第104話 推薦状
「……なんだ、これは?」
男は目の前に広げた書類の数々に目を見開いた。
男の名はバフマン。
バフマンは冒険者協会会長にして、昔はA級冒険者として名を馳せた一流の冒険者だった。
バフマンが異変に襲われたのはつい数分前の事。
誰もいないはずの冒険者協会会長の部屋に突如として水色の髪の美女が出現した。
知らない間にではない。
その美女は会長室の椅子に座るバフマンの見ている前で突如として姿を現したのだ。
「誰だ!」と声を荒げたバフマンを見て美女は無言で頭を下げて、書状の入った封書を手渡した。
あまりに洗練された流れるような動きにバフマンは大人しく手紙を受け取るしかなかった。
やろうと思えば、外の者に助けを呼ぶ事もできたが、なぜかバフマンはそんな気にはならなかったのだ。
水色髪の美女はバフマンに手紙を渡し、「推薦状です」とだけ言うと、再度頭を下げてバフマンの目の前で姿を消したのだった。
そして、封書を開封すると何通もの書状が中に入っていた。
書状の中身を要約すると3種類だ。
魔人出現と聖竜出現によって混乱していると報告を受けていた遠くの町シラルークで起きた事や、魔人討伐の経緯を説明した報告書。
そして、残る2つは推薦状と退会届(仮)と書かれた書状である。
まずバフマンは報告書を読んでみると、そこには驚きの事実が複数書かれていた。
勇者パーティー『光の剣』と共にブリガンティス軍麾下の魔人20体の討伐に貢献したのが、2日前に冒険者登録をしたばかりのE級冒険者『魔王』所属のクドウとアールだということ。
しかも、魔人を討伐のほとんどを行ったのがクドウとアールであり『光の剣』で活躍したのは勇者であるアリアス1人くらいでガランとニアに至ってはE級冒険者アールの戦いをただ眺めていただけと報告書にはあった。
これだけでも信じられない話だと言うのに続く話には更なる衝撃が待ち受けていた。
「……神ユリウスが降臨しただと?」
「勇者を出せ!」と激怒しながら、シラルークにやってきた聖竜を止める為に現れたのは黄金の神ユリウスだったと報告書には書かれていた。
ユリウスは巧みな話術で聖竜をシラルークから引き離し、そのユリウスを救援するため魔界へ向かったのが、件の冒険者パーティー『魔王』のリーダークドウ。
そして、その時に使用した魔法が第一級魔法『テレポーテーション』だったと報告書にはある。
この一文にバフマンは更に目を見開いた。
バフマンのような元A級冒険者でなくとも第一級魔法がなんたるかは分かっている。
歴史の中でも選ばれた者のみが使う事を許された正に伝説にだけ伝わっているような魔法。——それが第1級魔法なのだ。
「俺は何を見さされているんだ? なんの話だ? これは?」
出てくる話のどれを取っても普通に考えればありえない話ばかりだった。
一番最初に報告を受けた『雷神招来』の目撃報告から全て嘘だったという方がまだ真実味があるくらいである。
それでもなんとなく全て本当の話だとどこかで信じてしまったバフマンはとりあえずこれらの真偽は置いておくことに決め、次に推薦状と退会届(仮)に目を通す。
内容はとてもシンプルだった。
シラルークギルドマスターカーチ、ユリウス教法王ゴンゾ、S級勇者アリアス=アルべリオン、A級冒険者システア、ニア、ガラン、E級冒険者アールの計7名はE級冒険者クドウ並びE級冒険者アールをそれぞれ筆頭勇者、勇者に推薦します。
シラルークギルトマスターカーチ ユリウス教法王ゴンゾ S級冒険者アリアス=アルべリオン A級冒険者システア A級冒険者ニア A級冒険者ガラン クドウに忠誠を尽くすE級冒険者アール
ps.ありえない話じゃが、この推薦が通らなければ、アリアス、システア、ニア、ガランの4名は即刻冒険者協会を辞めるのでそのつもりでな。時間稼ぎ等をされてもめんどうなので本日中に返答されたし。
まぁ人間界滅亡の原因を作った大罪人になりたくなければ、今すぐにこの推薦を通すことをお勧めするぞ。
読み終わったバフマンは同封されていた4枚の退会届(仮)を見ると、確かにそれぞれが書いたと思わしき筆跡で退会する旨とサインが書かれていた。
「……脅しではないな。あの婆さんはやると言ったら絶対にやる。……さてどうするか」
なぜか法王のサインが入っていたり、推薦されているはずのアールが推薦者になっていたりと、所定の形式を無視しまくったあまりにふざけた推薦状だが、それでもバフマンには選択肢は一つしかなかった。
バフマンは長距離の通信魔法が使える魔法使いに連絡を取るべく、別室に待機していた秘書を呼ぶ。
(それにしてもあの婆さんがこれほど執着を見せる勇者が現れるとはな。『魔王』のクドウとアールか)
バフマンは初代勇者の再来を確信しつつ、呼び出した秘書にシステア達への伝言を伝えるのだった。
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