第103話 変な格好の人達と謎の巨竜
「とりあえずやめといたら? フィーナちゃんに魔法を教えた私が言うのもなんだけど」
ミツキと同意見だったのかマリアにもそう言われたユリウスは自分の屋敷に戻ることを諦め席に着いた。
「ていうかさ、ぶっちゃけどうなの? 今の魔王とアルジールが魔王軍と戦ったら」
マリアの質問にユリウスは考える。
全盛期の魔王であれば、アルジールと協力すれば魔王軍全軍とですら渡り合えた所か圧倒できた可能性が高い。
しかし、今はまだ。
「確かに、クドウは強い。……が俺と戦った時のような理不尽な強さは鳴りを潜めていた。戦えば恐らく……」
今のクドウでも魔王軍四天王に劣っているとはユリウスは思わない。
そうでもなければ、短い時間とはいえあの始まりの竜の攻撃を防ぐ事などできなかっただろう。
だが、四天王はミツキも含めると3人。
それに加えて、魔界最大勢力を誇る数のブリガンティス軍、魔界最強種族である龍神族を擁するアルレイラ、アルジール軍もいる。
クドウとアールが簡単に追い返していたが、人間界の冒険者に比べ、魔界の魔人はその一体一体が圧倒的な力を持ち、仮に人間界にいる冒険者を総動員したとしても勝てる可能性は0に等しい。
「厳しいだろうね。私が手加減するにしても限度がある。最悪の場合、私が正体を晒して魔王側についてもいいんだけど」
できればそれはしたくなかった。
ミツキにはまだ魔界でやらねばならない仕事が残っているからだ。
その上、他に発生する問題もある。
ミツキが厳しい表情で言うと、マリアが純粋に思った事を口にした。
「ていうか聖竜って魔王の母親でしょう? 魔王がアレに頼んだらどうにでもなるんじゃないの? 聖竜じゃなくてもエレメントドラゴンの何体かの力でも借りれれば」
確かにその通りではある。
魔王軍四天王といえどアレが戦場に現れれば、その時点で四天王軍側に勝つ可能性などなくなり、逃げる事すら困難な程の蹂躙劇の幕開けとなるだろう。
仮にミツキが本気を出したとしてもそれは恐らく変わらない。
それほどまでに聖竜は強く、そしてクドウが頼めば聖竜は喜んで力を貸すだろう。
だが、それでもこの中では一番クドウを良く知るユリウスはそうなるとは思えなかった。
「あいつがそんな事をするタマか? 魔王のくせに訳の分からん理由で人間に転生して魔界へ侵略を目論むような男だぞ」
そんな男だからこそユリウスたちの計画のファクターとなりうるのだが、それでも負けてもらっては困るのもまた事実であり、ユリウスたちは頭を悩ましていた。
「あー、もう! めんどくさい! もういっそ私達が介入しちゃえばいいのよ!」
自棄になってそんなことを言いだすマリアにユリウスは窘めるように言う。
「それができれば苦労はしないだろう。あの男が黙っているわけがない。……が、何もしないわけにもいかないな。アレを出すか」
「アレってまさかあの変な格好のあの人達?」
マリアはちょっとだけ嫌そうな顔をするとミツキは不思議そうな顔でマリアを見た。
「えっ? かっこよくない? そもそもアレは私の案。私がいた国では凄い人気だったんだよ? 子供は熱狂して、その母親は顔を赤く染めてね」
ミツキは自信満々に言うが、マリアにアレの良さがまったく分からなかった。
確かに正体を隠すという意味では悪くはないが、それだけなら他にいくらでも方法はあるはずなのに、あんな格好に身を包むという発想自体が理解できなかった。
とはいえ、アレを出すこと自体には賛成だ。
四天王には及ばないにしても並の魔人くらいなら簡単に蹴散らす程度には強いのだから。
「それに最近入った新入りが中々良くてな。良い活躍をすると思うぞ」
ユリウスがそう言うとマリアはまた嫌な顔をする。
「最近っていうとあいつでしょ? 爺寄りのおっさんじゃない。子供や若奥様がどう熱狂するっていうのよ」
まぁよく考えたら、全身タイツみたいな恰好なので爺でも美青年でも関係ないといえば関係ないのだがマリアの気分の問題である。
「さて、俺達のできることはこれくらいか。後はなるようにしかならないな」
マリアの発言を華麗にスルーしたユリウスはアルコールの入ってないぶどうジュースを一気に口に流し込むのだった。
ユリウスたちが話し合いをしていたころ、ユリウスがいる場所とは離れた魔界の僻地の暗黒に支配された場所で——
「——面白くなってきたな」
あまりにも大きな一体の巨竜がポツリと呟いた。
その巨大な体の全ては漆黒の鱗に覆われ、頭には大きな2本の角が生えている。
巨竜が数百年前に受けた傷は既に癒えており、今はこの地で来るべきチャンスを虎視眈々を窺っていた。
巨竜の敵はあまりにも強大で想像を絶する力を持つ巨竜でさえ、まともに戦っても勝利する可能性は低い。——そんな相手だった。
巨竜は待つこと自体はそんなに苦ではなかった。
もう既に数百年も待っているのだから、あと少し待つことくらいはなんてことはない。
そんな巨竜の頭の中は2つの事に支配されていた。
一つは巨竜の目的を邪魔する敵の排除。
そして、もう一つはあの少女の事。
「……ティア、なんで君は俺達の前から消えたんだ」
巨竜はあの日の事を思い浮かべ、何百回、何千回と考えたが、未だに答えは出ていない。
あの少女こそ、巨竜の全てだ。——巨竜にとっては仲間たちすら少女のついででしかなかった。
「あぁ、ティア、会いたいよ。……君の為なら俺はこんな世界なんていらない」
巨竜が呟いた言葉は暗黒に支配された空間で静かに響くが、それを聞く者は誰一人として存在しなかった。
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