第106話 筆頭勇者
俺を置いてきぼりにして、広場のそこかしこで話に花が咲いていた。
魔人を撃退して、母さんの脅威が去って浮かれるのは分かるが、少し待って欲しい。
俺にだって気になる事があるのだから、ちゃんと説明して欲しいし、知る権利だってあるはずだ。
「クドウさん、クドウさん」
幸い、システアさんには俺が見えているらしく、下から俺を見上げつつ俺に話しかけてきた。
ちょうどいいと思い俺が気になっていることを尋ねようとすると、それに先んじてシステアはなぜか恥ずかしそうに顔で俺に言った。
「あのぅ、このあと暇ですか? 今後の相談とかいろいろお聞きしたいことがあるので夕食一緒に食べませんか?」
(ん? 勇者パーティーと飯にってことか?)
一応アルジールとは母さんの話をする約束をしているが、別に今すぐにしなくてはならないという事はないだろう。
「いいですよ。そんなことよりも——」
「……そ、そんなこと? あ、いえ、すいません。なんですか?」
なぜか少しショックを受けた様子のシステアは俺に要件を聞き返した。
「勇者アールっていうのはなんですか?」
そう、俺が聞きたかった事がこれだ。
俺の気のせいでなければギルドマスターのカーチがアルジールの事をそう呼んでいた。
まぁ聞き間違えだろうが、一応確認しておかないといけないからな。ははは。
すると、システアは「あっ」と小さな声で呟いた後、衝撃的な言葉を口にした。
「アールさんは今回の魔人討伐の功績でE級冒険者からS級冒険者。つまり勇者に昇格しました」
笑顔でそう言うシステア。
その瞬間、俺は目の前が真っ暗になった……。とまでは言わないが、それなりにショックを受けていた。
(そうか、アールが勇者に。なるほどな……。やはり顔か。転生して初めてアルジールの顔を見た時、嫌な予感がしたんだよなぁ。確かにアリアスもアルジールとは系統は違うが、イケメンだもんな。75点の俺はお呼びじゃなかったらしい。……ユリウスの奴まだ転生アイテム持ってるかな? 次、転生する時は俺もイケメンに……)
これまでの努力が無に帰したと感じた俺は珍しく鬱モードを発動させようとしたその時、システアは慌てて話を付け加えた。
「それとメイヤさんはA級冒険者に昇格。そしてクドウさんはふふふふ……」
システアが話を慌てて付け加えたくせに今度はなにやら勿体つけ始めた。
遂にシステアも俺の事を馬鹿にし始めにきたらしい。
その証拠にさっきのショックの表情から打って変わってニヤニヤが止まらないご様子である。
そんな俺の思いの中、システアは凸凹感皆無な胸を張り、遂にその言葉を口にした。
「クドウさんは今を以って筆頭勇者です!」
(えっ? 筆頭勇者? なにそれ?)
考えればすぐに分かりそうなものだが、突然のシステアの言葉に俺は何を言われたのかよく分からなかった。
そんな中、アリアスがやってきてシステアに抗議した。
「正式な通知が来てからって言ったのシステアさんじゃありませんでした?」
アリアスがそう言うとシステアが不服そうに言い返した。
「最初に口を滑らせたのはギルドマスターじゃろう。わしの所為ではない」
「いやー、すいません。余りにも興奮してたもので、思わず」
申し訳なさそうなカーチがやってきてシステアに謝罪すると、システアは俺に言った。
「一応内定という形にはなっていますが、ほぼ決まりです。脅……じゃなかったしっかり冒険者協会の会長に推薦おいたのが効いたみたいです。色んな手続きをすっ飛ばしての異例の早さですよ」
「筆頭勇者なんてランクはないんじゃ……?」
そう、俺が知る限りでだが、そんなランクは存在しないはずだ。
少なくても俺に挑んできた勇者の中に筆頭勇者を名乗った者など一人としていなかった。
「ありませんよ。なので、作らせました。アールさんがどうしてもクドウさんと同じ勇者は名乗れないと聞かないものですから」
システアにそう言われ、俺がアルジールを見ると、納得するように何度も頷くアルジールが見えた。
「マジかよ」
そうして、元四天王筆頭のわがままと世界最強の魔女の推薦(脅し)により世界初の筆頭勇者誕生と同時期に3人の勇者が誕生するというニュースが人間界に駆け巡ることになった。
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