第157話 金色の竜
(なんだ? 逃げている?)
自身から少し離れた位置からクロナとアールの戦いを見ていたシステア達がその場から離れ始めたのにレナザードは気が付いた。
クロナと同じく魔力がないレナザードがあの通信を聞けるわけもなく、少し不審に思ったがすぐに思い直した。
(まぁあの者達がここにいても邪魔なだけだからな)
確かにその通りであり、システア達がここにいたとしてもできる事はアルジールの勝利を祈ることくらいのものだった。
だが、システア達がこの場から離れ始めたのは自らの意志ではなくアルジールからの指示だという事にレナザードは気づかなかった。
それから更に1分ほどの時間が経ち、アルジールはシステアが十分に退避したのを確認するとクロナに告げた。
「そろそろ終わりにしてやろう。言い残した事はあるか?」
広場で戦いを始めて途中からほぼ無言で戦い続けていたアルジールのそんな言葉にクロナは少しだけ警戒心を抱きつつ答える。
「ありませんね。このまま戦い続けたとしても勝つのは私ですから」
クロナはレナザードのような自信家ではないが、必要以上に謙遜することもしない。
今言った言葉は始祖エルフであるレナザードに仕え続けた長い時から得た経験から来る只の予想であり、慢心や過信などから来る言葉ではなかった。
実際にこのまま戦い続けたとしてもアルジールの攻撃がクロナに届くことは一生ないだろう。
だが、それでもアルジールは笑みを溢す。
「いいや、勝つのは私だ。それがなぜだが分かるか?」
そうアルジールが問う最中もアルジールの雷嵐流と雷神剣がクロナを襲う。
それをこれまでと同じように避けながらクロナはアルジールの問いに答える。
「分かりませんね」
そう即答したクロナをアルジールは愚かに思う。
それはこの世界では常識だった。
魔人アルジールこそこの世界最強の存在であり、その魔人アルジールを倒した魔王ギラスマティアこそがこの世界の真の最強の存在であることは。
だがそれでもアルジールはあえて宣言するのである。
「では教えてやろう。——クドウ様以外に私に勝てる者など存在しないからだ!」
クロナにそう返したアルジールはクロナの足元を払うような形で数本の雷神剣を放つと、クロナは宙へ飛んだ。
(かかったな)
アルジールはこの時を待っていた。
いくら回避能力に優れたクロナといえど空中での回避には限界がある。
あえてアルジールはこれまではクロナがジャンプで回避するような軌道での攻撃はしてこなかった。
それは回避困難な空中で最大火力で一気にカタをつける為にアルジールがあえてそうしていたのである。
「終わりだ。死ね!」
これまでバラバラに放っていた雷嵐流が飛んでいるクロナ目掛け収束され、凄まじい威力となって迫る。
だが、その常軌を逸した威力の攻撃を前にしてもクロナに焦りの色はなかった。
「そういうことですか」
クロナにとってそれは予想を超えるものではなかった。
クロナはこれまでと同様に剣を構え——そして。
キィーンと甲高い音と凄まじい閃光を放ちながらクロナの剣と収束された雷嵐流が激突した。
衝突した瞬間一瞬止まったかのように見えた光が次の瞬間数条の光に分かれてクロナの後方へと消えていく。
(……終わりですね)
勝敗は決したとクロナは確信した。
今の攻撃が勇者アールの最後にして最大の攻撃だったのだろう。
恐らくもうほとんど残存魔力は残っていないとクロナは予想した。
流石に降参するだろうとクロナはアルジールの表情を確認すると——。
(——驚いていない? なぜ?)
最後の攻撃をあっさりと防がれた者の表情にはとても見えなかった。
そしてなぜかアルジールの視線が少し上を向いていることにクロナは気付く。
「少しタイミングがズレたか。まぁ問題はないだろう」
なぜかアルジールはそんな事を呟いている。
クロナにはなんのことか分からない。
そしてクロナが着地したとほぼ同時にレナザードの声がクロナの耳に届く。
「——上だ!」
レナザードの声が響く中、天からほぼ広場を覆いつくすほど巨大な金色の竜が降り注いだのはそのすぐ後のことだった。
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