第158話 主人公は遅れてやってくる
「終わったか」
アルジールはそう呟いて、先程まで広場だった場所を覗き込む。
金色の竜が降り注いだ広場は地面がかなり深く抉られたクレーター状の大穴が開いていた。
アルジールが放った魔法は第一級魔法『雷神竜』。
単発の魔法ながら広範囲に超高威力の竜を模した雷撃を叩きこむそんな魔法だった。
弱点としては雷系の魔法としてはあまり速度が出ず、普通に放ってもクロナのような高機動戦闘を得意とする相手には当てづらい点があげられる。
正直アルジール的には『雷神招来』の方が使い勝手が良く、あまりこれまで出番の少なかった魔法だった。
(要は使い様ということだな。それにこれはクドウ様のお気に入りでもあるからな)
「さて」
アルジールは巨大なクレーターを挟んだ場所にいたレナザードを見る。
「次は貴様の番だ。覚悟は良いな?」
アルジールがそう問いかけるが、レナザードからの返事はない。
「どうした? 今更怖気づいたのか?」
更にアルジールが尋ねると遂にレナザードは突然笑い声を上げ始めた。
想定外すぎる出来事におかしくなったのかとアルジールは一瞬思ったが、レナザードは次の瞬間こんなことを言い始めた。
「ふははは、まさかクロナとここまで戦えるとはな。少々貴様の事を見くびっていたようだな」
「身内の敗北が受け入れられないのか? 貴様の頼みの部下は消した。もう一度言うが今度はお前が消える番だ」
正直アルジールの残存魔力はもうあまり残ってはいない。
だが、アルジールにはまだ剣がある。
レナザードを直感的にクロナよりも格下と見ていたアルジールからすれば今の状態でもレナザードは決して勝てない相手ではない。
だが、アルジールの言葉を無視してレナザードは話を続ける。
「それでもやはりリアには遠く及ばんな。貴様がどう頑張った所で1分と保たないだろう」
(さっきから何を言っている? クドウ様がお越しになる前に早々に始末してしまった方が良いな)
アルジールにはレナザードが何を言っているかさっぱり分からない。
こんな輩相手にクドウの手を煩わせわけにはいかない。
そうなる前に始末してしまおうとアルジールが飛行魔法を行使しようとしたその時。
「そうだ。一つだけ忠告しておこう」
レナザードがそう言った。
レナザードにそう言われ、アルジールはクドウの言葉を思い出す。
——自己紹介中とか大事そうな場面では相手を攻撃してはいけないんだ。分かるか? 分かるよな?
特にレナザードの遺言になど興味はなかったアルジールだがクドウの言葉は絶対である。
「なんだ? 言ってみろ」
「先程の戦いは見事だった。足元に視線を引きつけてからのおとりの集中攻撃。そしてトドメの第一級魔法。……だが、人の話を聞かないのは減点だ。仕留め損ねた上に自分が同じ手で敗れるのだからな」
「……なに?」
その時だった。
アルジールは上空からすさまじい速度で近づいてくる何かに瞬間的に気づき、上を見上げるとそこにはアルジールによって跡形もなく吹き飛ばしたはずのクロナが眼前にまで迫っていた。
そしてクロナが振り下ろした剣はアルジールの額に目にも見えない速度で直撃し——。
ばたん。
アルジールは何の抵抗もできず意識を刈り取られその場に崩れ落ちる。
それとほぼ同時にクロナは凄まじい落下速度だったのにも関わらず見事な着地を見せるとすぐさま立ち上がった。
「やったか?」
立ち上がったクロナにレナザードがそう話しかけると、クロナはなぜか驚いたように剣を見つつそれに答える。
「さてどうでしょう? 一応峰打ちにしたのですが。まぁどのみち当分立つことは不可能でしょうね。それこそフィーリーア様でもない限りは」
クロナが倒れているアルジールの額を確認すると、出血こそしているものの傷口自体は浅く普通の人間から考えればありえないが、生きていても不思議ではない状態に思えた。
(なんという頑丈さだ。まさか攻撃したこちらの剣がダメになるとは……)
クロナが剣を確認すると、刀身全体にヒビが入り使い物にならなくなっていた。
かの楽園でも10指に入るほどの名剣であったのにもかかわらずである。
仮に刃で斬りつけていたら完全に折れていただろう。
クロナからすれば奥の手まで使わされ、予想外過ぎる事の連続だったがこれで本当に決着である。
「まぁなんにしてもこれで邪魔は入る事はないでしょう。このままクドウを待つことにしましょう」
クロナの提案にやはりレナザードは難色の表情を示している。
「まだそんなことを言っているのか? それ以前にこの惨状を見てそのクドウは黙って話を聞くのか? どうせまた話を聞かず攻撃してくるだけだろう」
町の破壊自体は100%アルジールによるものだが、クロナは既にガラン、アリアス、アルジールとクドウの仲間を3人も倒してしまっている。
当初は問題なくクドウに話を聞けると思っていたからレナザードはここにやってきたのだ。
限りなく可能性が低い上に面倒を起こしてまでここに留まるのにレナザードは反対だった。
「どうせリアの事など知っているわけがない。面倒な事になる前にさっさと魔界へ——」
とレナザードとクロナが言い合いを続けようとしたその時。
「あー、揉めてる所悪いんだけど、アンタらに選択権なんかないよ」
クロナとレナザードが割って入った声がする方を振り返ると、そこには黒髪黒眼の少年——勇者クドウが笑顔で立っていた。
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