第164話 色タイツ

一瞬不覚にも頭が真っ白になってしまった俺だったが、すぐに冷静さを取り戻し、6人いるほぼ全身タイツを履いただけの奴の内の一人を激しく睨みつけてこう言った。






「おい、轟、てめぇ、この野郎」






俺が睨みつけてやったのは赤タイツ、青タイツ、緑タイツ、黄タイツ、ピンクタイツ、茶タイツといる内の赤タイツの男。




奴こそが母さんや日本中のマダムを誑かし、俺が少年時代一番大切にしていた大事なモノを奪った張本人なのである。




俺が恨めしそうな視線を向けると、赤タイツはわざとらしくキョロキョロと周囲の他のメンバーの顔を見渡した。






「トドロキ? そんなやつメンバーにいたか?」






そんな赤タイツの問いに青タイツが。






「いや、そんなやついないだろ。ていうか世界中見て回ったがトドロキなんて名前は聞いた事がない。おい、新入り、聞いたことあるか?」






そんな青タイツの問いに茶タイツの男が答える。






「いや、ありませんな。トドゥルキーならば知り合いにおりましたが」






「って! 今はそんな話してる場合じゃないでしょ!」






赤タイツ、青タイツ、茶タイツの話に痺れを切らしたのかピンクタイツが3タイツにそんな喝を入れる。






「いやだって、魔——クドウが訳わからん事言うから」






赤タイツが言い訳っぽく言うと今度は緑タイツの男が口を開く。






「ピンクの言う通りだ。今は始祖エルフ、レナザードをこの場から引き離す事に第一に考えるべきだ」






「つうか、クドウをこの場で倒しちまった方が早いんじゃねぇか? 今なら6人がかりで倒せるだろ」






緑タイツの言葉に黄タイツがそんな事を言い出すと赤タイツが黄タイツへと厳しい視線を向ける。






「それはあの方からの指令にはない。グリーンの言う通り、今はレナザード殿をこの場から引き離す事が先決だ」






赤タイツは他のメンバーにそう言うと、俺の方へと向き直る。






「勇者クドウ、トドロキという者に心当たりがなくて申し訳ないが、この場は私の顔に免じて引いてはもらえないだろうか? 我々はあなたの敵ではない」






「顔も何もお前ら顔も殆ど戦闘スーツで隠れてて分かんねぇだろ」






全身タイツとはそのままの意味で体のほぼ全てがタイツで覆われていて、顔ももちろん例外ではなかった。


目元すらサングラスのようなレンズ?みたいなもので覆われており視線すら顔を向けている方向でしか判断できない。




すると何を勘違いしたのか赤タイツが誇らしそうな口調でただの色タイツの自慢をし始めた。






「ふふ、カッコいい戦闘スーツでしょう? この戦闘スーツはあるお方の手ずから作られた特注品で素材は——」






「は? いや、クソダサいからそれ。あっくんの黒衣の戦闘服こそ至高だから」






俺が黒タイツの言葉を遮り、魔剣邪ぁ~のクソダサい戦闘スーツという名の色タイツを否定すると色タイツ達は色めき立った。




おおよそ図星を付かれてぐうの根も出ないのだろうと俺が思っていると、ピンクタイツが絶対に言ってはならない事を口にした。






「あ~、あっくんってアレだよね? 中二病満載でご都合主義のクソアニメだよね? ミツキ様が言ってたよ? アレの何がおもろいのか分かんないってさ」






ピンクタイツがそう言った瞬間、俺の中で何かがプツンと切れた音がした。






「……お前らやっぱり敵だわ。全員、地に這いつくばらせた後、魔剣士あっくんの伝説を読み聞かせてやるよ。光栄に思うんだな」






俺はそう言って、色タイツ達のいる巨大クレーターに向けて地を蹴るのだった。


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