第138話 3神
「それがわしの見た母の最後じゃった」
昔の事を思い出しながら話を語ったシステアだったが、1000年近く前の事だというのに今でも当時の記憶は鮮明に残っていた。
話して気持ちが少し楽になったシステアがふと周りを見渡すと。
「……えっ?」
ガランとニアを見たシステアは思わず驚きで声を出してしまった。
システアは話すのに集中して気付かなかったが、初めてその話を聞いたガランとニアがこれでもかというほどに号泣していたのだった。
「システアさんにそんな過去があったなんて。ずびっ」と柄にもなく止まらない涙をハンカチで押さえるガランに話が終わった途端「うぇーん」とシステアに抱きつくニア。
アリアスに話した時には少し悲しそうな顔をされただけだったので今のガランとニアの反応はシステアにとってもかなり予想外だった。
「あ、え、その、そんなに泣かんでも」
何を言えばいいのか困惑するシステアがそう言うと、ニアが抱きつくのを止めてシステアの手をしっかり握り締めた。
「システアさんが何者であっても私達はシステアさんの味方ですからね!」
「そうっス。俺達でシルベリアさんの仇を討つっスよ」
「あぁ、うん、ありがとうな、お前達」
システアはここまでの共感が得られるとは思っていなかった。
反対されるとは思わなかったが、システア一人の私的な理由で仲間を巻き込むのもどうかとも思った。
システアの仇は当時の魔王軍四天王であったエルフ女王シルベリアと悪魔王ベリルとその配下達を同時に相手取り葬り去った超常の力を持った竜なのだから。
「おぬしらが同じパーティーでよかった。あとはクドウさん達の協力も得られれば母の仇も討てるじゃろう。まぁでもこれはあくまでついでの話じゃ。そもそもその竜の正体自体掴めておらんし、魔族たちとの戦いに出てくる可能性もそんなには高くないしの」
できることならシルベリアを討った竜の正体に心当たりがないか聖竜に尋ねてみたかった。
あの長き時を生きる聖竜ならシルベリアを殺した竜に心当たりがある可能性が高いと思ったからだ。
だがそれでもシステアはクドウについていこうとは思わなかった。
怒れる聖竜がいる戦場でシステアがどうにかできるとは思えなかったのだ。
聞いても答えてもらえるとは思えなかったし、その場にいても聖竜と戦ったというクドウとユリウスの邪魔にしかならなかっただろう。
(まぁそもそもアール殿が同行を拒否された時点でわしがついていけるわけなかったのじゃが)
仮に『光の剣』の面々が生きているうちに竜と遭う事ができなくともシステアは一人ででも戦う
つもりだが、ガランとニアの申し出が嬉しかったのは本当の事だ。
できることなら『魔王』と『光の剣』が健在の内に竜との決着をつけたいとシステアは思う。
システアがそんな事を思っていると、ニアが手を上げているのが見えた。
「あのぅー、システアさんの話でちょっと気になった事があるんですけどいいですか?」
「なんじゃ?」
「システアさんの話に出てきた初代勇者の名前なんですけどユリウスって言っていませんでした? なんか凄く聞き覚えがあって神々しい名前だなって思ったりなんかして……」
「ん? ニアは知らんかったか? 3神の一人、黄金の神ユリウスは初代勇者ユリウスの事じゃぞ」
物凄いカミングアウトにニアとガランは「えっ?」と呟いた後、絶句してしまった。
ちなみにガランとニアが初代勇者の名を知らなかったのは無知だからではない。
人間界で初代勇者の名は極々限られた者にしか伝わっていなかった。
それは歴代ユリウス教関係者と冒険者協会関係者が故意に後世に伝えようとしなかったことが原因で1000年もの月日が経つにつれ人々の記憶から失われてしまったのだ。
ニアとガランの反応に面白くなったのかシステアは世界の秘密について更に話を続ける。
「もっと面白い事を教えてやろうか? ユリウス教は元々ユリウス教という名ではなく当初はマリア教と呼ばれておったのじゃ。初代聖女マリアの死後、人々が聖女マリアを神格化したことによってそう呼ばれておったのじゃ。あとな3神の一人癒しの神マリアは初代聖女の事じゃ」
もっと言えばシステアが小さい頃はまだユリウス教はマリア教という名ですらなかった。
聖女マリアの死が伝わった後、マリア教と名が変わり、その後数日もしない内にマリア教はユリウス教へと名を変えた。
当時のユリウス教の慌て様は未だにシステアの記憶に残っている。
人間界の町という町に届いた大型通信魔法、もはや神の声としか表現するしかないそれをシステアも耳にしていたのだった。
——もう何もかも馬鹿らしくなったわ。神は私、マリアではない。今後、教会はユリウスを神と崇めユリウス教を名乗りなさい。以上。
それが人間界全土に響いた神マリアの言葉だった。
その直後、遠くから男の声で「わっ、ちょっと待て! おいっ、どこへ行く! 機嫌を直せ! おいっ!」と聞こえ、その後更に別の男の声で「ははは、ずっと黙っていたお前が悪い。諦めろ」という声も届いていたが、当時のユリウス教の関係者にはそれどころではなかった。
ある者は「あんなものが神マリアなわけがない」と言い、またある者は「神の奇跡をおこなった以上あの声こそ神の声」と世界を2分するちょっとした争いが起きたほどだ。
その後、あの大型通信魔法自体の効果が大きすぎたのか「あれこそが神の意志」という事でユリウス教内で話が決まり、マリア教は数日で名をユリウス教と改めたのだった。
「つまり3神とはかつて初代勇者パーティーと呼ばれておった3人なんじゃ」
なんでもないかの事かのように言ったシステアの言葉をガランとニアはただポカンと聞いているしかないのだった。
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