第165話 ビッグニュース

「おいっ、煽ってどうする!?」






「いや、だって魔剣邪ぁ~を馬鹿にするから。てへっ!」






「まぁどうせ戦う事にはなってただろ? 手加減できるような相手でもないし、倒しちまっても文句はないよな? レッド。 ていうかそんなこと言ってる場合じゃねぇな。来るぞ!」






赤タイツとピンクタイツと黄タイツが呑気にそんなことを言っているのに構わず俺はピンクタイツへと向かい斬り込んだ。




口調と体型から察するにピンクタイツは女の可能性が高い。


が、俺は比較的男女平等主義者である。




理由がなければ少し気は引けるが明確な理由があるのならば俺は女相手でも躊躇はしないのだ。




ピンクタイツへと斬り込むと、俺とピンクタイツの間に赤タイツが割って入り、俺の振り下ろした剣を赤タイツはいつの間に出していた剣で受け止める。






「く、やはり強い」






そんな事を言いつつも赤タイツは俺の剣を見事に受け切って見せる。


並の腕、並の剣では到底できない芸当に俺は素直に赤タイツを心の中で称賛する中、赤タイツは他のタイツ達に指示を飛ばす。






「ピンク! グリーン! お前達はレナザード殿達を安全な所までお送りしろ! クドウの相手は俺とイエロー、ブルーでする!」






その指示だけで全てを理解したのかピンクタイツと緑タイツはレナザード達の元へと一瞬で飛び上がった。






「逃がすか! ピンクタイツ! あと忘れてたが、母さんのストーカー共!」






レナザードとクロナもピンクタイツと緑タイツとなにやら言い合いをしているが、そんな事に構わず俺もレナザードの元へと飛び上がろうとしたその時。






「逃がさないのはこっちのセリフだ。魔……クドウ!」






俺の動線を遮るように黄タイツが空中から俺に向けて巨斧を振り下ろしてきた。






こいつもか。






どう考えても隠しどころがなかった黄タイツの巨斧を見て俺は確信する。




こいつらも異次元空間に手を突っ込めるらしい。




ていうかお前ら全員、武器はクソだせぇ剣で統一されてただろ? なんで斧使ってんだよ!






ギィーン






俺の剣と黄タイツの巨斧が空中で衝突し、大きな火花を散らしながらけたたましい衝突音を周囲へと轟かせた。


そんな中、「えっ、ちょっとまだ話を」という声が聞こえ、俺が一瞬だけレナザード達の元へと視線を向けると「悪いようにはしませんから早く早くぅ」とピンクタイツと黄タイツがいつの間にか展開していた転移門の中へと誘導している最中だった。






「余所見はいけないな」






声が聞こえ、そっちを振り返ると、青タイツはいつの間にか取り出した双剣といつの間にか周囲に展開していた無数の剣を俺へと向けていた。






「神双剣乱舞!」






殺到する無数の魔法に対し、俺は黄タイツの巨斧を強引に弾き返すと、たまらずレナザードがいた反対側の巨大クレーターのへりへ飛び上がり退避する。




俺は慌てて、対岸のレナザード達の方へ視線を向けるとレナザード達は既にどこかへと消えた後だった。






「ピンクタイツだけでもどうにかしたかったが」






俺は改めて巨大クレーター内に残る色タイツ達を見る。






強いな。






タイツ以外は魔剣邪ぁ~の要素皆無だがタイツ一人を見ても今のアルジールといい勝負できるレベルに思える。


それに加え、見事な連携。


明らかにそこらへんの魔人のレベルではなく、人間界には存在しえないレベルの戦士たちだ。






「ていうか今更だけどお前らなんなの? なんであっくんと魔剣邪ぁ~を知ってんの?」






自分で言うのもなんだが、本当に今更な話である。




魔剣士あっくんに関してはまだ俺が魔王軍内で話したことがあったのでそこから漏れたと考えれなくもないが、魔剣邪ぁ~はそうではない。


俺はこの世界に来てから一度たりとも魔剣邪ぁ~の話などしたことがないので、アルジールはもちろん母さんですら魔剣邪ぁ~の名すら知らないのだ。




それ以前にこいつらの色タイツは完全に魔剣邪ぁ~の戦闘スーツを忠実に再現している。


恐らく俺でもここまで忠実に再現するのは不可能で余程の大ファンにでも協力してもらいでもしなければここまでの再限度に戦闘スーツを作成する事は無理なはずだ。




ここで俺はピンクタイツが出していた名を思い出す。






「……ミツキ。日本人か」






俺がぽつりと呟いた名に赤タイツがピクリと反応する。






「あー、申し訳ないがそれに関してはノーコメントだ。忘れてくれるとありがたいな」






どうやら赤タイツの反応を見るに当たりらしい。


恐らくピンクタイツが口を滑らせたという事だろう。






「あとできたらこれで停戦ということにしてもらえれば更にありがたい。俺達の目的は達したし、アンタもこれ以上戦う理由はないだろう?」






「いや、あるね」






「えっ? なくない?」






いけしゃあしゃあと都合の良い事を抜かす赤タイツを見下ろしながら俺は赤タイツを指差す。






「轟、お前だけでもボコって地面に這いつくばらせなきゃ俺の気が済まないんだよ。そんで魔剣士あっくんの武勇伝を聞かせてやる」






「えっ? 轟って俺の事だったの? 俺にはもっとイカした名前があるんだが」






赤タイツは驚いたようにそんなことを言うが俺の中では赤タイツ=轟なのだ。


俺にとってはそれ以上でもそれ以下でもない世界の真理なのである。




俺の戦意が衰えていないのを見て、赤タイツは少し悩んだ様子を見せてから俺に言った。






「うーん、仕方ない。これ以上暴れてアイツらに情報を与えたくないし、怖い竜のお姉さんがやってくるのも困るからな」






赤タイツは意味深な事を言うとポケットをまさぐり一本のワインボトルを取り出した。


そのワインボトルにはクロスされた聖剣の紋章が描かれている。






「まぁこういうことだ。アンタ、あの方には返しきれないほどの大きな借りがたくさんあるだろう? だからここであったことは誰にも絶対に話さないでくれ。これはアンタの為でもあり世界の為でもある」






ユリウスワインを取り出した赤タイツは意味ありげにそんなことを言ったが、赤タイツが言う言葉には大きな矛盾が一つだけある。






「お前らがユリウスの手下だって事は分かった。だが俺はユリウスに借りなんてないぞ」






強いて言うなら母さんがシラルークにやってきた時に時間稼ぎをしてくれたことくらいだが、そもそもアレはユリウスが勝手にやった事だし人間界を守るのは神として当然の義務だろう。


むしろユリウスのピンチを救ってやった事も考慮に入れると借り貸し無しでちょうどいいくらいの案件だったと俺は思っている。






「いや、そんなはずはないだろう。怖い竜のお姉さんの件や中和クリスタルの件、あとワインを勝手にかっぱらった件があるはずだ」






「……中和クリスタル?」






耳慣れないワードに俺が赤タイツへと聞き返すと赤タイツの隣にいた青タイツがぼそりと赤タイツに言う。






「それ言っちゃダメなやつだろ? レッド」






「えっ? そうなのか?」






青タイツに注意された赤タイツは驚いたように青タイツを見返したが、少しして何事もなかったように俺へと視線を戻した。






「まぁとにかく俺達は敵ではないって事で納得してくれたらそれで構わない。今回はこれでもろもろ勘弁してくれ」






そう言って赤タイツは俺へとユリウスワインをぶん投げ、俺はボトルが割れないように丁寧にキャッチする。






「もっとあるだろ? 全部寄こせ」






「えー、これは俺達の分なんだが」






「やっぱまだあるんだな?」






俺がそういうと、赤タイツは俺がカマをかけていただけだと気付いたのか一瞬無言になったが観念したのかポケットから出したユリウスワインを6本分続け様に俺へと投げつけた。




赤タイツは意外とチョロい奴らしい。


青タイツのがリーダーに相応しい気もするが、そんな事は俺には関係ないので気にしないことにする。




恨めしそうな視線が全タイツから向けられているような気もするがそんなことも気にせず俺は受け取ったユリウスワインを全て異次元空間へと放り込んだ。






「まぁ今回はこれくらいで勘弁しておく。ユリウスに借りはないが世話にはなったし、敵対する理由もないからな」






納得できない事は色々とあるが、まぁユリウスが絡んでいる事だしここくらいがちょうどいい落としどころだろう。——そう俺が思っていると赤タイツが言った。






「色々話せない事があるが代わりに一つだけ良い事を教えておく」






俺が剣を収める中、赤タイツがそんなことを言うのであまり期待もせずに聞いていると、赤タイツは衝撃的な事実を言い放つのだった。






「四天王だけど3日後に攻めてくるから早めに準備しておいた方がいいぞ」


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