第71話 真犯人
「それで……伝言とはなんでしょうか?」
「うむ」とユリウスが頷いた後——
「フハハハハハ! これで貸し2つだ! これで最後だぞ! それと早く来い! あとワインが欲しいならくれてやるから次からは勝手に持って行くでない! 分かったか! とこう伝えるのだ。よいか?」
長いな。とギルドマスターは思いつつ、脳内にユリウスの言葉を一字一句漏らすことなく記憶する。
(ていうか「早く来い」以外は必要なのか? 特にワインがどうたらのくだりは)
とはいえ、神の言葉だ。伝えないわけにもいかないだろう。
「分かりました。伝えておきます」
「フハハハハハ! それでよい! これで我も心置きなく戦えるというものだ!」
ユリウスはそう言い残すと、ギルドマスター達から離れ、聖竜の前まで飛んだ。
「遺言は済んだようだな。とはいえそれを伝える者もここで消し飛ぶのだがな」
殺気と魔力に満ちた聖竜はユリウスを睨みつけながら言うとユリウスはお返しとばかりに——
「フハハハハハ! それは不可能だ! お前にそれは無理というものだ!」
いつものユリウスの笑い声が大広場に響くが聖竜は動じない。
聖竜からすれば所詮は戯言。
シラルークを守る以前にユリウスでは始祖竜にして最強の竜の一体であるフィーリーアを相手に勝利する事など絶対に不可能なのである。
「遺言は済んだようだな。では——」
「待て」
「……なんだ? この期に及んで命乞いか?」
既にそんな段階はとうに過ぎている。
もうあとはこの街と共に目の前の愚かな神を消し飛ばすのみだ。
「その前にお前に伝えておかねばならぬ事がある」
これで本当に最後だ。
目の前の神が何を言おうとその直後、『竜星群』でこの街を町と共に消し飛ばす。
あの子がフィーリーアの為に一緒に作ってくれたこの『竜星群』でだ。
そしてユリウスはそんなフィーリーアを前にしてなんでもないように言った。
「ギー君だったか? あやつを殺したのは勇者ではないぞ」
…………。
結果、『竜星群』は行使されなかった。
代わりに出たのはフィーリーアの言葉だった。
「……今なんと言った? なぜ貴様があの子の名を知っている?」
ギー君とはフィーリーアが『あの子』を呼ぶときの名だ。
知っているのは、フィーリーア以外にはエレメンタルドラゴンの3体ぐらいのもので、『あの子』は直属の配下にさえこの事は話していないと言っていた。
こっぱずかしくて言えないよ、そんなこと。
と言っていた。間違いない。
混乱するフィーリーアに向かって更にユリウスは大きな笑い声を上げながら言う。
「フハハハハハ! ギー君本人から聞いたからな。我がこの手で殺した時に。あやつは最後に言っておったぞ。「母さんが仇を取ってくれる!」とな。とんだマザコン野郎だと思ったが、なるほど。まさか聖竜が母親だったとは。甘えたくなる気持ちも分からんではない」
みるみる内にフィーリーアが怒りの表情に変わっていく。
『あの子』を殺しただけでは飽き足らず、目の前の神は『あの子』をマザコンなどと侮辱している。
これまでの圧倒的だと思われたフィーリーアの魔力は更に膨れ上がり、周囲のギルドマスター達が呼吸すらおぼつかない程の魔力が垂れ流される。
「フハハハハハ、ではな! 我も殺されたくはないのでさっさと退散することにするぞ!」
そう言って、忽然とユリウスはその場から消え去ったのである。
残されたシラルークの町の人々にエレメンタルドラゴン、——そしてフィーリーア。
一瞬の空白の後——
「逃がすかぁぁぁ——! 小僧ぉぉぉ——!」
地を震わすかのような雄たけびを上げ、フィーリーアはユリウスを追うべく転移を始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます