第125話 ブリガンティスの真の目的

情報では魔王ギラスマティアは失踪する数日前から神ユリウスの事を聞きまわっていた事が分かっていた。



確かに状況から見て神ユリウスがやはり一番怪しいかに思えたが、ブリガンティスは今に至ってそうではないかと思うようになっていた。



「お前の話に出てきた始祖竜の行動おかしいとは思わないか?」



ブリガンティスに問われてゾデュスは考える。


始祖竜。正式には聖竜女王フィーリーア。人間界においては聖竜と呼ばれ、たびたびブリガンティスの人間界侵攻を邪魔してきた存在。


だが今回に限っていえば始祖竜の介入がゾデュス達にとって幸運だったことは間違いない。



「最近は魔王ギラスマティアに邪魔される事が多かったですからね。私自体、始祖竜に遭遇したのは初めてですし、前回は4代前の軍団長アドラスの時でしたか? ですが、アレは魔界に住みながらなぜか人間界に肩入れしています。おかしいというほどでは」



そんなゾデュスの意見をブリガンティスは鼻で笑う。



「甘いな、ゾデュス。お前が言うには始祖竜は人間界方面に向けて第一級魔法を放ったのだろう? それもお前達といた勇者達も巻き込んで……だ。今まで一度としてこんなことがあったか?」



そもそも始祖竜と勇者のダブルブッキング自体が初なのだからあるわけがないのだが、確かに今までの始祖竜の行動から考えれば、今回の始祖竜の行動はおかしな点が多かった事も確かである。



「確かに人間界を巻き込んでの攻撃は初めての事ですね。しかもエレメントドラゴンまで引き連れて……。いや、あれはどちらかと言うと追いかけて行ったという感じでしょうか」



感情のままに第一級魔法を放ち、エレメントドラゴンを待つことなく猛スピードで人間界に消えていった始祖竜にそれを慌てて追うエレメントドラゴン。


確証はないが、ゾデュスには一連の始祖竜達の動きはそう映っていた。


つまり、ブリガンティスは始祖竜の異常行動に巻き込まれて死んだと言いたいのだとゾデュスは理解した。


だが、ゾデュスはふと思った。


むしろ逆なのではないかと。



「ブリガンティス様、もしかしたらですが始祖竜の異常行動で魔王ギラスマティアが死んだのではなく、魔王ギラスマティアが死んだから始祖竜はあのような行動に出たのではないですか?」



正確には正解ではないが、偶然にもほぼ正解を引き当てたゾデュス。


だが、ブリガンティスはそんなゾデュスの推理を真っ向から否定する。



「だったら誰が魔王を殺したって言うんだ? そもそも魔王が死んだから人間界を攻撃しただと? 理由はなんだ? 始祖竜が人間界に魔王の敵討ちでもしに言ったと言いたいのか? 馬鹿馬鹿しい」



確かに普通に考えれば魔王の敵討ちに始祖竜が人間界を攻撃するなど考えられない。


そもそも人間界に魔王とアルジールを殺しうる人間など存在しないのだから仮に万が一にも始祖竜が魔王の敵討ちを考えたのだとしても人間界をターゲットにすることなど普通に考えればありえない。——とゾデュスはブリガンティスの意見に素直に納得した。



「ですが、それなら始祖竜が人間界を攻撃した理由はなんでしょう?」



「あのクソ竜の考えなど知るか。だが、始祖竜が人間界の味方をしないっていうなら好都合だ。いざって時に邪魔をされてはかなわないからな」



そう、今はまだ始祖竜と戦う時ではない。


まずブリガンティスが目指すべきは人間界征服と魔界統一であった。


その人間界征服と魔界統一もブリガンティスの野望の内のまだ第一段階だが、それでもここまでこぎつけるのに1000年待った。


ゾデュスはもちろん他の配下たちにも話してはいないが、ブリガンティスには魔界統一を果たし、魔界の全ての魔人の力を結集させなければならない理由があったのだ。



(もう少しだ。始祖竜。父上と母上の仇に貴様を殺すその時はな)



瞳の奥に静かに憎悪を燃やすブリガンティスをこの場にいる魔人リルだけが心配そうに見つめていた。

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