第176話 謁見へ

微妙な出来事もあったが、大賑わいになっていた町中を通り抜け、30分ほどでエルナシティア中央にあるという王宮に辿り着いた。




エルナシティシア王宮は俺が魔王時代に住んでいた魔王城とは違い、高く頑丈な城壁に囲まれ、中には様々な植物が植えられた広い庭園が広がっていた。


門から入って正面奥に見える大きな建物が王の住まう本殿なのだろうが、それ以外にも比較的小さな建物もいくつか建っている。




まるで中世ヨーロッパの宮殿を思わす雰囲気に俺は素直に感動していた。




おぉ、マジモンは初めて見たな。


最近もちょくちょく人間界には来ていたが、ここまで来たのは初めてだからな。




日本人だった頃も海外旅行をしたことがなく、中学の時の修学旅行も京都だったので、こういう造りの宮殿を見るのは本当に初めての事だった。




というか魔王城も洋風っぽかったが、なんか違うんだよな。




そう思って、少し観察していると明確な違いにすぐに気が付いた。




……あぁ、分かった。手造り感か。




エルナシティア王宮の建物は恐らく、建造時に柱やブロックなどをパーツを組み合わせて立てているので、こう接合部が分かりやすく人力で組み立てました感があるが、魔王城など魔界にある建物は土魔法などで一気に壁や天井などを成型しているので人間界の城と比べると接合部がほぼなく、手作り感が薄いのだ。




そんな感想を抱く中、ふとアルジールを見ると納得いっていなさそうで視線を王宮へと向けていた。




恐らく『人間の王如きが生意気な』とでも考えているのだろう。




口に出さないだけまだ成長したとも言えるが、多くの騎士の目がある中、もう少し自重してもらいたいものだ。






「では参りましょう」






後ろの馬車からもアリアス達が下りてきて、全員が集まったのを確認したクレアモンドが俺達を玉座の間へと案内を始めた。




クレアモンドの後ろをついていく中、暇だったので俺はシステアに話しかけた。






「そういえばシステアさんはエルナス王とは会った事があるんですか?」






「ありますよ。私が【光の剣】に加入して、今のメンバーになってからは2回ほどですが」






そういえば忘れていたが、システアは一番最後に加入した勇者パーティーメンバーだったんだよな。


プリズンはシステアがどこかの森の奥でずっと生活していたと言っていた。


そんなシステアを歴代の勇者達は幾度もパーティーに誘ったのだが、システアはその全てを断り続けていた。




アリアスはそんなシステアに自らの実力を認めさせた最初の勇者だったらしい。




確かに今まで見た人間の中では一番強いよな。アリアスって。




俺が人間に転生せずにこのまま力をつけていったなら、アリアスは今までの勇者のように俺に戦いを挑みに来る日もあったのだろう。




そう考えると、俺はアリアスから魔王に挑む機会を奪ってしまったのかもしれないが、今となってはどうしようもない話だし、俺だって本当は勇者として魔王を討つのは夢だった。




まぁ俺が魔王をやめた時点で俺のそんなささやかな夢が叶う事はもうないのだが。






「どうかしましたか、クドウさん?」






「いえ、なんでもないです。それでエルナス王ってどんな方なんですか?」






「そうですね、ユ——」






「ユ?」






システアが何かを言いかけて、すぐに言い直す。






「いえ、アールさんに似ているかもしれません」






「……アールにですか?」






それは王に相応しくないのではないのだろうか?




とてもではないが、人間国家の運営をできるようには思えない。




俺のそんな考えをすぐに見抜いたのか横からガランが話を補足した。






「あっ、見た目の話ッスよ。金髪でイケメンってだけ性格はアールさんとは似ても似つかないッスよ。かなり真面目な方ですし」






すると、俺の横にいたアルジールがガランを少し睨む。






「ガランよ、私は真面目だが?」






「えっ? あぁ、そうッスね」






ガランとしては全然納得していなさそうだが、それに関しては俺も同意見だ。


こいつは俺に忠誠を尽くしているだけで全然真面目でも何でもない。




話に参加したくなかったのか、ついていけなかっただけかは分からないが、ここまで無言だったクレアモンドがここでようやく口を開いた。






「そろそろ玉座の間に到着しますので、お静かに願います」






そう言ったクレアモンドの言う通り、廊下を曲がった先に大きな扉が見えてきた。




アレが恐らく玉座の間なのだろう。


そうして、緊張感の欠片もない勇者パーティー【魔王】と【光の剣】はエルナス王が待つ玉座の間へと歩いて行くのだった。

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