第139話 レナザード
時は少し遡り、クドウがフィーリーアと別れた直後のこと。
2人の男女がシラルーク近くの森の中を彷徨っていた。
「本当にこんなところにあの方がおられるのですか?」
女が問いかけると男は覇気のない声でそれに答えた。
「……恐らくな」
曖昧な男の返答を不可解に思ったのか女は更に問い返す。
「異界転移門を開いたのはレナザード様でしょう? なぜ分からないのですか?」
「仕方ないだろう。私は万全な状態ではなかった。その上での異界転移だ。あと言っておくが私が異界転移門を使ったのはこれが初めてだ。魔法が発動しただけで褒めて欲しいものだな」
「えっ? 初めてなのですか? リティスリティア様がなんの造作もなく連続で使用しておられた所を見た事があるのですが」
女が驚いたのを見てレナザードは呆れた表情で女を見返した。
「クロナ、お前はティアを何だと思っているんだ? 趣味で異界から転生者を引っ張ってくるような子だぞ。魔力総量自体は私もティアもそこまで差はないが練度が違えば同じ魔法でも魔力消費に差が出る事くらいはお前も知っているだろう?」
それこそがリティスリティアとレナザードの絶対的な差でもあった。
世界に存在する全ての魔法の全てを完璧な操作で操るリティスリティアと得意な魔法でしかその力を100%発揮できないレナザード。
普通に考えればある1分野の魔法だけであっても100%の力で魔法を行使するのは極々一部の限られた存在にしか許されない事なのだが。
「それに私がアレを使ったのは四大聖獣を全て召喚した直後だったのだぞ。あの時点で私の魔力は総量の2割を切っていた。だから足りない魔力をお前から借りたのだ」
「あぁ、そうでしたね。レナザード様ともあろう方がまさか人間の罠に嵌まって魔力をスッカラカンにされるなんてあの方も思ってもみないでしょうけど」
そう言うクロナ自身も異界転移を敢行するためにレナザードに全ての魔力を明け渡して魔力は完全に空になっていた。
だからこそ普段は道に迷うはずもない2人は道に迷っていたのだった。
本来のレナザードの魔力探知と空間認識魔法があればどんな高難度の迷宮にいきなり放り込まれたとしても道になど迷うわけがないのだから。
「ははは、確かにな。まぁ後はあの世界の魔王たちに任せるしかないだろう。私があの世界でできることはもうないからな。今は何としてでもリアを見つけなければ」
「……そうですね」
そんな事を話しながらレナザードとクロナは更に森の中を歩き続けると、遂にシラルークへと続く街道に出る事が出来た。
「レナザード様、フィーリーア様の反応があった町というのはどちらですか?」
女に問われレナザードは「うぅむ」と少し悩んでから東へ続く道を指差した。
「こっちだ」
「ではあっちですね」
「おいっ、違う。そっちではない」
クロナはレナザードの指示を無視して西に続く街道を歩き始めた。
クロナも最初はレナザードの指示通り動いていた。
だが、それに従った結果が数時間も森の中を彷徨うというものだったのである。
クロナは今になって知ったのだが、魔力を喪失して魔力探知、空間認識能力を失ったレナザードは極度の方向音痴だったのだ。
レナザード自身も自分の指示を無視し始めた途端、森から出る事が出来た事を分かっていたからか少し文句を言って大人しくクロナの後へと続くことにした。
その後も更に歩き続けると街道の先に町が見えてきた。
「やはり間違えていましたね」
クロナは別に嫌味で言ったわけではないが、レナザードは少しムッとさせてクロナに言い返した。
「逆の方向にも町があったかもしれないだろう。この街が当たりとは限らない」
「それを言い出したらそもそもちゃんとフィーリーア様がおられる世界にやってこられたかも怪しいのですけどね」
「それは多分大丈夫だと言っただろう。異界転移門を開いた時点ではまだ私の魔力感知も作動していたのだから。だが、その時に感知したのだが多分この世界には……」
「……なんですか?」
「ザラスがいる」
その名を聞いたクロナは切れ長の目をかっと見開いてレナザードに聞き返した。
「なぜザラス様が? フィーリーア様とザラス様は犬猿の仲でしょう? ラー様とリティスリティア様は何を考えているのですか?」
レナザードは少し考えてからクロナの問いに答える。
「もしかしたらラーはこの世界でリアにザラスを殺させるつもりなのかもしれない。あいつがラーの計画を知ってラーの計画に賛同するとは思えないからな」
「確かにそうかもしれませんね。レナザード様は……」
「ん、なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
クロナは「ラー様の計画に賛同するのですか?」と言おうとして口に出すのをやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます