第182話 容疑者多数

「えーと、それで何の話でしたっけ?」



俺はとぼけた顔で話を戻そうとカーティスに話の続きを促した。



「エルフ族が滅びた理由ですね」



俺達のバカな茶番にもとりあえず納得したのかカーティスは特に俺の話を追及することなく、脱線していた話を元に戻す。



「そうでしたね。それでなぜエルフ族は滅びてしまったのですか?」



環境の変化で滅びてしまったというのなら俺も納得はできる。


だが、そうではないのだろう。


そんなことはそもそもありえないし、話の流れからして絶対にその原因を作り出した何者かがいるのは明らかだった。



どこの誰かは知らんが許してはおけん。



俺から異世界ファンタジーの冒険の醍醐味の1つを奪ったのだ。


それだけでも許されざる大罪だと言うのにそれがシステアの家族や仲間だったというのなら尚更俺は許せない。


俺がそんな決意を抱いていると、カーティスの思いがけない返答に俺は言葉を詰まらせてしまうのだった。



「ドラゴンです」



「……えっ? 今なんて?」



「ですからドラゴンです」



どうやら聞き間違いではなかったようだ。



ドラゴン?



なんか嫌な予感がするのは俺だけだろうか?


一般的にドラゴンという魔獣は魔界に住まう魔獣の中でもトップクラスの戦闘能力を有している。


だが、それはあくまで魔獣の中ではの話であり、個体差はあるにしても全体的に見れば、魔人の方が基本的に優れている事が多い。



そう、ごくごく一部の例外を除いては。



俺は冷静さを装いつつ、カーティスに言った。



「あっはは、四天王の一角を擁するエルフ族を絶滅に追い込むなんて恐ろしいドラゴンがいるもんですねー」



正直笑っている場合ではない。


俺が知る限り、それを確実に実行できる人が1人、多分頑張ったらできる人が3人——それくらいしか心当たりがないからだ。



「どうしましたか? クドウ様。お汗が酷いようですが」



横からアルジールが不思議そうな顔でそんなことを言ってきたが、無視だ。


俺は汗などかいていないし、多分、今回も多分勘違いだ。


心の中で『多分』と2回言ってしまったのも多分気のせいに違いない。俺は冷静だし今度はさっきのような勘違いなど俺は絶対起こさない。



「それは聖竜と呼ばれているドラゴンの事ですか?」



っておぉいぃぃ!



じっくり探りを入れようと思っていた俺の目の前でなんら表情を変えることなくメイヤがカーティスに尋ねた。


まだ全然心の準備ができてないというのになんということを。


アルジールならまだしも母さん相手にボコりに行く勇気は俺にはない。


母さんの事だからボコりに行って、返り討ちにボコられるという事はないだろうが、ガイア兄さんあたりに簀巻きにされてそれで終わりだろう。


アクア姉さんとシルフィル姉さんは俺に甘いので手荒な事はしないだろうが、ガイア兄さんは比較的俺に厳しいのである。


もちろん、システアに謝れと言っても多分結果は同じだ。


偉大なドラゴンの王であり、自らの母であり、主でもある母さんに人間へ頭を下げさせるなどガイア兄さんが絶対許しはしないだろう。


あの人は普段は物静かだが、3人の兄姉の中では最も母さんを崇拝していると思うから。


俺がそんな思考を巡らせる中、カーティスから僅か小さな希望がもたらされる。



「違う……そうですよ。システア様が言うにはですが。そもそも聖竜であれば何があっても私はあの方を止めなければなりません。聖竜は人間界では崇められている存在ですし、そもそも人間は元より魔人ですら決して手を出せる存在ではありませんから」



「そ、それはよかったです」



よくはない。


というよりはまだ安心できない。


とりあえず一番濃厚だった母さん犯人説は消えたが、まだ油断はできないからだ。


真犯人らしき者にも見当がつかない上に俺の身内にまだ容疑者は3人も残っている。


そんな俺の心配を他所にカーティスは話を再開した。



「私の目標は魔王を倒し、そしてシステア様の親の仇であるドラゴンを討つことでした。……ですが諦めました。私は魔王を倒すどころか勇者にも選ばれませんでしたから」



カーティスはそう言った後、自分が初代エルナス国王だった初代勇者に憧れ、王族の責務を放り出して、冒険者となった事などを語り始めた。


だが、A級冒険者まで上り詰めたものの、結局俺に敗れた先々代の勇者ルオルの後に後任の勇者に就いたのは、アリアスの師であるソリュードだった。


システアに出会ったのは、ルオル達先々代勇者パーティーの随伴としてたまたまシステアが籠っていた森に行った時の事らしい。


もちろん、ルオルの目的は自らが結成した勇者パーティーにシステアを誘う事だった。


だが、ルオルの実力不足を理由にシステアがパーティー加入の誘いに対して首を縦に振る事は結局なかった。


そのたまたまルオルのパーティーについていったその時、カーティスはシステアに一目惚れしで恋に落ちたそうだ。


そして、システア目当てに何度も森に通う内にエルフ族の話を聞いたそうだ。



「弱い上に女々しい男ですね、クドウ様」



「ホント、ストーカーみたいだよね、お兄ちゃん」



カーティスに聞こえないようにヒソヒソ話したのは成長したと思うが、カーティスもお前等兄妹には言われたくはないと思う。


それに俺としてはただ玉座にふんぞり返っているだけの王よりは好感が持てるしな。


王族の責務を放り出したとは言うが、A級冒険者まで上り詰めるのは並大抵の事ではなかっただろうし、結局は王になったのだから、王族の責務も一応は果たしているはずだ。



まぁ今はこいつらの戯言なんぞよりも——。



さて、どうするか。ちょっと怖いが確認しないわけにもいかないよな?


俺の頭の中はそればかりが回り、その後のカーティスの話をうわの空で聞いていた。


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