第186話 緊急招集
ゾデュスはブリガンティスから与えられた自室で弟のガデュスと3日後の戦いについて話し合っていた。
と言っても、その話は戦術や部隊構成などの具体的な話ではなく——。
「そういえばぁー、今回っていつもみたいにコソコソする必要ないし、宣戦布告ってすんのかなぁ~?」
「みたいだな。あくまで勇者を呼び出すのが目的だって話だから、前日にしにいくみたいだぞ。アルレイラが」
「ふーん、あいつらってホント目立ちたがりだよねぇ~。ギラスマティアが初めて人間界に行った時だってアルジールだけがついて行ってたじゃ~ん」
「まぁアルジールに関してはそうだろうが、アルレイラは多分ブリガンティス様が勝手な事をやらないように自分がやるって言い出したみたいだな」
「あぁ~、そういう~」
2人がしていたのは、このような特にあまり意味のない雑談のような話だった。
だが、こんな傍から見れば雑談のように思える話もゾデュスとガデュスにとってはそれなりに大きな意味を持っていた。
ゾデュスからすれば本来、人間界への宣戦布告は未来の魔王となるブリガンティスが行うべきであり、その隣に立つのはブリガンティス軍の軍事上のナンバー2であるはずだったのだから。
それでもゾデュスはそれほどの焦りも嫉妬も感じてはいなかった。
「まぁ今くらいはいい思いをさせてやるさ。今回はあくまで前哨戦。本当の人間界征服の時に戦いの宣言を行うのは魔王となるブリガンティス様だ。その時こそ俺が四天王筆頭としてブリガンティス様と隣に立てばいい」
「流石は兄貴ぃ~。心が広いなぁ~。でも俺も四天王にしてくれるって約束は忘れないでくれよなぁ~」
「分かってるさ。俺が四天王筆頭で四天王はお前、アルレイラ、ミッキーだ。頭数もちょうどだし、今回の戦いで良い所を見せれば、お前の四天王昇格は確実だろうぜ。クハハハハ!」
捕らぬ狸の皮算用というのはこういう事を言うのだろうが、特にガデュスはゾデュスの話に何の疑問を持つことなく、2人は笑い声を上げた。
実際の所、ゾデュスはともかくガデュスよりも強い魔人はいくらでもいる。
それはゾデュスも分かっていたが、今回の戦いや近い将来起こるであろうブリガンティスの魔界統一の戦いを乗り越えさえすれば、慰めでもなんでもなくコネでガデュスを魔王軍四天王の座に就かせることも不可能ではないと本気で信じていた。
そんなどうでもいい話をゾデュス達がしている最中に事件は起きた。
「お前らぁぁぁー! 今すぐ玉座の間に全員集まれぇぇぇ!」
そんなブリガンティスの絶叫が2人の脳内に響き渡ったのだ。
もちろんそれは、只の声ではない。
魔力で音量を上限にまで引き上げたブリガンティスによる通話魔法によるものだった。
「えっ、なに? こわっ」
ガデュスがそう呟いたのも無理はない。
今、響き渡ったブリガンティスの声は大きな怒気を含んだものだったからだ。
それは明らかに良くない事件が発生した証だった。
そして、ブリガンティスの怒声が響いた数十秒後、2人がいる部屋の扉が開いた。
「なによ、アレ。うるさいわね」
そう言って、入ってきたのは、ゾデュスの自室の隣の部屋を与えられたセラフィーナだった。
そんなセラフィーナをゾデュスは睨みつけ、抗議の声を上げた。
「おいっ、勝手に入ってくるな。せめてノックしろ」
「別にいいでしょ。どうせ2人でくだらない話をしてただけでしょ?」
「くだらなくない」「くだらなくないよぉ~」
被る様に言った2人の声に興味ない視線を向けながらセラフィーナは続けた。
「まぁどうでもいいわ。で、行かなくていいの? 全員集合なんでしょ? ていうかこれ私も行く必要ある? めんどくさいんだけど」
「あるに決まってんだろが。ブリガンティス様が全員と言ったら全員だ!」
