第6話 特別部隊

 集められていた部隊長達は、全員帰っていった。レイラは特別部隊の最後の1人を呼んでくると言ったまま帰ってこない。

 その間に、俺はアロマから大型霧魔獣のことを色々と聞いていた。

 アロマもそれほど詳しい訳ではなかったが、まず大型の霧魔獣は過去に4体程確認されているらしい。

 今回の奴は恐らくヨルムンガンドという識別名がついたものではないかとアロマは思っているとのこと。

 確信が持てていないのは、そもそも大型の霧魔獣の存在自体伝説級のものであり、この国周辺に現れたという記録もないため、別の国から運ばれたという本の中でチラッと見かけただけなのだそうだ。


 その本の内容には、空を飛び人間の戦闘圏外から破壊をもたらすもの。

 地を這い存在するもの全てをなぎ倒すもの。

 複数の頭から絶えず魔法を放つもの。

 姿を確認することすら出来ずに蹂躙されることを待つものと、このような恐ろしい表現がされていたのだという。


 ヨルムンガンドは、この中の地を這い存在するもの全てをなぎ倒すものにあたるらしく、50メートルという大きさから言って間違いないだろうとアロマは言っていた。

 そんなもの、どうやって倒すんだとも思ってしまうが、やらなければどれだけの被害が出るか想像しなくてもわかる。それは直接戦争の行方にもかかわってきてしまうだろう。


「アロマはヨルムンガンドに勝てると思うか?」

「んー、実際結構厳しいと思う。普通の霧魔獣なら核を破壊しなくても倒せるけど、ヨルムンガンドには剣が通るかすらちょっとわからないな」


 アロマの意見はかなり悲観的だ。

 だが確かに50メートルの巨体を支える身体はかなり頑丈だろう。俺は最悪核の場所さえわかればどうにかなるが、アロマの剣で切れないなら他の誰でも無理だろう。

 それともレイラ中佐には何か考えがあるのだろうか。

 丁度そんなことを思っていたら、部屋の扉が開いてレイラ中佐が戻ってきた。


「すまない、待たせたね」

「いえそんなことは・・・・・・。それよりもこの部隊のもう一人というのは?」

「ふふ、久しぶりですねラクリィ、アロマ」

「その声は! サレンさん!?」


 アロマが驚きの声を上げる。

 レイラ同様に黒い髪を靡かせながら入ってきた人物は、声を上げたアロマはもちろんのこと、ラクリィにとっても馴染みのある人物だった。

 まだ2人が幼かったころに、戦闘訓練や歴史などといった様々なことを教えてくれたのが、今目の前にいるサレン・ミクトスという人物だからだ。


「どうしてサレンさんがここに?」

「今回一緒に戦ってほしいってレイラに頼まれてね。もう結構長いこと戦場に出てないから断ろうと思ったんだけど、あなた達と同じ部隊だって言われて、少しでも役に立てれるならと思って参加することにしたのよ」


 ラクリィの問いに対してサレンはニコニコしながら答える。

 こんなにも緩やかな人だが、戦いのときの強さはかなりのものだ。しばらく戦場に出ていなかろうがその腕はきっと衰えていないのだろう。

 実際、子供のころ戦い方を教わっていた時も、ラクリィとアロマの二人掛かりでも勝てたことがなかった。


「サレンさんが同じ舞台で戦ってくれるなら心強いです」

「わたしもです! よろしくお願いします!」

「よし! 挨拶も終わったな。それじゃあこの部隊のやるべきことを伝えるぞ」


 レイラが満足そうに3人を眺めてからしゃべり始める。

 ただふと思った――――――


「話の腰を折ってすいません。気になったんですが、レイラ中佐とサレンさんってどんな関係なんですか?」

「お? 気になるのか。といっても大したもんじゃないさ、君達みたいに、いわゆる幼馴染さ」


 なるほど、道理でサレンさんの口調がレイラ中佐に対して気楽なものだと思ったが、そういうことか。


「とりあえず質問は大丈夫かな?」

「はい、ありがとうございました」

「よし、それでは本題に戻ろうか。

 我々の部隊の役割は、言ってしまえば遊撃だ。実力のある我々は本隊とは完全に分離して動き、積極的に攻撃を仕掛け、核の場所が特定出来次第最も前で戦う。無論、危険も他の部隊とは比較にならない」


 レイラの言ったことを簡単に表すと、ヨルムンガンドの注意を最も引き、囮として動きつつも決定打も入れなければならない。

 確かに、大隊ではこの動きは出来ないだろうが、それにしても人数を絞ったな。


「とまあ、言ってしまえばこれだけの部隊だ。ちなみに休める時間はほとんど無いぞ」


 そりゃそうだ。注意を引き付けるということは、一時撤退する場合なんかは他の何かに注意を向けさせなければならない。そうしないとどこまでも追ってきてしまうだろうから。


「まあ、全く休む時間が無いわけでもないだろう。その辺もある程度は考えてある。

 さて、次に―――――ラクリィ、アロマ姫」

「あ、待ってください! 毎回呼ぶたびに姫って言われるのもアレなので普通にアロマって呼んでください」

「そうか、ではそうさせてもらう。

 では改めて―――――ラクリィ、アロマ。君達の異能について詳しく教えてもらいたい」


 聞かれるかもしれないと思っていたことが、ついに来たようだ。

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