第181話 冤罪と推定無罪

しかし全然、吐かんな、こいつ。



数分間に渡ってブンブンと振りまわし続けているが、一向にアルジールが供述を始める気配はなかった。


カーティスに至っては既に俺を止めるのを諦めたのか只その場に立ち尽くしている。


事態が急変したのは俺がそんなことを思っているその時だった。



「クドウ様!!」



メイヤが今までのような控えめな声ではなく、大きく響く声で俺を呼んだ。


敵相手や気に入らない相手ならよく喚くメイヤだが、俺やアルジールに喚き声を上げる事はそうそうない。


とりあえず埒があきそうもないので、俺がアルジールの胸倉をぱっと離すとアルジールはその場で崩れ落ちた。


この程度の事で体力的にまいるアルジールではないが、精神的にきついものがあったのだろう。


ギリギリ聞き取れるくらいの声で「私はやってません、私はやってません」と繰り返し呟いていた。


そんなアルジールを無視して俺はメイヤの方を見る。



「なんだ?」



俺がそう言うと、メイヤは俺の耳元へと手を当て小さな声で耳打ちした。



「もしかしてクドウ様はエルフ族を絶滅に追い込んだのはお兄ちゃんかもしれないとは思っていませんか?」



いや、かもしれないなんて俺はまったく思っていない。



ほぼ確実にこいつがやったと俺は確信しているのだ。



十中八九どころではなく9割9分こいつの犯行で間違いない。



今はどうなっているか分からんが、俺のいた頃の日本の司法も確実にこいつに有罪を下す事だろう。


残る僅かな可能性としてはブリガンティスの犯行という可能性もあるが、多分違うだろう。


あいつなら自軍に引き込もうと色々画策したはずだ。


俺の圧政に数百年に渡り我慢を続けていたあいつがそんな短期間で業を煮やすには時間が短すぎるというのが俺の感想だった。


つまりこいつが面白半分に戦いを仕掛け、エルフ族を勢い余って絶滅に追い込んだというのが真相だ。間違いない。


エルフ族の戦闘能力がどれくらいかは知らないがこいつの【雷神招来】による高威力広範囲攻撃を使えばやってやれない相手ではないはずだしな。


ブリガンティスとこいつの攻撃魔法の特性を比較しても、多数の相手を全滅に追い込む事だけを見ればこいつの【雷神招来】の方が理にもかなっている。


そんな完璧な推理でアルジールの犯行だと結論付けた俺だったが、メイヤの一言で完璧だった推理は脆くも崩れ去る事になった。



「クドウ様、前魔王が人類に倒された時、まだ私もお兄ちゃんも生まれてはいませんでした。エルフ族が絶滅した時はどうか分かりませんが、少なくともまだ子供だったはずです。流石のお兄ちゃんでも前四天王の一角を担っていたエルフ族に単騎で挑めるはずがないではありませんか」



えっ、エルフ族ってそんなに強かったの?


当時の四天王のレベルがどの程度のものだったかは知らないが、その当時アルジールが最高でも子供だったというのなら流石にアルジールには犯行は不可能だ。


アルジールは俺よりも多分年上なのだろうとは思っていたが、そんなに俺と歳は違わなかった様だ。


まぁアルジールの年齢なんぞまったく興味がなかったので俺が知らなかったのは無理はない。


俺は仕方なくぐったりと膝をついていたアルジールへと手を差し出した。



「まぁなんだ。人間だれしも間違いはある。大事な事は失敗した後どうするか。そして今後同じような失敗をしないようにどう努力するかが大事だな。あとはアレだ。……仲間を信じることが大事だ、うん」



とりあえずいい感じのことを言って誤魔化してみるが、カーティスは何が起こったのか分からないという表情でこちらを見ているし、メイヤに至っては少し冷めた表情でこちらを見ている気がする。


まぁ気のせいに違いない。


そもそもアルジールの奴の日頃の行いが悪いのがいけないのだ。


俺じゃなくとも魔人時代のこいつの言動を見れば、誰でもこいつが犯人だと思うのは仕方のない事だ。


だから俺は悪くない。


そう思う事にした。


その証拠と言っていいか分からないが、アルジールは元気がなかった先程とは違い、元気を取り戻したのかスッと立ち上がって俺の方を凝視した。



「流石はクドウ様。至言でございます。精進を怠らず、配下や仲間の事を信じるという事が大切なのですね。私も驕ることなく日々精進させて頂きます」



なんかアルジールもいい感じに納得してくれたようだ。


とりあえずめでたしめでたしだが、カーティスを完全において行ってしまったので、そちらへの対処もしなければならない。


流石に1000年前にアルジールがエルフ族を滅ぼした滅ぼしてない関連の話はできないので、話の流れは無茶苦茶になってしまうが、無理やりにでも俺がブチ切れた理由をでっちあげなければならないのである。



「あ、えーと、気にしないでください。俺が大事に取っておいたワインの数が合わないので、こいつが犯人だなとふと思ったのですが、よくよく考えたら昨日の晩に【光の剣】の方々と一緒に一本開けたのを今、思い出しました」



凄く頭の悪い言い訳だが、話の流れを無視しないといけない都合上、何を言っても馬鹿な言い訳になるのは仕方のない事だった。


もう少し時間があれば、もっとマシな言い訳が思いつけたかもしれないが、ちょっと頭がアレな勇者と思われるのはこの際、仕方がない。


少なくとも、俺の異次元空間にあるワインの本数を知っているのは俺一人なので、嘘がバレる心配もないので、押し通しさえすればバレはしないのである。


疑わしきは罰せず。


誰が作った言葉かは知らないが、何といい言葉なのだろうか。




「い、今、思い出したのですか?」



予想通り、カーティスは怪訝な表情で俺に尋ねてきたが、問題はない。



「はい、今、思い出しました。魔人侵攻を防ぎ、一気に勇者にも昇格できたので舞い上がっていたのかもしれませんね。ほら、昨晩は酒も入って記憶も少し曖昧でしたし」



「……は、はぁ」



カーティスからしてみればアルジールが1000年前のエルフ族絶滅に関わっているはずがないと思いきっているので、疑ってはいないようだが、少し呆れたような表情になっていた。


これでもしかしたら勇者パーティー【魔王】のメンバーは頭のおかしい奴2名、アホ1名と認知されてしまったかもしれないが、カーティスがこの話を外部に漏らさなければ問題ないだろう。


うん、多分。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る