第48話 昔話
俺はシステアに請われ、昔の話をすることにした。魔界に魔王ギラスマティアが誕生する前の話だ。
「俺は普通の町の普通の家で生まれ育ちました。両親も優しかったし、友達もそれなりにいて、まぁそれなりには楽しい子供時代だったんですけど、ある時引っ越さなきゃならなくなってしまって」
もう既に数百年前の記憶だが、未だあの頃の記憶は俺の中に残っている。
あちらの時間の流れがこちらと同じなのかは分からないが、当時の知り合いは誰一人として生きてはいないだろう。
もうあの世界に俺を知るものはいないのだ。
まぁもうこの世界に来て数百年も経ってるし未練なんかないのだけどね。
「それでその時に、運悪く両親とはぐれてしまったんですけど、たまたまある人が拾ってくれて。で、その時に近所に住んでいたのがアールとメイヤです。恥ずかしい話なんですけどこれでも当時結構ヤンチャで近所のガキ大将になったりもしたんです。それで昔憧れていた勇者になってやろうかと思って冒険者に」
あの世界なら完全な中二病的思想だが、この世界においてならまぁ結構普通の話だろう。波乱万丈な人生もこの世界でならそこまで珍しい話でもない。
実際は同じ魔界というだけでアルジールやアルメイヤとは近所でもなかったし、なったのはガキ大将というか魔界の大将たる魔王なので、過小申告もいいとこだが、概ね本当の話である。
「両親や昔の友達を探したりはしないのですか?」
「えっ、まぁ会いたいなと思ったことはありましたけど、もともと住んでた町の場所も分からなくなってしまいましたし、ずいぶん昔に諦めましたよ。拾ってくれた人も良くしてくれましたし」
まぁ転生する方法もあったくらいだし、世界を渡る方法もなくもないのかもしれないが、今更あの世界に帰ったところで意味はない。
魔人になってすぐにユリウスと会っていれば話は違ったのかもしれないが、俺はユリウスに世界を渡る方法については尋ねることすらしなかった。
「……そうですか。クドウさんの異常な魔力もガキ大将になった時に?」
「異常って……。まぁ結構近所の子たちが強くて喧嘩しているうちに身についたのかもしれませんね、ははは」
実際は魔人を斬っちゃ投げ斬っちゃ投げする前から俺は強かったがアレのおかげで強くなったのは確かだろう。
少なくても魔人になった直後はユリウスをあそこまで圧倒できる実力は俺にはなかったと思う。
ていうかシステアは俺がどこの田舎のガキ大将だと思っているのだろうか?
もう……っていうか最初から俺やアルジールの実力の何割かはバレているっぽい。
自分で言うのもなんだが、こんな規格外の冒険者の卵が何人もいる村などあるはずがない。
なにかしらの事情があるとシステアも分かっているのだろう。流石に転生した魔王本人だとは思ってもいないだろうけどな。
「アリアスは強いです。恐らく初代勇者を除けば歴代最強の勇者だと思います」
システアが突然そんなことを言いだした。自分の勇者パーティー自慢だろうか。そんなタイプには見えないのだが。
「ですが、もしかしたら……もしかしたらですが、あなたはそのアリアスよりも強いかもしれません。魔力だけでいえばあなたはアリアスを越えています」
あー、勇者パーティー自慢からのヨイショだったみたいだ。
だが戦闘技術はまだまだみたいな言われようだが、伊達に数百年も生きてはいない。
E級冒険者といえど俺は百戦錬磨なのである。
まぁ強力な魔法1つで優越がつくこともあるので、戦ってみないと分からないってこともあるけどな。
ていうかそんなこと言ったら——
(アリアスよりあんたの方が魔力はかなり上だろう)
俺に挑んできた勇者パーティーは団栗の背比べだったが、それでも一番高い魔力を持っていたのは大概の場合勇者だった。
目の前にいるシステアは明らかに今まで挑んできた勇者パーティーにいた魔法使いのソレから逸脱してい
る。
アリアスももちろん今まで俺に挑んできた勇者よりは見るからに強いのだが。
(プリズンが言うにはどこかの森で長年魔女をやってたんだよな?)
システアの見た目は幼女までいかないがかなり幼めの少女だ。
だが見た目通りの年齢ではないのだろう。
アリアスの出現と共に森を出たという事は強い勇者が現れるのをずっと待っていたのだろうか。
魔王——つまり俺を倒すため?
(その割には俺が人間界を守っていたのを知ってたんだよな。なんか他に目的でもあったのかね? ま、どうでもいいけど)
そんな事を思いつつ俺はとりあえず謙遜してみることにした。
「いえいえ、アリアスさんにはまだまだ及びませんよ」
「まぁこの戦いが終われば分かる事です。私でよければこの戦いが終わった後、クドウさんを勇者に推薦しますよ!」
システアは鼻をふんふん鳴らしたかは分からないが興奮した様子でそう言ったのだった。
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