第166話 密偵など存在しない

「四天王だけど3日後に攻めてくるから早めに準備しておいた方がいいぞ」






突然この赤タイツは何言ってんだ? と俺は思った。




確かにユリウスの配下ってことならブリガンティス軍のバカ兄弟2人と俺達のちょっとしたいざこざを知っていてもおかしくはない。




だが、仮にゾデュス、ガデュスの兄弟が無事に魔界にいるブリガンティスの所まで戻っていたとしても今からたった3日後で人間界侵攻を開始するなんて事を決定できるとは思えない。






「どういうことだ? ブリガンティスのバカな独断ってことか?」






仮に赤タイツの言う事が正しいとするなら可能性として一番高いのはそれだろう。


だが、その場合ブリガンティスの前には人類軍よりも早く同じ四天王であるアルレイラ軍が立ちはだかる。


ミッキーはどう出るかは俺にも分からないが、ミッキーは人間界侵攻にあまり興味を示していなかった事から考えてもブリガンティスの敵になるということは十分にあり得る。




最低でもアルレイラ軍、最悪の場合だとミッキー軍も合わせた四天王2軍を相手にブリガンティスは戦う事になるのである。


いくら何でもブリガンティスがそこまで馬鹿な決断をするとは俺には思えないのだ。




俺のそんな予想差し置いて赤タイツはまたも予想外過ぎる言葉を返してきた。






「いや、四天王全軍による人間界総攻撃だ。アンタはそれまでに冒険者達を集め四天王軍の攻撃に備えなくちゃならない」






「全軍? ありえないだろ? ミッキー軍はともかくとしてアルレイラがそれを許すとは思えない」






俺がそういうと赤タイツは少し言いづらそうに更に続けた。






「ミッキー、アルレイラとも人間界侵攻作戦に同意したよ。表面上はな」






「表面上は?」






「あぁ、アルレイラの真の狙いは魔王ギラスマティアを討ったSSS級勇者クドウ及びアールへの報復……いや、復讐だな」






「はぁ?」






SSS級勇者という称号?からして意味不明だが、それ以上にSSS級勇者クドウ(多分俺の事?)が魔王ギラスマティア(絶対に俺の事)を討ったというのが俺には理解できなかった。






「いや、意味が分からんのだが? クドウは俺だしギラスマティアも俺の事だぞ。多分な」






「それは知ってる。あの方が直々にそのようにしたのだからな。……今日の事だがアルレイラ、ミッキーが人間界侵攻に抗議するためブリガンティスの城へとやってきたんだ」






なるほど。流石にアルレイラは仕事が早いな。


そんなことを思っていると赤タイツは更に続ける。






「その会議の最中に魔人ゾデュス、魔人ガデュスが帰ってきた」






「それはブリガンティスにとっちゃ最悪のタイミングだったな」






ブリガンティスの城でブリガンティスの人間界侵攻に抗議にしに来たアルレイラがいる最中にその原因であるゾデュスガデュスが帰還したというのだから。


しかも成功したのならまだしも作戦は俺達の知る通り大失敗である。




作戦は俺達に阻止され、残った魔人の20人も母さんによって跡形もなく消し飛ばされた。


ゾデュスとガデュスが無事帰還できたことがブリガンティス軍にとって唯一の不幸中の幸いだったことだろう。






「だが、それだとアルレイラとミッキーに鼻で笑われて終わりだろ。俺の話が出てくるにしてもなんで俺が魔王ギラスマティアを殺したって事に繋がる?」






ギラスマティアとしての俺が魔界から姿を消したのは事実だが、母さんが勘違いしていた様にどちらかと言えばクドウとしての俺よりもまだユリウスが容疑者として候補に上がりそうなものだ。


実際、俺が姿を消す少し前、魔王城内でユリウスの所在を聞きまくってたわけだしな。






「……それが魔人ゾデュスと魔人ガデュスはアンタらとの戦いに敗れた後、一人の魔人に出会いそのままブリガンティスの城へと連れ帰ったようだ。その魔人がアンタの事を人間界の秘密兵器SSS級勇者で辺境に住む魔人達を密かに倒し続けて力を蓄え、魔王ギラスマティアと魔人アルジールを倒したと証言したらしい」






ツッコみ所満載な内容だが、俺はとりあえずまるでその場にいたかのように詳細を話す赤タイツにツッコミを入れる事にした。






「お前ら、魔王軍内に密偵入れてるよな?」






「え? い、いや密偵なんてい、入れてないぞ」






確実に入れてるな。


まぁもう俺には関係のない話なのでスルーするが。






「ていうか人間界の秘密兵器SSS級勇者ってなんだ? 俺は魔界辺境なんて荒らしまわってないし、全部無茶苦茶だろ。アルレイラがそんな話を信じたのか?」






そんな話をあの冷静なアルレイラが信じるとも思えず俺がそう言うと、赤タイツは答えた。






「その魔人が天……ハルピュイヤ系魔人だったのが問題だった。ブリガンティス軍は色々な種族で構成されているが、龍神族系とハルピュイヤ系の魔人は一体も入っていない。


龍神族はアルレイラ軍アルジール軍、ハルピュイヤ系魔人はほぼミッキー軍所属だからな。内容自体は真実を知る者から考えてみればアンタの言う通り無茶苦茶だが、魔王ギラスマティアがいなくなったタイミングとアンタが人間界に台頭をし始めたタイミングも一致したことも併せてその魔人の報告は真実としてアルレイラに受け入れられたようだ」






「アルレイラが?」






確かにブリガンティスが龍神族系とハルピュイヤ系魔人を軍団に入れない事は俺でも知る有名な話でその魔人がブリガンティスの配下ではないと判断したまでは分からないでもないが、あの冷静沈着なアルレイラが早々にそんな出鱈目を真実だと決めつけるものだろうか?






「まぁ信じる信じないはアンタ次第だが、確かに伝えたぞ。只でさえあの方からの報酬を没収された上にこれ以上の労働は割に合わんからな」






赤タイツはそう言うと割と大き目サイズな直径2mほどの転移門を作り出した。






「ではな、アンタ達が四天王に勝つことを祈っているよ」






そう言い残し、赤タイツ、青タイツ、黄タイツが転移門の中へとそそくさと入って行くのだった。






「……で、アンタは行かなくてよかったのか?」






転移門が閉じ、他のタイツ達は帰って行ったというのにその場には茶タイツ一人が取り残されていたので俺はそう尋ねた。

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