第105話 クドウ帰還

フィーリーアとの激闘からの感動的な再会という一大イベントを終えたクドウはみなが待つシラルークに戻るべく、転移門を出現させていた。



「あっ、仮面をしないと……ってもう必要ないか」



元々あの魔剣士あっくんのスタイリッシュ仮面はエレメントドラゴン、つまりは兄姉に自らの正体がバレない為につけていたものだ。


既にフィーリーアに正体を明かしてしまった現状ではもはやつける意味はない事にクドウは気づく。



「姉さん達まだいるかな?」



クドウは1人そう呟いた後、転移門をゆっくりと潜るとそこはシラルークの広場だった。


遠くでなにやら話し合いをしていた集団の中から真っ先にクドウの帰還に気付いたアルジールがクドウの元に駆け寄ってきた。



「お帰りなさいませ! クドウ様! 流石でございます。こんな短時間で聖竜を討ってしまうとは」



キラキラした笑顔でアルジールはそんなことを言ってきた。


冗談は程々にしてもらいたい。


本人的には冗談ではない気がするので無理な相談なのかもしれないが。


俺が負けたとか逃げ帰ってきたとかそういう可能性は微塵も感じていないらしい。


まぁ実際は負けた訳ではなく分類上は引き分けという事になっているので、負けなかったという点ではアルジールの信頼に応えたと言えなくもない気もする。きっと、多分。


俺はアルジールに他の者には聞こえない小さな声で耳打ちする。



「倒すも何もあの人は味方なんだ。ちょっとした行き違いでこんな事態になったんだけどな。あとで説明するから適当に話を合わせてくれ」



この場で丁寧に説明する訳にも行かない俺は説明を後回しにするとアルジールは納得した顔で俺に言う。



「なるほど、メイヤの時と同じというわけですね」



「ん、まぁそんな所だ」



確かにフィーリーアは転生こそしていないが、俺を転生したギラスマティアだと気付かず襲い掛かってきたという点では同じである。


ごく稀に理解が早いアルジールに俺はそういうと、アルジールに遅れてメイヤや勇者パーティーの面々が続々と集まってきた。


すると心配そうに下から見上げるシステアが大きな声で俺に言った。



「クドウさん! ご無事でしたか!」



「えぇ、なんとか。ケガもありませんよ」



そう言うと、システアはほっとした顔した後、俺に更に質問した。



「聖竜とユリウスはどうなったのですか?」



別にバレる事はないと思うが、実際に少し戦闘があったのでその事は隠すことなく、言える範囲で俺はシステアに説明した。



「か、……聖竜とは少し戦闘になったんですが、丁寧に説明したらなんとかギー君とやらを殺したのがユリウスでないと納得してくれたみたいで自分の家に帰ってくれました。あ、ちなみにユリウスは無事です」



ツッコミどころ満載の説明だが、ツッコまれたらツッコまれたらでなんとか誤魔化そうと思いつつ俺はシステアにそう説明する。


どうせ真偽の程など分かるはずもないので多少の無理は利くはずだ。



「……あの荒ぶる聖竜と戦ったのですか? しかも無傷で説き伏せたと?」



システアと俺の話に割って入ったのは、シラルークギルドマスターのカーチだった。


声を出して疑問を口にしたのはカーチのみだったが、都市長や冒険者協会職員の者など聖竜の脅威を目の前にした者達は例外なくカーチと同じくその顔には驚愕の表情が張り付いている。



「えぇ、まぁ。と言っても実際戦ったのはたった数分ですが。あとユリウスもいましたし」



俺がそう言うと、俺の隣にいたアルジールが当然とばかりに言い放つ。



「クドウ様であれば当然だ。この世界にクドウ様に敵う者など存在はしない。クドウ様こそ世界最強の座に相応しいお方なのだからな」



アルジールがめちゃくちゃいい笑顔でそんなことを言いだすが、流石にそれは言い過ぎだ。


今の俺では母さんに遠く及ばないし、アルジールやギルドマスター達の後ろでなぜかにこやかにこちらに手を振っているあの人達にも多分勝つのは難しいだろう。



(ていうか、母さんもうアクア姉さん達に話したのか? ……まさかシルフィル姉さんじゃないよな?)



シルフィル姉さんには俺がギー君ということ一瞬でバレたが、あっくんのスタイリッシュ仮面という絶大な効力を持つ賄賂を渡してあったので、母さんが通信魔法で密かに伝達したのだと俺は信じたい。


とはいえ、俺とユリウスが母さんと戦っている所を見ていないカーチ達からしてみれば、アルジールの言葉を真っ向から反論する事などできるわけがない。


アルジールと話して、カーチ達が冒険者アールをどういう人物だと判断したかは俺には分からないが、アルジールがガデュスを相手に一方的な戦いを演じたことは既にギルドマスター達には伝わっているだろう。


ならば、性格は置いておいたとしてもカーチ達にとってみれば冒険者アールは勇者に値するべき実力を持った猛者だということになる。


そして、とても残念なことだがイケメンという生物はなぜかノーマルフェイス達と比べ、圧倒的に発言力が高い。


オマケに初代勇者と同じく金髪長髪という特徴がアルジールの発言力に更なる拍車をかけていたらしくカーチはすぐに納得したように言った。



「勇者アール様がそう言うのであればそうなのでしょうね」



(納得しちゃったよ! おい! ……ってアレ? 今なんて言った?)



俺が激しい違和感に襲われてる中、ガランがアルジールに話しかけている。



「いやー、アールさんの言う通りだったっスね。まさか聖竜相手に無傷でなんてすげぇっス」



「心配しないで待っておけと言っただろう。クドウ様が勝つと言えばその時点で勝利は確定しているのだからな」



いや、助けに行くとは言ったが勝ちに行くとは一言も言ってないけど。……ていうか、ちょっと待って。俺に話させて。

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