第162話 最大最悪の敵
なんでこいつはこんなに偉そうなんだ?
教えていただけませんか? だろ。この状況なら。
その点でいうならクロナの方がまだ俺に対して礼儀を弁えているように思える。
そもそもなんでこの弱そうな男がクロナよりも上に立っているかが俺には分からない。
俺は目の前のレナザードの言動にイライラしつつ、レナザードは無視してクロナに聞き返す。
「で、何が目的なんだ? 確かに俺はフィーリーアさんの知り合いだが目的も素性も分からん奴に居場所を教えるつもりはない」
まぁ仮に母さんを害するつもりだったとしてもこの2人がどう頑張ろうとそんな事は不可能なのだが、だからといってペラペラと居場所を喋っていいという事にはならない。
それに母さんは力こそアレだが、結構人のいう所を鵜呑みにして暴走する気がある。
姉さん達もいるから何を言われても大事になる事は多分ないだろうが、それでもリスクは出来るだけ避けたいのが正直なところだ。
「なんだ? 言えないのか?」
質問に答えないクロナに俺がそう詰め寄ると、クロナは少し迷った様子を見せたが観念したのか話始める。
「——このままでは世界が危ないのです」
「は? 世界? それはお前達がいた世界の事か? それともこの世界の事か?」
そもそもこいつらが異世界からやってきたという話から俺はあまり信じてはいないが、それを言い出すと話が進まないので俺はクロナにそう聞き返す。
まぁ普通に考えればクロナ達がこの世界にやってくる前にいた世界がという事だろう。
だからクロナ達は母さんに助けを求める為にこの世界へとやってきた。
クロナの話を無条件で全て信じるのならばそんなシナリオが一番しっくりくる。
ていうか仮に俺達がいる世界の事を言っているのならまったく無駄な心配だろう。
魔王軍は俺が撃退する予定だし、万が一に俺が負けたとしても人類が大ピンチになるというだけで世界が滅ぶという事はありえない。
(それによくよく考えたら俺が負けても人類が敗北する事はありえないか。いくら俺が言い聞かせたとしても俺が死ねば母さんはブリガンティス達を許さないだろうからな)
結論としてどんな危機がこの世界を襲ったとしても母さんがいる限り、この世界が滅ぶ可能性は限りなく0に近いという事だ。
つまり危機が迫っているのはクロナ達がいた世界。
そう結論付けた俺にクロナは突拍子もないことを言い放つ。
「いいえ、滅ぶのは全ての世界です。このまま何もせず放置すれば、世界中にいるあらゆる生命体は死に絶えます。それを防ぐためにもフィーリーア様の力が必要なのです」
荒唐無稽な妄想だ。だが、それでも俺はそれに関しては触れず更に聞き返す。
「で、俺達は何に滅ぼされるって言うんだ?」
「……そ、それは」
一番肝心な俺の質問にクロナは言い淀み、何も答えない。
(話にならないな。こいつらの言う事には何の具体性もない上に、現実味すらない。やっぱり母さんを何かに利用するための嘘か)
ここで俺がこの世界に転生する少し前に母さんがとあるストーカー野郎に因縁をつけられて大喧嘩を繰り広げたという話をぽろっとアクア姉さんが話していた事を思い出す。
確か……ゾラス、ゲラス……なんかそんな名だった気がするが、流石に900年以上前の話なので記憶が曖昧になっている。
アクア姉さんが言うにはちょっかいをかけた母さんの逆鱗に触れたそいつは母さんにフルボッコにされた後、どこかに逃げ隠れて1000年以上姿を見せていないらしいが、やる事が汚く、狡猾な性格をしているからギー君も気を付けてねとの話だった。
そんなアクア姉さんの話を思い出し、俺の中で話が一つにつながった。
(アレか、こいつら、姉さんが言ってたストーカー野郎の仲間か?)
あまり狡猾とは思えないが、それでも母さんの名前を知っていて、俺と騙しにかかっている点から見てその可能性はかなり高そうに思える。
ならばやる事は一つだ。
「やはり信用できないな。すまんが、このまま拘束させてもらう。悪く思うなよ」
俺がそう言うがクロナは何も答えない。
その代わりかは分からないがレナザードが喚き散らすように俺に言う。
「貴様、クロナの話を聞いていたのか! もう時間がないのだ! いいからさっさとリアの居場所を言え!」
レナザードはそんな喚き声を上げるが、状況が理解できていないのはこいつらの方だろう。
俺の仲間を何人も倒した上にこいつらは俺を騙して母さんを利用する気でいる。
そんなことを許すほど俺は甘くない。
(あー、母さんがブチ切れた理由がよく分かったわ。俺もキレそうだわ。うん)
そうしてブチ切れ寸前の俺がクロナとレナザードを捕らえるべく動き出そうとした所で——。
「……なに?」
突如として俺とレナザード達の間にある巨大クレーター内に複数の転移門が同時に出現したのである。
転移門の数は全部で6つ。
そして、少しして転移門の中から6人の人影が姿を現した。
その姿を見た俺は驚きのあまりレナザード達の事など頭の中から掻き消えてしまう。
「……そんな馬鹿な。……ありえない」
目の前に現れたそいつらはこの場にいるはずがない俺にとって最大にして最悪の敵だったのである。
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