第7話 異能者

 レイラ中佐に連れられ、俺達は対策本部に設けられた訓練場にやってきた。


「それじゃあ2人の異能を見せてもらおうか。どちらからいく?」

「ではわたしから」


 そういうとアロマは一歩前に出た。


「いきます!」


 その言葉を放った瞬間、アロマは3メートル程先にいた。

 これがアロマの異能【モメントジャンプ】だ。


「モメントジャンプはこのように瞬間移動する異能です。範囲は自分を中心に3メートル、勿論上に飛ぶこともできます。ただ目に見えているところと、1度使うと再使用に10秒程の時間がかかります」


 説明を終えたアロマは再び元の場所に戻ってきた。

 この時、といったものが一切起こらない。


「なるほど、この異能があればいきなり背後に回ることもできるな・・・・・・。とりあえずは分かった、次はラクリィ、君の番だ」

「はい。といっても、俺の異能はアロマみたいに何もないところでの説明が難しいので何か標的になるものはありませんか?」

「標的か。こんなものでよければ標的にしてくれ」


 レイラ中佐が手をかざすと、地面から柱が現れた。どうやら魔法で生み出してくれたようだ。


「ありがとうございます。では、いきます」


 俺は自分の剣を抜き構える。

 一息吐き、俺は柱に斬りかかった。

 剣は頭の中で描いていた通りの剣筋を描いた。

 そして柱は、傷1つ無い状態でそこに立っていた。


「斬れていないようだが?」

「はい、斬れていませんよ。斬ってないですから」

「どういうことだ?」

「俺の異能は【ソードミスト】と呼ばれています。剣を一瞬ですが、霧化することができるんです」

「つまりお前は、柱を斬る瞬間に剣を霧化させていたと」

「はい」


 霧では物は斬れない。もし霧に切れ味があれば外に出た瞬間ズタズタに切り刻まれてしまう。


「それは任意で元に戻せるのか?」

「できますよ。実際俺はいつも相手を斬るとき、身に着けている防具だけすり抜けて中の本体だけを斬っていますから」」

「簡単に言うがな、その異能があってもそんなことをするのは簡単じゃない。それをこなすラクリィ自身の反射神経と動体視力はかなりのものだぞ」


 レイラ中佐は異能よりも別のことに驚いてる様子だ。

 反射神経にしろ動体視力にしろ、幼いころからの訓練で身に着けたものだ。確かにその辺の兵士達よりかは優れている自身はあるが、異能に比べれば大したことではないと思う。


「ですが俺は魔法はどういうわけか一切使えないので、これを鍛える以外なかったってのもありますが・・・・・・。それよりも俺の異能は役に立ちそうですか?」

「ああ、そうだな―――――― とりあえず2人の異能は理解できたし、少し考えてみる。2人とも今日のところはもう帰って休んでくれて構わない。サレンは一緒に来てくれ」

「わかったわ」


 俺とアロマは言われた通り帰ることにする。対策本部から出て外の空気を吸うとなんだかほっとする、かなり長く感じた1日だ。

 アロマも同様に疲れているのかいつもに比べて口数が少ない。

 やがてアロマと別れるところに着き、軽くしゃべってから帰宅した。

 本当ならアロマが今回のことについてどう考えているか詳しく聞きたかったが、朝のランニングでも顔を合わせるので今度でいいかとも思い今日は何も聞かなかった。

 家に帰り考える。ヨルムンガンド討伐の作戦開始まで何ができるか、どんな準備ができるか。

 戦いは相手が人間だろうが霧魔獣だろうが、必ず犠牲が出る。だがなるべくなら、最悪でも手の届く範囲の人たちには死んでほしくない。

 今回で言えばまずアロマだ。それから俺達を強く育ててくれた恩師でもあるサレンさん。そして、まだ面識を持ったばかりだが俺達を認めてくれたレイラ中佐。

 この人達の為に自分が出来ること、それを全力でやらなければ。


 1週間とは早いもので色々考え準備しているうちにあっという間に当日になった。

 拠点となる村までは半日ほどかかる。レイラ中佐が最低でも2人以上で移動しろと言っていたので、アロマと待ち合わせしていく。

 村までの道はあるので迷うことはまずないが、森などを経由する際はどうしても霧魔獣に遭遇して戦闘になった。

 2人とも普通の霧魔獣にはてこずることはない。

 アロマ本人の実力もそうだが、やはり共に戦闘訓練を受けてきたのもあり、連携の取りやすさが他の兵士達とは段違いだ。

 そんな感じで道中も楽に抜け、目的地の村に到着した。

 既にかなりの人数が到着しているようで、やや急いでレイラ中佐のもとに向かう。


「来たか。確認したがヨルムンガンドは相変わらず大地の裂け目にいるようだ。

 戦闘開始は明日からだから、今日のところは休んでくれ」

「わかりました」


 そのまま案内されるまま部屋に入る。

 なんだかんだで半日の慣れない道の移動は疲れたので早めに休むことにする。

 ついに明日が決戦の日になった。



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