第133話 システアの秘密2

「あー、どこまで話したかのう? いっそ鉄の塊にしようって話じゃったかの?」



「エルフという種族がいたという話までですよ、システアさん」



「おー、そうじゃった。そのエルフじゃが、勢力争いに敗れたわけじゃないという話までじゃったな」



「しっかり覚えてるじゃないっスか」



ガランがそんな抗議を入れるが、システアは聞こえないふりをして話を続ける。



「エルフの女王は1000年前の初代勇者との戦いの時、魔王軍四天王の一角を担っておったのじゃ。そして、魔王の命令に従って勇者と戦い敗れた」



「ではエルフは魔界の勢力争いに敗れたのではなく勇者によって全滅まで追い込まれたのですね?」



「いや、そういう訳ではなかったみたいじゃの。母が言うには初代勇者はエルフを殺しまではしなかったそうじゃ。むしろ、魔人としてはかなり友好的に接していたらしい。敗れたエルフたちを倒したことにして魔界の辺境に匿ったりしての」



「なぜそんなことを?」



ニアの疑問にシステアは少し考える。


当時の事は母から聞いただけでシステア自身が実際経験した話ではないが、それでも母から聞いた話と人間界に住んでいる経験からある程度の想像はつく。



「一つにエルフが人間にかなり近い容姿をしていたから。もう一つはそもそもエルフ自体そこまで人間との敵対を望んではいなかったからかの? 初代勇者はそれを知ったからエルフを一度倒した後はそれ以上攻撃することはしなかったんじゃないか?」



システアは母から聞いた話と自分の予想を交えつつ、その当時の事をそう解釈していた。


そして、事実ほぼシステアの解釈通りであり、エルフは四天王の1人であったエルフ女王が初代勇者に敗れた後も魔界の奥地で細々とだが、生活を続けていたのである。


システアの解説が終わるとガランがゆっくりと手を上げた。



「なんじゃ? ガラン」



「あのー、さっき母が言うには——とか言ってたっスけど、その言い方だとシステアさんのお母様?は1000年前の初代勇者と魔人の戦いの場にいた風に聞こえるんっスけど?」



「風ではなく実際は母その場にいたのじゃ」



「「……えっ?」」



システアの言葉の衝撃にガランとニアはその場で固まった。


普段からガランはシステアの事を陰でロリババア呼ばわりしているが、それでもシステアの年齢を50とか60くらいと予想していたのだ。


人間が1000年とかそんな期間を生きれるはずがないのだから。



「もしかしてシステアさんのお母さんは……?」



ニアにそう問われ盗み聞きの心配はないと分かっているこの部屋の周囲にシステアは魔力探知の魔法を張り巡らせた。


もちろん部屋の外で盗み聞いている者など存在しなかったが、万が一にでも外部の者に知られるわけにはいかなかったのだ。



そして、システアはこれまでガランとニアにも隠していた事実を語り始めた。



「あぁ、ニアの想像通りじゃ。1000年前に初代勇者と戦った魔王軍前四天王の1人、エルフ女王シルベリアが私の母じゃ」



「「え゛っ?」」



予想を超える答えを聞いてニアとガランは思わず変な声が出してしまう。


ニアとガランはシステアの母親が魔人だという事には薄々感づいたのだが、1000年前の魔王軍四天王だとは流石に思わない。



「気づいておったんじゃないのか?」



「いやいや、四天王って……」



シルベリアという名前こそ知らなかったが、現在の四天王の強さを話だけでも聞いた事のある2人にとって四天王というだけで衝撃の事実である。


今まで単なる超絶若作りの魔法使いと思ってパーティーを組んでいたのが魔王軍四天王の娘だったなんて気付けるはずもない。


驚きを通り越して呆れの感情すら浮かんだガランは軽く笑ってしまいながら更にシステアに尋ねる。



「ていうことはシステアさんは魔人ってことなんすよね?」



普通に考えたらそうなる。養子とか拾われっ子とかではない限りは。


だがシステアの答えはまたもガランとニアの想像の上を行くものだった。



「いや、魔人ではないぞ。私の父は人間だからな。半魔人でありハーフエルフが私の種族じゃな、一応」



他に魔人と人間との間に生まれた例をシステアは知らないのでハーフエルフという呼称はこの世界において一般的ではないが、他に思いつく呼び方もないのでシステアは自分の種族をそう自称していた。


そんな理由からシステアは語尾に「一応」をつけたのだが、ガランとニアにとってみればそんなことはどうでもよく問題は……。



「いやいや、ありえないっすよ。人間と魔人の間の子だなんて」



「そうは言われても事実じゃからな。ほれ、エルフの母から産まれたというのにわしの耳は尖がってはおらんじゃろう?」



「いや、知らねぇっすけど」



システアは自分の耳を指差して主張したが、ガランはエルフの種族的特徴を知らないのでそう答えるしかなかった。

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