第107話 それでもクドウは気づかない
俺は広場でみんなから祝福を受けた後、なんとかミンカの宿がある傍まで戻ってきていた。
町は所々が破壊されているというのに半ばお祭り騒ぎの様相を呈していた。
冒険者協会の職員達が先導してくれていなければ、こんなに早く戻る事は不可能だったかもしれない。
あとはシステアとギルドマスターが「筆頭勇者は激戦の連続で疲れているのでそっとしておいて欲しい」といったニュアンスのアナウンスをシラルークの町全体に流していたお陰もあるだろう。
「ふふふ、遂に俺も勇者か」
ミンカの宿の前で不気味に笑う俺を見て、アルジールが俺に声をかけてきた。
「どうされましたか? クドウ様」
どうされましただって?
どうもこうも遂に俺は勇者になったのだ。
しかも筆頭勇者。
最低でもA級、もしかしたら一気に勇者になれると予想していたが、それすらも超える筆頭勇者。
100点満点どころか120点と言ってもいい結果だろう。
顔は相変わらず75点だけどな。——ってうるせえよ!
「いや、遂に勇者になれたと思ってな。アールお前は嬉しくないのか?」
俺は少し気になったのでアルジールに勇者になった感想を聞いてみると、アルジールは特に感動した様子もなく俺に言った。
「正直どうでもよかったのですが、クドウ様の側近である私がE級冒険者ではかっこがつきませんし、アリアスがどうしてもというのでもらえるものならもらっておこうかと」
まぁその程度だろうな。
四天王側近に指名した時はめちゃくちゃ感動していたアルジールだったが、あれは俺が直々に指名したからだったのだろう。
俺以外の他人からの評価はあまり気にしないようだ。
メイヤも今回の事で一気にA級冒険者に昇格したらしいが、恐らくアルメイヤもアルジールと似たような反応だろう。
ちなみに今回の作戦で俺達の後方で特に何もしていなかったプリズンたちもA級冒険者のギランディーを除き一律ランクが上がるらしい。
「そうか、そういえばこの後、アリアスのパーティーと飯食う事になったんだけどお前達も来るよな?」
俺はシステアに夕食の誘いを受けていた事を思い出し、それをアルジールとメイヤに伝えるとアルメイヤが怪訝そうな顔で俺を見た。
「いえ、あれはシステアとクドウ様の——」
何かを言おうとしたメイヤに被せる様にすぐさまアルジールが大きな声で答えた。
「勿論です! このアルジール、クドウ様のお誘いを断る事などありえません」
別に普通に行きますでいいのになぜこいつはいつもこんなに大げさなんだと思いつつ、俺はメイヤに聞いた。
「そ、そうか。——で、メイヤ、お前なんか言いかけてなかったか?」
すると、メイヤはアルジールの方をチラチラと見た後、俺に返事する。
「い、いえ、私もご一緒します。アールにいるところに私アリですから」
メイヤはアルジールの腕を抱き寄せつつ意味不明な事を言うがどうやら一緒に来るという事は理解できたのでとりあえず俺は無視することにする。
いい加減店の前での立ち話も営業妨害になりそうなので、俺が「そろそろ行くぞ」と2人に促すと俺達は3人でミンカの宿屋に入った。
「いらっしゃ…………」
俺が扉を開けるとすぐにカウンターにいるミンカと目が合った。
ミンカは挨拶を途中で中断させるとなぜかそこから一言も言葉を話さずその場で固まっている。
とりあえず俺はミンカのいるカウンターの前まで歩いていくと、言葉に詰まっていたミンカは途切れ途切れだが何かを喋り始めた。
「魔人……聖竜様……勇者……」
なにやら単語のみを呪文のように唱えながらカウンターから出てきたミンカは俺の前に立つとプルプルと小刻みに震え始める。
流石の俺でもこれでは何を言いたいのか分からない。
「ど、どうしたの? ミンカ?」
俺がそう言うとミンカは突然俺に抱きついた。
「うぇーーん! クドウさん生きてたぁ! 生きてたよぉー! 魔人と戦いになって、聖竜様とも戦うって聞いて私、私——」
「あ、えっと、ごめん。心配かけた?」
俺がそう言うと、ミンカが小さな拳でトントンと俺の腹を叩く。
「心配なんてものじゃないですよぉー! 魔人達と戦うって聞いてもうクドウさんと会えなくなると思ったのに、無事に魔人倒したって聞いて安心してたのに、次は1人で聖竜様って戦うって聞いて私はぁぁぁ!」
俺の胸の中で泣きじゃくるミンカを見て俺は思った。
確かに考えてみれば、魔人との戦闘、聖竜との戦いはミンカ達一般市民が聞けば、どれも死にに行くような話だろう。
しかも、魔人と戦いに出る前の俺の冒険者ランクはE級冒険者だった。
ゴブリン程度ならいざ知らず、普通なら魔人一体の出現ですらお呼びすらかからないのがE級冒険者である。
確かに普通であれば生きて帰れないと思うのが普通なのだ。
とはいえ、会って数日の仲なのにこれだけ泣いてくれるものだろうか。
心配くらいはしてくれるだろうが、それでもここまで泣き崩れる事はないだろう。
それで流石の俺でも気づいてしまった。
ミンカは————。
(とてもいい娘なんだな)
俺は泣き崩れるミンカの頭を撫でながらミンカを泣き止むことを待つことにした。
そんなクドウとミンカを見て、メイヤはクドウに聞こえない程度の小さな声で呟いた。
「3角関係。……いや、4角関係か。レイラ姉さまは今のクドウ様を見てなんて言うだろう?」
「何の話だ? メイヤ?」
メイヤの呟きを聞いたアルジールは不思議そうに問いかけたがメイヤは惚けた風にアルジールに言った。
「アールには関係ない話だよ! 私達は私達で頑張ろ!」
そう言ってアルジールの腕をがっちりホールドしたメイヤはニヤニヤと笑みを浮かべたのだった。
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