では、軽く引っ掻いた程度のダメージしかはいらないだろう。

 今回の全ての攻撃は核を見つけてからが本番となる。

 そんなことを考えながら進んでいると突然大きな地響きがした。


「見えたぞ!」


 前方に大きくうねる巨大な何かが見えた。

 灰色の肌に鋭利な鱗を身にまとい巨大な岩が並ぶところをものともせずに動いていた。


「レイラ中佐!」


 レイラに気付いた兵士の1人がこちらに向かってきた。


「ご苦労。戦況のほうは?」

「現在戦闘を開始してから3回目の部隊ローテーションが行われました。軽傷多数、重症が3名ですが幸い死者はまだ出ておりません。ヨルムンガンドに対しては、剣や魔法による1点攻撃により傷をつけることは出来るのですが、再生力が以上に高くあまりダメージを与えられている印象はありません」


 報告を聞いたレイラ中佐は少し悩むようなしぐさをとる。


「状況は理解した。兵士達には無理をさせぬよう徹底させろ。負傷者が多いようならローテーションする時間を繰り上げても構わない。だが私たちも来たし攻撃も多少はおとなしくなるだろう。胴体部分を集中して核の位置を探ってくれ」

「わかりました。・・・・・・ご武運を」

「ああ」


 頭を下げ兵士は下がっていく。

 状況はあまりよくなさそうだ、元々楽な戦いだとは思っていないが。

 レイラ中佐は軽く息を吐いたあと、俺達を見回した。


「さて、準備はいいな。ここから先は気を抜いたら簡単に死ぬぞ。くれぐれも慎重に戦うんだ」


 頷いた俺達を見てレイラ中佐は満足そうに頷いた。


「では―――――― 行くぞ!」

「「はい!」」

「ええ」


 レイラ中佐を先頭に俺達はヨルムンガンドに向け走る。


「とりあえず頭部に向かう。付き次第兵士を下がらせる。サレンとアロマは魔法によりヨルムンガンドの目を攻撃してから一旦下がれ」

「わかりました!」

「了解よ」


 兵士たちの間を走りぬけ、一気にヨルムンガンドの頭部の前まで行く。

 道中に何やら毒だまりのようなものが出来ていると思ったが、ヨルムンガンドの口から毒々しい吐息が出てることから、あれもヨルムンガンドによるものなのだろう。


「全員ここは私達に任せて一旦下がれ! 態勢が整い次第胴体部分に回り核を探すんだ!」


 レイラの登場は場の兵士達に僅かな安心感を与えた。皆一様に激励の言葉を残し下がっていく。


「2人とも頼む」

「フラッシュレイ!」

「ウィンドアロー」


 レイラ中佐の合図と同時にアロマとサレンさんが魔法を放つ。それは見事に瞳に直撃し下がる兵士たちを追いかけようとしたヨルムンガンドの注意を引いた。

 ヨルムンガンドがこちらを向くが、その時すでに2人は視界に入らないところにいる。注意は見事に俺とレイラ中佐に向いた。その瞳は怒りに染まっている。


「死ぬなよラクリィ」

「死にませんよ。こんなところで死ねませんから」

「それもそうだな。・・・・・・くるぞ!」


 ヨルムンガンドは怒りのままに頭を叩きつけてくる。それを躱し揺れる地面を踏みしめながら思い切り剣を叩きつけた。


「硬い・・・・・・」


 身体全体がしびれる感覚がした。

 足場が悪かったとはいえ全力で振り下ろしたはずだったが、数枚の鱗に食い込んだだけで肉には届かなかった。

 レイラ中佐も同様だったようで渋い顔をしている。

 そうしてる間にヨルムンガンドは頭を上げ、今度は横薙ぎに頭を振るってきた。

 流石にこの高さを助走なしでは避けられない。


「レイラ、ラクリィそのまま飛びなさい!」


 後ろで声が聞こえ考える前に体が反応してその場でジャンプした。すると下から体を持ち上げるように風が吹き数メートルという高さまで飛び上がった。

 そして同じ高さまでアロマが飛んでくる。


「手を!」


 言われるままアロマの手を握ると一瞬で3メートル離れた地面に近い位置に移動してきた。


「2人とも助かった」

「いえ、間に合ってよかったです」

「それにしても流石に硬いな。ラクリィの剣は宝剣なのだろう? それで斬れないとなると・・・・・・」


 確かに俺の剣で斬れないとアロマの剣でも無理だな。

 2人の持つ剣はこの世界では宝剣と言われる一振りなのだから。

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