第123話 来るのは3日後です

「あー、絶対に『黒の暴君』になるよなぁー」



「えーっと、まぁそうかもしれないですね」



空を見上げると綺麗な星空が無限に広がっていた。


地球のいわゆる都会と言われる場所では中々見る事のできない最高のロケーションである。



「あっ、あそこ、ベンチあるっスよ」



4人ほどが座れるベンチが2つほど設置されている小さな広場を指差してガランは言った。



「ホント、すいません」



「いえ、元はと言えばガランが余計な事を言い出した所為ですし」



「……申し訳ないっス」



結論から言うと俺達はミンカママに店を追い出された。


追い出された俺達はワイングラス片手というシュールな状況の中、当てもなく町彷徨っていたのである。


とてもではないがたった数時間前に人間界を救った英雄達には見えない。



「まぁでもこれも楽しい経験ですよ。クドウさん達と行動を共にすると新鮮な経験ばかりです」



「そうだろう! アリアスよ! クドウ様との旅は全てが新鮮だ! お前も分かってきたようだな!」



(どちらかといえば新鮮っていうか斬新な行動を取るのはお前だけどな)



お世辞がまったく通じないアルジールが自慢げに話す数俺は内心そう思う。


アルジールがいなければ良くも悪くも俺の転生人生はもっと平凡な物となっていただろう。


小さな広場に着くと、ガランがベンチを持ち上げ、向かい合うように置きなおす。



「こんなことしていいの?」



「いいんじゃないっスか? 帰るときに元に戻せば」



「まぁそれもそうだね」



そうして俺達はようやく腰を下ろした。



「さー、飲みなおしっスよ!」



「「「かんぱーい」」」



乾杯して今度はほぼ同時に全員がワインを口に含む。



「やっぱ、衝撃的に美味いっス」



流石のガランも味に慣れたのか冷静にユリウスワインをそう評する。


続けてアリアス達もワインを口に含むと、一様に笑顔がはじけた。



「わっ、飲みやすい。前に飲んだものもかなり高級品だと聞いていたんですが、全然違いますね」



勇者ともなると、権力者などから高級な食事や酒をふるまわれることも多いのだろう。


だが、そのアリアスから見ても、ユリウスワインは別格だったようでちびちびとと味わっている。



「できればクドウさんお勧めの料理も味わいたかったんですけどまた今度ですね」



俺というかアルジールが気に入っているのだが、アルジールが気に入るくらいなのだから美味いのだろうとわざわざ否定することなく俺は「そうですね」と肯定した。



「あ、料理ではないですけど皆さんこれどうぞ」



俺は異次元空間からミンカの店を追い出される際に放り込んでいたハードタイプのチーズを取り出すと、全員に配った。


素手での手渡しだったが幸いこの中に気にする者はいなかった。



「ありがとうございます」



そして俺達は僅かな町の光に照らされながらチーズとワイン楽しんだ。


少しして、全員が少しばかりのワインを飲み干したのを確認すると、全員分の空のワイングラスを異次元空間に回収する。


するとガランは名残惜しそうな目で俺をみた。



「はぁー、ご馳走様ッス。おつまみだけで腹は減るっスけど仕方ないっスね」



現在のシラルークは半ばお祭り騒ぎで普段は家で食事を済ます者も今夜ばかりはと酒場や飲食店に集まっている。


そんなわけで今から店を探すのはかなり難しいのだ。



「まぁ今夜くらいは我慢して話でもしましょうか」



元々のメインの目的はそれだったのだろう。


恐らく、システアも今度の話をするためにこの食事会を企画したはずである。——事実は全く違うが。



アリアスは俺に視線を向ける。



「クドウさん、今回のブリガンティス軍の人間界侵攻は失敗に終わったわけですが、今後はどう出てくると思いますか?」



当然議題はそこになってくる。


現在の魔界において人間界に対して、積極的に侵攻をしてくる勢力があるとすれば魔界最大勢力を誇るブリガンティス軍のみである。



というか間違いなく来る。



ブリガンティスは俺がいた時でさえこりもせず何度も人間界侵攻を企てていた男なのだから。


問題はやってくる時期だが、恐らくすぐにはやってこないと俺は考えていた。


いくらなんでも侵攻反対派であるアルレイラを無視してまで人間界侵攻を行うほどブリガンティスも無謀ではないはずだ。



「絶対に侵攻してきます」



俺が断言すると、アリアス達の表情には緊張が走った。


覚悟していただろうとはいえ、いざ口にされると予想が現実味を帯びてくる気がするのは仕方のない事だ。



「——が、まだ先の話になると思います。不意を突いた今回ならともかく侵攻反対派のアルレイラが警戒する中、人間界侵攻を強行するほどブリガンティスも馬鹿ではありません。まぁミッキーの出方次第ということもあるかもしれませんが、数年単位の準備が必要になるでしょうね」



それだけあれば俺もそれなりの準備も特訓もできる。


全盛期に届くかは分からないが、少なくてもアルジールやアリアス達と力を合わせればブリガンティス軍を撃退することも俺の計算では十分可能だ。



「そうですか。ホッとしました」



アリアスは緊張が和らいだのか、僅かに笑みを浮かべるとガランがふとこんなことを言ってきた。



「ていうかめっちゃ詳しいっスね」



当たり前だ。


ついこの前まで俺の部下だったのだから。


怪しんでいるわけではなさそうだが、俺の返答次第でそれも疑念に変わる可能性も否定できない。


が、俺としてはそんなこと想定内である。



「ユリウスが酔って色々教えてくれました」



すると、ガランは「あぁ、そういう」と呟き納得した。



ユリウスとの関係性さえバレなければ「ユリウスが……」と言えば大概の事は納得してくれそうだ。


とても便利なので今後もユリウスの名を使いまくることにする。



「そういえば結局魔人アルジールはどうなったんでしょうか?」



今度はニア嬢の素朴な疑問である。


俺は本人に視線を送ると「えぇ、分かっていますとも」と言わんばかりにアルジールは俺に視線を返す。


流石に「それは私だ」などと馬鹿な事は言わないと分かって俺としてもなによりである。



「多分、倒されてしまったんでしょう。仲間になってくれたらこれ以上ない戦力になったのでしょうけど残念ですね」



俺が無難にそう返すとアルジールはなんとも言えない表情で俺を見つめていた。

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