第119話 俺はここにいるよ
姉2人に尾行されているなどとは知る由もなかったクドウ達は——。
「ここです」
「へー、結構庶民的なお店ですねー」
「見た目はこんなだが、シラルーク1の美味を味わえる名店だぞ、アリアスよ。連れてきてくださったクドウ様にお優しさに感謝するがいい」
軽くディスりながらもアルジールはアリアスにそう言うと、それを聞いていたガランが興味深そうに話に入ってきた。
「確かに結構賑わってるっスね。でもデートには不向きだと思うッスよ」
それはそうだろう。
いくら飯が上手いとは言ってもカップルがイチャつけるような雰囲気の店ではない。
(ガランは何を言っているんだ?)
ガランの意図がまったく分からないので「ん? そうですね」と適当に流すとミンカママにも悪いので俺達は早速店の中に入る事にした。
店の扉を開け、ぞろぞろと入っていくと、宿屋のカウンターの向こう側のミンカと目が合い俺は話しかけた。
「遅くなってごめんね、ミンカ。席って取ってある?」
俺がそう言いながら、カウンターへと近づいていくと、ミンカは急かしているわけでもないのに、慌てふためきながら返事した。
「は、は、はい! もちろんでしゅ! あ! です! こちらです!」
可愛く噛んだミンカはそう言うと俺達を酒場の方に案内する。
どうやら勇者パーティーを目の前にかなり緊張気味のようである。
緊張モードのミンカの案内で酒場に入って行く俺達。
そんな俺達をカウンターに座っていた一人の男がちらっと見て、驚いた様子で呟いた。
「……えっ? アリアス様?」
男の小さな呟きに周りの客達が気づいて、瞬く間に連鎖反応を起こしたように拡散した。
——うぉー、アリアス様! 人間界の英雄!
とそんな感じの歓声がそこらかしこで上がり、只でさえ高かった店内の盛り上がりが恐らく本日最高潮に達しそうになった所で——。
「静まれ! クドウ様は戦闘後でお疲れだ! 道を空けろ!」
完全に奥の予約席への進行ルート塞がれたアルジールが群がる客にそうキツめの口調で言い放った。
(おぉい! やめろ! 感じ悪いだろ! せめてやるなら俺の名前を出さずにやってくれ!)
俺が思った通りアルジールが大声を上げると店内は先程の盛り上がりが嘘のように静まり帰った。
だがその直後。
「キャー! アール様ぁぁぁー!」
主な客層はほぼむさい男のはずのこの店のどこにいたんだかと思うような若い女性達が黄色い声が上がり、瞬く間にアルジールが取り囲まれた。
「なんだ? 貴様らは?」
囲まれたアルジールの冷たい視線が女性達に突き刺さる。
(だからそういう言い方やめて? どう考えてもお前のファンだよね? ていうかなんでもうファンいんの? おかしくない?)
今回の件で勇者になったとはいえアルジールはアリアスと違い、冒険者歴も浅いし知名度は俺と同じくないに等しいはずである。
「キャー! クールぅぅぅ! カッコいい!」
俺の疑問に答える者などいるはずもなく、アルジールの冷たいはずの一言をどういう思考回路で導き出したのか不明だが、そう捉えた女性たちは相変わらずアルジールの周りできゃいきゃい騒ぎ始めた。
魔人の頃のアルジールならそろそろブチ切れて女子供だろうと容赦なく魔法をぶち込んでいる所だろうが、流石にある程度の人間界での常識を身につけたらしく「えぇい! うるさい!」と比較的穏便な言動で済ましていた。今はまだだが。
すると、そんな騒ぎを聞きつけてやってきたのかミンカママが酒場の奥から姿を見せた。
「営業妨害だよ、アンタ達! 散った! 散った!」
ミンカママは冒険者などではないがその迫力は中々の物だ。
伊達に冒険者を相手に商売をしているという訳はないのである。
流石の女性達もミンカママの迫力に渋々自分のテーブルへと戻って行った。
「ふぅ」とため息を吐いたミンカママはアルジールを見た。
「顔が良すぎるってのも大変だねぇ」
ミンカママはニヤッと笑いながら言うとアルジールは不思議そうな表情でミンカママに聞き返す。
「顔が良い? 私がか? クドウ様に話しかけるのが恐れ多くて比較的話しかけやすい私に群がったというだけの話だろう。それにしては太々しい女共だったな」
当たり前の事のように言ったアルジールの後ろでは席に戻った女性達が小さな声で話している声を俺は聞き逃しはしなかった。
「そういえばクドウ様ってだれー?」
「ほら、聖竜を倒したっていう筆頭勇者じゃない? ほら、大広場でアール様とちびっこい黒ローブの女の子が演説してたじゃない」
「えっ、さっきそんな強そうな人いた? あのマッチョの人かなぁ?」
太々しい女Aはガランの方を見てそう言うと太々しい女Bは興味なさげに答えた。
「多分そうじゃない? でもあんまりタイプじゃないかも」
そしてその直後、太々しい女A~Cは完全に息ピッタリに黄色い声を上げた。
「「「やっぱ、アール様……よねー!」」」
女性たちは関係ないガランも巻き込みつつ、更にお喋りを加速させていくのだった。
そんな光景をちょっぴり寂しそうに見ていた俺に気を使ったのかシステアが下から覗き込むながら俺に話しかけてきた。
「わ、私はクドウさんもカッコいいと思いますよ」
「……気になんかしてませんけどありがとうございます。メイヤも待ってますし、行きましょうか」
少し意地を張ってみた俺に笑顔を見せたシステアが俺の後に続き、他の面々もそれに続いた。
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