第135話 システアの回想1
今より1000ほど前の人間界は現在よりもずっと国の数も少なく、人口も少なかった。
大国と呼べるほどの国は初代勇者が建国したエルナス王国くらいのものでエルナス王国に属さない人類の大半は小さな村規模で生活を営むごく小規模なものだ。
だが、それでも世界は変わりつつあった。
人類を支配していた魔人達の王を初代勇者ユリウスが討ったのを境にして。
初代勇者ユリウスは魔王との戦いの傷が元で死んでしまったが、勇者の壮絶な戦いが人類に希望を与えることなった。
人類はただ魔人に支配されるだけの存在ではないと初代勇者ユリウスは己の命を以って証明したのである。
システアが生まれたのはそんな頃だった。
数ある内の小さな村に住む優しい父と母の元、システアは生を受けた。
所属こそはエルナス王国ではあったが、当時唯一といっていいエルナス王国でさえ今ほど街道整備や領地運営は盛んではなかった。
魔王との戦いで多数の戦死者を出した上にそもそも人類はこれまで魔人に支配された歴史に彩られていたため、政事に不慣れだったということもある。
システアが生まれたのはそんなエルナス王国の辺境にある村の一つだ。
暮らしは決して裕福なものではなかったが、両親から沢山の愛情を受けていた育ったシステアにはそれでも幸せが感じていた。
そう、あの日が来るまでは。
その日もいつもと変わらない生活を送っていたシステア達が暮らす家に突如来訪者が訪れた。
「シルベリア様……」
そう言って、夕食中のシステア達の家に一人の女が入ってくる。
女が身につけている衣服も肌もボロボロで体中には自分の血か返り血かも分からない程にそこかしこに血がついていた。
だが、そんな状況でもシステアが気になったのは女の身体的特徴だった。
「長い耳、お母さんと一緒……」
そう呟きを漏らしたシステアに反応した女はボロボロの身体だというのに笑顔でシステアの頭を撫でる。
「貴方がシステア様。お母様によく似ておられる」
女はシステアの頭をひとしきり撫でた後、シルベリアと向かい合う。
システアには分からなかったが、それだけでシルベリアは何かを悟ったのか小さく表情を濁したように見えた。
「システア、ちょっと部屋に戻ってなさい」
父であるリンドがそう言うと、お盆に夕食の残りを載せて素直に自分の部屋に向かう。
必死に隠そうとしていたようだが、その時の父の表情は今までで一番怖かったのをシステアが今でもよく覚えている。
部屋に戻ったシステアはどうしてもリビングの様子が気になった。
システアの部屋からリビングは少し距離がある。
耳を澄ましたところでよく聞きとることはできないだろう。
「ママ、ごめんなさい」
システアはシルベリアに小さく謝った後、一つの魔法を行使した。
盗聴魔法。
システアが当時覚えていた数少ない魔法の一つだ。
システアがこの魔法を使用できることはシルベリアもリンドも知らなかった。
警戒さえしていれば簡単に防げる幼いシステアの盗聴魔法はなんの妨害も入ることなく、見事に成功することになる。
「——我らの隠れ里に竜が」
盗聴魔法に成功したシステアの耳に入ってきたのはそんな来訪者の女の一言からだった。
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