第132話 システアの秘密1
クドウ達とミンカの宿の前で別れた『光の剣』の4人は冒険者協会が手配していた高級宿ロイヤルガーデンに帰ってきていた。
帰ってくるとすぐにアリアス達は用意されていた2部屋の内の男部屋の方に集まった。
室内にはミンカの宿と比べようもない豪華絢爛な装飾が施されており、一番大きな寝室にはキングサイズのベッドが2台備え付けられている。
そのベッドの1つにはアリアスとガラン、もう片方にはシステアとニアが靴を脱いで座り、向かい合っている状態でアリアスが話を切り出した。
「システアさん、いくら好きな人の隣だからって今日のはらしくなかったですよ」
「だからすまんて」
アリアスが言いたかったのはついさっき小広場で口走りかけた件についてだった。
「つか好きな人ってのは否定しないんっスね」
「——うっ! ……まぁその通りじゃ。多分……いやわしはあの人を好いておる」
ガランに問われてつい否定しようと言葉を探したシステアだったが、それ以外の言葉が出てこず顔を少し赤らめて肯定した。
昨日初めてクドウを見た時からだったのだろうとシステアは今になってみれば思う。
長い時を生きてきたシステアにとっても初めての感情で自身ですらしっかりと自覚したのはクドウを食事に誘ったあの時だった。
モジモジするシステアの隣でニアがキャーキャーとシステアに抱きついているのを見てなぜか顔を赤くしたアリアスは「こほん」と咳払いし話を続ける。
「まぁクドウさんに話す事自体は良いと思いますよ。いずれあの方にも関係してくる話ですし」
「あぁ、そうじゃな」
システアがクドウを好いているのは事実だが、それだけで自身の秘密をペラペラと話すほどシステアも若くはない。
「あのー、そもそもなんですけど私もさっきの話知らないんですけど?」
「あ、同じくっス」
勝手に2人で納得したシステアとアリアスだったが、ニアとガランもクドウと同じくあの時システアが話そうとしていた話を知らされていなかった。
システアの秘密について知っていたのはパーティー内ではアリアスだけだったのである。
正確にいえば唯一知っていたのが人間界ではアリアスだけでこの秘密は決して外部に漏れてはいけない秘密だった。
露見すればアリアス達『光の剣』の存続にすら危うばまれるレベルの話で、システアは同じ勇者パーティーのメンバーであるガランとニアにさえこの話はしていなかったのだ。
だが、共に魔人を退けたガランとニアならば。
これから魔王軍四天王との死闘に挑むガランとニアならば。
自身の秘密を話しても良いとシステアは今なら思えるのだ。
(あっ、でもこやつら1体も魔人倒してないのか)
良い感じに話す雰囲気になっていたのによくよく考えたら、ガランとニアは魔人戦の時何もしていなかった事を思いだし、一瞬だけ言うのを止めようかと思ったシステアだったが、小さく息を吐くと今日クドウに言えなかったシステアの秘密について語り始めた。
「おぬし等はエルフを知っておるか?」
「エルフっスか? 確か昔魔界にいた種族っスよね? 勢力争いに敗れて絶滅したっていう」
「そう、そのエルフじゃ。まぁ勢力争いに敗れた訳じゃないがの」
「相変わらず詳しいっスね。流石ロリバ——ッ!」
ガランが禁句を口走ろうとした瞬間、システアが投げた高級ふかふか枕がガランの顔面にヒットした。
「痛ぇっす! 硬っ! 何スか? これ!」
ガランは前に落ちた枕を拾い上げたが、それは只の高級ふかふか枕だった。
「えっ、あれ?」
「あー、すまんの。思わず魔法で硬化させてしまったわ。土嚢袋くらいに」
「えっ? 俺じゃなきゃ死んでるっスよ……。マジで」
とてもいい笑顔のシステアにガランは抗議の声を上げるとシステアは更にいい笑顔をガランに向けた。
「あー、すまんの。次からは砂鉄にするから許してくれ」
「いや! 硬度上がってるっスけど!」
「あー、ガラン。話が進まないからちょっと黙ってて」
「アリアス! ひでぇっス!」
「あー、もううるさいのう。アリアスに免じて許してやるから話を続けるぞ」
ガランにつまらない事で話の腰を折られたが、システアは笑顔で更に話を続けるのだった。
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