「はぁー、めんどくさ」
「このアマ……」
溜息を吐いてそんな事を言うセラフィーナにゾデュスは更に厳しい視線を向けるが、セラフィーナはどこ吹く風だった。
「兄貴ぃ~、早く行かないとブリガンティス様に怒られるぜぇ~」
「そいつの言う通りよ、さっさとしなさいよ。めんどくさいけど」
「お前、いつか覚えてろよ」
ゾデュスのそんな恨み言を無視して、セラフィーナはさっさと部屋の外へと出て行き、ガデュスもその後をついて行く。
そんな2人の様子を見て、ゾデュスは仕方なく無言で2人の後を追う事にした。
ゾデュス達が玉座の間につく頃には既に100人を超える城内にいたほとんどの魔人が集まっていた。
中には息を切らし、青い顔をしている者もいて、玉座の間は大きな緊張感に包まれていた。
ゾデュス達は何列かに分かれて並んでいる内の1列の最後尾にゆっくりとつく。
「ご大層ね」
「うるさい、黙れ、静かにしろ」
小さな声でとんでもない事を呟くセラフィーナにゾデュスは小さな声で注意するが、セラフィーナは全く気にした様子がなかった。
(このアマ、いつかマジ殺す)
心の中でそう思うゾデュスの反応に反して、ガデュスはなぜか小さな笑みを浮かべていた。
そんな弟を見てゾデュスは——。
(こいつ、マジでこの女に惚れてるんじゃねぇだろうな? こいつ本当に女の趣味が悪すぎる)
目の前の性格の破綻した女が将来の義理の妹になるのではないかとゾデュスが嫌な想像が膨らませる中、玉座の前に立つブリガンティスの大声が玉座に響き渡った。
「ゾデュス! 何、そんな後ろにつっ立ってる! こっちに来い!」
そんなブリガンティスの声にびくりとしながらゾデュスは「は、はい、只今!」と答え、列から離れた。
「はっ、怒られてやんの」
「そんなこと言ってる場合か。お前らも来るんだよ!」
怒り疲れたゾデュスはセラフィーナとガデュスにそう声をかけ、3人でブリガンティスの立つ玉座の前へと向かった。
「はぁ、めんどくさ」
そんなセラフィーナの声が後ろから聞こえたが、ゾデュスは無視をする。
そして、3人でブリガンティスの前に立つが、ブリガンティスの視線はなぜか呼ばれたゾデュスではなくセラフィーナへと向いた。
「……リルは一緒じゃないのか?」
「はぁ?」
ブリガンティスの独り言とも取れる呟きにセラフィーナは、眉を潜めながらそんな一言を返した。
「バ、バカ!」
文字にすれば僅か2文字のセラフィーナの爆弾発言にゾデュスだけではなく、玉座の間にいた全ての魔人の血の気が引き、大きな騒めきが起きた。
ブリガンティスが気難しく、気が短いのはブリガンティス配下の者だけではなく、魔界内でも有名な話だ。
そんなブリガンティスの問いにセラフィーナは「はぁ?」と返したのだ。
当然、全員がブリガンティスの激高を想像していたのだが、ブリガンティスから返ってきたのは予想外の反応だった。
「そうか」
ブリガンティスが口にしたのはたったそれだけの一言だった。
ブリガンティスの言葉はセラフィーナがリルと一緒ではなかったと判断しての言葉だが、そのブリガンティスの言葉はこの玉座内にいる魔人達にとっては衝撃的なものだった。
口にこそ出さないが、ゾデュス達以外の全ての魔人の思いを代弁するのなら『なんだ? この女は?』だ。
それは良い意味でも悪い意味も含んでいる。
頭がおかしいという意味とブリガンティスに一目置かれているのではないかという意味でだ。
そんなおかしな空気の中、玉座の間の魔人を見渡したブリガンティスが大きく怒声のような声を上げた。
「おいっ、この中にリルを見た者はいるか!? どんなことでもいい。知っている者は今すぐ名乗り出ろ!」
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