第171話 魔王様からの贈り物

俺にはなぜアルジールが驚いているのか分からなかった。


ちなみにだが、俺が物資補充の為の買い物をしたのはギリギリ嘘ではない。


俺がついた嘘はあくまでアダマンタイトプレートが届くかもしれないと言った点のみなのだから。


すると今度はアルジールが俺ではなく、髪飾りを装着しなおしたミンカの事をジロジロと興味深そうに観察し始めた。




アイツの顔の所為もあるかもしれないが、ミンカも恥ずかしそうにしつつもそこまで嫌そうな表情をしていなかったので俺が黙って見ていた。




だがそんな時だった、アルジールが突然爆弾発言を投下したのである。






「もしや、クドウ様はミンカの事を好いておられるのですか?」






は?






と俺の頭の中に?マークが浮かんだのも束の間、カウンター前で大きなミンカの声が鳴り響いた。






「ち、ち、ち、違いますよ!」






思いっきり否定された。


大声で言い放ったミンカは顔を真っ赤にしている。




アルジールが質問したのは俺に対してであり、『俺がミンカを好いているか?』という質問には俺にしか答える事の出来ない質問のはずなのだけども。






「ミンカよ、私はクドウ様にお伺いしたのだが?」






まぁそう問い返すアルジールの指摘も理解はできるが、そもそものアルジールの質問自体が的外れなのだ。






「アルジール、ミンカの言う通りだ。俺とミンカじゃ歳が離れすぎているだろう?」






俺は世間一般的な常識を持ち出してアルジールの言葉を否定した。




別に俺は歳の差はそこまで気にしないタイプの人間ではある。




仮に歳が50歳離れていようが1000歳と950歳じゃそれは最早小さな誤差だ。


だが、それが60歳と10歳じゃそれは最早小さな誤差とは言えず、仮に60歳の老人が10歳の少女に恋心を抱いたとするならその老人はただのロリコンで仮にそれが純粋な恋心だったとしても、一般常識からすればそれは許されずる恋心なのだ。




だが、俺のそんな考えを他所にアルジールとミンカはポカンとした顔で俺を見ている。


そんな状況の中、メイヤだけが落ち着いた様子でミンカに尋ねた。






「ミンカ、あなたっていくつ?」






すると、メイヤの問いにミンカは少し驚いた様子で答えた。






「えっと、14歳ですけど」






そんなミンカの答えに俺は驚きはしなかった。


確かにミンカは可愛らしい小さな少女だが、まぁそのくらいだろうなと思ったからだ。




そう思った俺にメイヤは小さく耳打ちした。






「クドウ様、お忘れかもしれませんが、今のクドウ様のご年齢は15歳ですし、傍から見ても恐らくその程度の年齢に見えるかと思われます」






……あっ。






そこで俺は勘違いに気が付いた。


普通に俺は自分自身が大の大人の感覚で喋っていたが、そういう設定だったという事を思い出す。




実際は1000歳近い年齢の俺だが、魔王時代の時も容姿だけ見ればそこまで年老いた見た目でもなかったので自分自身をジジイだとは思っていないが、周りの女性は大人の女性ばかりだったので、少女っぽい外見の魔人は無意識に恋愛対象から外していたのだ。




魔王時代であればその考えは間違ってはいないが、今俺は15歳ほどにしか見えない少年だ。


別に14歳のミンカとそういう仲になったとしても傍から見ればなんらおかしくない事だったのだ。




よくよく考えれば、15歳くらいにしか見えない俺が14歳のミンカに『歳が離れすぎている』と言うのは女性からすればとても失礼な話である。






「いやまぁ、ミンカはなんか妹っぽいんだよね」






正直自分の子供くらいの年齢くらいにしか思っていなかったが、笑いながらそう誤魔化してみた。


これはこれでかなり失礼だが、それ以上うまく誤魔化す方法など咄嗟には思いつかない。


俺は誤魔化すようにアルジールに問いかけた。






「ていうかなんでそんなこと言いだしたんだ? アール」






「あ、いえ、クドウ様が異性にプレゼントを贈るなど姉上以外に見たことがなかったものですからもしかすればその可能性があるのかと」






そんな事で俺がミンカに恋心を抱いているとこいつは思ったのか?






「お前なぁー、俺だって女の子にプレゼントの1つや2つくらい……」






——と言いかけた所で確かにこの1000年の間で俺が異性にプレゼントを贈ったのはミンカで2人目だという事に気付いて言葉に詰まる。




確かにアルジールが言うようにその記念する1人目はアルジールの姉のアルレイラだったような気がする。


理由は今となってはあまりはっきりとは覚えていない。多分大した理由ではなかった気はする。




確かアルレイラがどこかで起きた暴動を鎮めた際に軽く褒美を贈ろうとしたら「私は魔王様に仕える事が出来るだけでそれだけで満足です。褒美など……」と俺からの褒美を断ろうとしようとしたものだから、俺は意地になって強引にでも褒美を押し付けてやろうと思ったのが発端だった。




とはいえ、女性の部下に何を贈れば分からなかった俺はその日の内にアルレイラの妹であるメイヤに何を贈ればいいか聞きに行った。






すると確かメイヤは俺にこう言ったのだ。






「お姉さまはいつも地味な衣装ばかり着ています。なので、可愛らしい衣装をお贈りすれば大変お喜びになるのではないかと」と。






その時のメイヤはなぜかとてもニヤニヤと笑みを浮かべていたが、確かに当時のアルレイラは暗めな色の衣装ばかりを着ていたので、それは名案だと俺は次に母さんの元へ赴いた。




姉さん達もいる前で俺は何かいい物がないかと母さんに相談すると、母さん達は目の色を変えて、一家総出で城内を走り回ったのだ。




そして、母さんが城内の宝物庫から引っ張り出してきたのが、一つの白いワンピースだった。




俺には女性もののワンピースのデザインなどは分からなかったが、一目でその白いワンピースが凄まじい性能を持つ魔法武具である事は分かった。


まぁそもそもあの城の宝物庫に入っている時点で超ド級の装備であることなど明らかなのだが、その中でもアレはかなり上位に入るほどの逸品だった。




流石の俺も「いくらなんでもこれはやりすぎじゃない?」と母さんに言ったのだが、「うふふ、これは未来への投資よ」と訳の分からない事を言いながら半ば強引に押し付けられたのである。




その上、それだけでは満足できなかったのか「これじゃちょっと地味ね」と言いだしたアクア姉さんが見事なバラ模様の刺繍を施し、それに更に対抗した母さんは魔法による様々な強化を施した。






そして、俺が母さんたちの城から去る時には魔界でも存在しえない超ド級の防具【エターナルホワイト】が完成したのだった。


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