第174話 王からの誘い
「ほぉ、中々大きな都市ですね。人間界を救った暁にはこの都市も全てクドウ様の物になるのですね」
いや、ならないよ?
ようやく治ってきたかと思っていた征服病に再度発症してしまったのかと、俺はアルジールにわざとらしく優しい笑みを向ける。
あえて、殴ったり厳しい視線を送らないのは周りにマジだと受け取らせないためだ。
「アールさんも冗談を言うんッスね」
俺の配慮が功を奏したのかしっかりと冗談だと受け取ってくれたガランがアールの後ろから笑い声を上げた。
「ふっ、冗談か。そうだな。今はまだそうかもしれんな。ガランよ」
今もこれからも人間界を征服するつもりなどないが、「冗談などではない!」とマジ切れしなかっただけ進歩したのだろう。
幸い、ガラン達もアルジール流のギャグだと思ってくれているので、俺としてはこのままギャグだと思ってもらってもらうことにした。
俺達はシステア達と共に予定通り、エルナス王国の王都エルナシティアへとやってくるため、シラルークからエルナシティアの南の草原地帯に転移してきていた。
システアの転移魔法だと1回で飛ぶことができないらしく、今回は俺が転移魔法を使うことになったのだが、俺がその事を告げるとシステアはかなり驚いていた。
ちなみにそのシステアは今、俺の隣を歩いているのだが、今日はいつもの黒ローブスタイルだ。
やはり、昨日のようなオシャレモードは完全オフの時だけらしい。
そんなシステアだが、今日は最初に会った日よりも可愛く見えた。
いや、別に今までが可愛くなかったとか地味だったとかいう訳ではないのだが。
「ど、どうかしましたか? クドウさん」
「いや、なんかシステアさん可愛くなりましたよね? いや、元々から可愛かったんでしょうけど」
俺がそう言うと、システアは黒いフードを深くかぶりそっぽを向いてしまった。
何か悪い事を言ってしまったのだろうか?
「え、えーと、エリーゼからメイクを教えてもらいまして……。似合っていませんか?」
どうやら気分を害してしまったわけではないらしい。
ていうか可愛いと言っているのだから似合ってないわけがないのだが、システアは美人と言われた方が喜ぶタイプなのだろうか。
「似合っていますよ」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
システアは少し照れてしまったのか少しだけ顔を赤くしていた。
どうやら異性に容姿を褒められることには慣れていないのかもしれない。
思えば、アリアスはニアといい感じっぽいし、ガランはそもそもそういう事には疎そうなので、周りにそんなことを言ってくれる者がいなかったのだろう。
俺達はそんな他愛もない話をしながらエルナシティアに近づいていくと、シラルークとは比べ物にならない程に巨大で堅牢そうな大門が見えてきた。
そして、その大門の両端に大勢の騎士達が整列しているのが見えてきた。
「すっげぇお出迎えッスね」
まるで国賓でも迎えるような光景にガランはそう感想を漏らした。
確かに俺が魔王時代に四天王の城に行った時の対応に近いものがある。
まぁ流石に顔を地面に擦りつけて、顔を上げられないなどという事はないようだが、少なくとも出迎えの数で言えばほぼ同程度の数が集まっていそうだ。
俺達が更に近づいていくと、一人の騎士がこちらへとやってきた。
「お久しぶりでございます。【光の剣】の皆様」
騎士の男はアリアス達に挨拶すると、続けて俺達へと視線を移す。
「そして初めまして、【魔王】の皆様。私は王国騎士団長クレアモンドと申します。シラルークで起きた事件解決に多大な功績を上げた皆様に王が感謝の意を伝えたいと仰っております。是非王城までお越しください」
そう言って、クレアモンドは俺に小さく笑みを浮かべる。
そんな話は聞いていなかったが、どうやら王への謁見と言うイベントが発動したらしい。
正直ちょっとワクワクしている。
俺がこの世界に来てから謁見される事は度々あったが、こちらから謁見に出向くのは初めての事だ。
これも勇者の特権の一つだろう。
そんな初体験に俺がちょっぴり感動を感じているとそれを邪魔するものが現れた。
「おいっ、貴様」
そう、問題行動の総合商社アルジールだ。
アルジールは俺とクレアモンドとの間に割って入り、クレアモンドを睨め付けた。
「なぜ王とやらが出迎えに来ていない? 本当に感謝して——」
「おい、アール」
「なんでしょう? クドウ様」
更なる暴言を予期した俺はアルジールに優しく語り掛けるとアルジールは不思議そうに見返してきた。
これは多分、分かっていない顔だ。
なので、俺はアルジールに耳打ちする。
「俺がお前を呼び出す時にわざわざ俺が出向かないといけないか?」
「いえ、そのような事はございません」
「そうだ。簡単に言うと王は勇者と同じくらい偉いんだ。だから別に呼び出すのにわざわざ本人が来なくてもいいんだ? 分かる? 分かるよな?」
「クドウ様がそう仰るのであればそうなのですね。分かりました」
全然わかってなさそうだが、流石にクレアモンドが訝しむ表情でこちらを見ているので、俺は早々に話を切り上げた。
そんな俺達を見て、ガランがクレアモンドに言う。
「あー、気にしないでいいッスよ。アールさんのこれはいつものことなんで」
「はぁ……」
ガランを始め、既にあちらの勇者パーティーメンバーからすればアルジールの奇行は今に始まった事ではないと慣れたものらしい。
有難いような何とも言えない思いを感じながら、俺は王からの誘いを受け入れることにした。
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