第70話 まぁ少し待つがよい

「それで貴様は何者だ?」



神槍乱舞を受けても傷一つ受けない聖竜はユリウスを睨みつけている。



「なんだ? 聞いてはいなかったか? 我こそは3神が一人、神ユリウスである」



神々しいオーラを放ち、金色の長髪を風に揺らめかせながら偉そうに言い放つと聖竜は不思議そうに問い返した。



「……神とは創世神と最高神の事だろう? なんだ? 3神とは?」



「母様、3神とは1000年程前に前魔王が初代勇者に倒された後に新たに生まれた神々の事です」



聖竜の疑問に横にいたアクアが答えた。



「そういえば確かにそんな話を聞いたような気もするな」



聖竜は自分に興味のあること以外は話を聞き流す傾向にある。


1000年前も間違いなくアクアに報告を受けていたのだが、彼女はその時、そんなことよりも遥かに気か掛けていたことがあった為、右から左へと聞き流していたのだ。



「それで、その新参者の神がなぜ私の邪魔をする? ……まぁいい。邪魔をするというのならこの街ごと貴様を消し飛ばすだけだ」



そして、また聖竜に濃密な魔力が集まってくる。



また『竜星群』か他の第1級魔法を行使するつもりなのだろうとユリウスは推測した。



「我を攻撃するのは構わんがまぁ少し待つがよい」



「私が貴様の言う事をきく必要性が見当たらないが?」



「ほんの少しだけだ。今すぐ攻撃を行えばお前は一生後悔することになるが、それでも構わないというのならやってみるがよい」



聖竜にはユリウスが何を言っているかが全然分からない。


聖竜がこの街とユリウスを消し飛ばして何の後悔をするというのか。


あるとすれば僅かな達成感と少し聖竜の気が晴れるということくらいのものだろう。


それでも勇者をこの手で抹殺するまでは聖竜の気の半分も晴れることはないはずだ。


だが、不思議と聖竜はユリウスの言葉に僅かに興味を持った。


単なる気まぐれのようなものだ。


つまらない事であれば、即座にこの街をユリウスごと消し飛ばしてしまえばいいのだから。



「少しだけだ。逃げようとしたり、少しでも変な挙動をすれば即座に消し飛ばす」



「あぁ、それでかまわん」



ユリウスはそう言うと、聖竜に背を向けギルドマスター達の傍に再度降り立った。



「おいっ、そこの男」



「えっ、俺ですか?」



近くには法王や都市長もいるが、ユリウスが見ているのはギルドマスターだった。



「そうだ、お前だ。この後、我は聖竜をこのシラルークから引き離し、こことは遠く離れた地で聖竜と戦闘に入るが、お前には伝言を頼みたい」



「え、引き離す? どうやって?」



ギルドマスターはユリウスの言葉に耳を疑った。


どう考えても聖竜をシラルークから引き離す事など不可能だ。


本人というか人ではないが、聖竜はシラルークごとユリウスを消し飛ばすと何度も公言している。


今はたまたま気まぐれで待ってくれてはいるが、わざわざ戦地を移動してくれるとは思えない。


ユリウスが勝つにしろ負けるにしろもうシラルークはただでは済まない事は決まったようなものである。


とはいえ、神の言うことだ。


何らかの目論見があってのことだと言い聞かせ、ギルドマスターは再度尋ねた。



「伝言とは誰にでしょうか? 勇者パーティーでしたらシラルークには戻りませんよ?」



たった今、ギルドマスターが戻ってくるなとシステアに伝えたばかりだ。


もしかしたら、シラルークの危機を察した勇者パーティーは危険を承知で戻ってくるかもしれないが絶対ではない。


ギルドマスターとしては帰ってきてほしくないというのが、本心だった。


だが、ユリウスの次の言葉はギルドマスターの予想を裏切るものだった。



「勇者パーティーにも伝えてくれてもかまわんが、E級冒険者パーティーが帰ってくるはずだ。その者達に絶対に伝えてほしいのだ」



「なぜ『魔王』の事を……? もしかしてお知り合いですか?」



E級冒険者パーティー『魔王』はつい先日、冒険者登録がされたばかりの出来立てのパーティーである。

ついでに言えば『魔王』がE級に上がったのは2日前の事だ。


あまりにもリアルタイム過ぎる『魔王』の情報を知るユリウスと『魔王』の誰かとが知り合いだと疑うのは当然の流れだった。



 (ていうか3神と知り合いとかありえないだろ! 確かリーダーのクドウは20歳にも満たない少年だったはずだ! 『魔王』とはなんなのだ!?)



 「聞かない方が身のためだと思うが?」



 ユリウスがそんなことを言う。


 心を覗かれたということでなければ、ユリウスと『魔王』の誰かとの関係性を探るなと釘を刺されたということだろう。


ギルドマスターとしても神が警告するようなやばい話を聞くつもりなど毛頭ないのだ。

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