第151話 そんな使命は与えてない

「ちょ、アールの兄貴、不味いですって!」



アルジールに遅れてプリズンが冒険者協会の中へと入ってきた。



実の所、アルジールとプリズンはレナザードとクロナが言い争っていた頃くらいから外から様子を伺っていた。


今まで冒険者協会内に入らなかったのはプリズンの制止があった為でこれまではなんとかアルジールを抑えていたのだが、レナザードの暴言で遂に抑えが効かなくなってしまったのだった。



「クドウの兄貴を待つって決めたじゃないですか!」



プリズンの声にアルジールはゆっくりと振り返る。



「……私程度の者が指摘するのもおこがましいが、クドウ様には唯一欠点がある。それが何か貴様には分かるか?」



突然そんな事を言い出すアルジールにプリズンだけでなくクロナとレナザード以外の全ての冒険者の頭に?が浮かぶ。


クドウを見たことない者でもその凄まじさは伝え聞いて知っている。


システアの転移門よりも上位の転移魔法が使い、戦闘能力ではブリガンティス軍幹部を圧倒し、かの聖竜ですら説き伏せた勇者。


町ではアールの圧倒的女性人気によりやや影の薄い存在になりつつあるが、それでも冒険者を生業とする者ならば勇者クドウこそが最強の勇者だという事は周知の事実なのだ。


だが、シラルークでは一番付き合いの長いプリズンはアルジールに改めて問われて気づく。


唯一クドウがアールに明らかに劣っているモノを。



「……顔ですね?」



「……どうやら死にたいようだな」



自信満々に言ったプリズンにアルジールの魔力と殺気の入り混じった波動が突き刺さる。


それだけでプリズンは気を失いそうになるが、なんちゃってB級冒険者の意地か、なんとか踏みとどまった。



「ちょ、嘘、嘘、嘘! 黒髪にあまりシャープじゃないお顔がいいんですよねー!」



「ふんっ、死にたくなければつまらん冗談は程々にしておくのだな」



アルジールはそう言ってプリズンから視線をレナザードへと移す。



「貴様か? 恐れ多くも私の前でクドウ様への侮辱を口にした愚か者は」



今にも襲い掛からんばかりの雷鳴轟かせアルジールはレナザードに問うが、レナザードはそんなアルジールの怒気に意を介した様子も見せず言い返す。



「ん? 侮辱したつもりはないが? 私はただ考察しただけだ。この世界の勇者のレベルはあの程度のものだということをな」



「……そうか、素直に謝罪すれば許してやってもよかったのだが、生かして返すわけにはいかなくなったな。……クドウ様は謙遜が過ぎるのだ。御身がどれほどの力を持ち、偉大な存在であるかあまり理解されておられないのだ。その気になればいつでも世界を統一する事も可能だというのに」



世界最強の力を持ちながら、世を支配しようとしない。


魔界を統一し、魔王の座に君臨した時でさえそうだった。


世界中の誰も止める事のできなかった魔人アルジールと魔人ブリガンティスの戦いをいとも簡単に止めたというのにクドウはその時でさえ支配を望んではいなかった。


ただの武者修行。レベル上げだとクドウは頭を垂れる全ての魔人に言い放ったのである。


そうして魔界にいる名のある魔人の大半を倒し尽くし、特に望まずクドウは魔王となった。



「それをいいことに時折クドウ様に無礼を働く輩が現れる」



魔王討伐などと訳の分からない妄言を吐く歴代勇者達しかり厳しい処罰を与えられない事をいい事に何度も命令を無視するブリガンティスしかり。



「そんな輩をこの世界から全て消すのが私がクドウ様より与えられた使命なのだ。自身の行いを後悔しながら苦痛に悶えながら死ぬがいい」



「させると思いますか?」



そう言ってクロナがレナザードの前に立ち塞がり剣を構えるとアルジールは笑った。



「ふ、貴様らは本当に運が悪い。昨晩、クドウ様より許可が下りたのだ」



アルジールは昨晩、クドウに言われた言葉を思い出す。




もう勇者になったからある程度本気出していいよ。


あ、でも雷神招来は絶対使うなよ。即バレするから。



それはアルジールにとって待ちに待った言葉であった。これからは力を制御することなくクドウの為に力を使う事が出来るのだから。



「さて、蹂躙の始まりだ」

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