第163話 最終話 決戦、宇宙怪獣王メルゲゴラス

これはまだ俺が異世界転生をする前、日本に住んでいた小学3年生だった頃のお話。






「ねー、お母さん」






俺が話しかけると、同じリビング内で洗濯物を畳んでいる母は優しい笑顔で俺に聞き返す。






「なぁに? ひーくん」






「なんで魔剣士あっくん最終回なの? まだ宇宙怪獣王メルゲゴラスが出てきてもいないのに」






そう言う俺の視線の先にあるテレビには当時絶大な人気を博していた『魔剣士あっくん』の最終シリーズ宇宙怪獣死闘編、第168話が終わり、次回予告が流れている最中だった。




宇宙怪獣王メルゲゴラスとは全宇宙に存在する全ての生命体の敵であり、メルゲゴラスが地球へとやってきて人類に攻撃を仕掛ける前にあっくんはメルゲゴラスが住む惑星メルゲゴラスへと向かわなければならなかったのである。




今はそのために惑星メルゲゴラスへと向かうための亜高速船を作っている最中だった。




なぜか今回から前シリーズ魔界死闘編で倒したはずの魔王の配下だった魔鋼技師ゼルベが亜高速船作成に参加する事になり、ようやく亜高速船が完成しそうな所で今回の話は終わった。




つまり次回169話から宇宙怪獣王メルゲゴラスを倒すための宇宙旅が始まるのである。




だというのに、俺の目の前のテレビの画面には「次回、最終話 決戦、宇宙怪獣王メルゲゴラス」とデカい文字で映し出されている。




ちなみにだが、前シリーズの魔界死闘編では魔王が人類へと宣戦布告し、あっくんが魔王城へと旅立ってから魔王を倒すまでに50話もの歳月がかけられていたのである。






「どういうこと? 宇宙って広いんだよね? ゼルベが「短距離ワープ機能もつけてやるじゃよ! げへへへへ!」って言ってたけどそれにしたっておかしくない?」






俺が知っているような星でも地球から何万光年という距離がある星があるが、惑星メルゲゴラスそれらよりも遥か遠くに離れた星なのだ。




短距離ワープがどれ程のものかは知らないが短距離というくらいだから一気に惑星メルゲゴラスまで飛べるわけがないことくらい子供の俺にだって分かる。




すると、母が洗濯物を畳むのを中断して、近くのテーブルの上に置いてあったノートパソコンに手を伸ばす。


カタカタと何かを打ち終わった母はくるっとノートパソコンを俺の方へと向けた。




俺がノートパソコンを確認すると一番上の方に『今季子供向けアニメ最新視聴率』の文字があった。




何かと思い俺が更に画面と確認すると題名の下には俺が知るアニメの題名と〇〇、〇%という数字がずらーっと並んでいる。




意味がよく分からないまま俺は更に下へと視線を下ろすとそこには『魔剣士あっくん 宇宙怪獣死闘編』の文字と共に5,6%という数字が書いてあった。




そして、俺が『魔剣士あっくん 宇宙怪獣死闘編』と5,6%という文字を見つけたとほぼ同時に母は小さな声で言った。






「悲しいものね。最高視聴率46,6%という頭のおかしい視聴率を誇った怪物作品が今では5,6%。流石のあっくんも時代の流れとスポンサーの圧力には勝てなかったようね」






そう言って母はなぜか窓の外を悲しそうな視線で見つめているが俺には意味が分からない。






「えっ、どういうこと? 視聴率? スポンサー?」






俺が戸惑う中、母は更にノートパソコンをカタカタと叩いて俺に画面を向ける。






「魔剣戦隊魔剣邪ぁ~?」






俺が見たノートパソコンの画面の中央には『魔剣戦隊魔剣邪ぁ~』の文字がデカデカ映し出され、5人の登場人物らしき5色の戦闘服を身に纏った男女が各々にポーズを取っている。






「ここを見て」






俺は母に促されて下の方に書いてあった文字へと目を向けるとそこには「毎週月曜17時~17時30分と書かれている。






今は月曜の17時30分。






正に魔剣士あっくんの放送時間とぴったり一致する。






「……じゃあ魔剣士あっくんは……」






俺は言葉に詰まる。




これ以上は何も言いたくはなかった。




魔王にすら勝利したあっくんがこんなほぼ5色のタイツを履いただけの奴らに……。




だが、そんな俺に母は無情にも告げる。






「えぇ、そうよ。あっくんは負けたのよ。魔剣戦隊魔剣邪ぁ~にね」






母がそう言った瞬間、俺を絶望が支配した。




3年以上の長きに渡り俺と共に歩み続け、時には励ましてくれた魔剣士あっくん。


そのあっくんが来週月曜を最後に俺の前から姿を消すというのだから。






「でも安心して。ひーくん」






そんな俺に母は笑顔を向けた。




こんな絶望の中に希望などあるのか?




そう思いつつ俺は母の言葉を待つとなぜか母はどこからか大きな箱を持ってきた。




その箱は包装紙に包まれており、近所の大型電気量販店のシールが貼ってある。






「なにこれ?」






俺が母に問うと母は無言で包装紙を破り捨て、箱を開けると中からは大きな機械が出てくる。






「なにこれ?」






再度俺は母に問う。




すると母は満面の笑みで俺の質問に答えた。






「最新のブルーレイレコーダーよ。これがあれば毎週自動録画も自由自在。見逃して、友達から「えー! お前、今週見てねーのー?」と仲間外れにされることはなくなるわ。それに録画し忘れて轟君と会えないなんてことは絶対ないのよ」






「轟君って誰?」






聞いた事のない名前に俺がそう母に聞き返すと母はこれまで見たことのないような笑顔で更に言った。






「ジェニーズが生んだイケメン最高傑作にして魔剣邪ぁ~レッド担当のイケメン俳優。それが轟ヒカル君よ」と。






その後、月曜17時~17時30分頃の時間帯には日本中の街から主婦が姿を消し、ちょっとした社会現象を起こす事になるのだがこの時の俺には知る由もない事だった。


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