第49話 狂戦士ガランの実力
「結局何も起きませんでしたね」
「……ですねー」
俺達はありもしない魔人やアルジールの痕跡を探しつつ、東へ歩き続けたが、やはりこの日は何も起きずじまいだった。
ゴブリンくらいとは戦闘になるかと思ったが、それすらなかった。
「今夜は野宿っスかね?」
アルジールと一緒に歩いていたガランがこちらにやってきてそう言うと持っていた革製のカバンを漁り始めた。
すると明らかにカバンのサイズとは合わない天幕一式を取り出した。
「クドウさんは天幕持ってるっスか?」
「あっ、えーっと」
持っているは持っているが、異次元空間の中だ。
普通の皮製のカバンは持っていたので、カバンの中に異次元空間を出して、引っ張り出すことは可能だ。
恐らく今、ガランが天幕を取り出したカバンも魔法アイテムなのだろう。
とはいえ、アレはべらぼうに高い。
恐らくA級冒険者でも持っているのはパーティーに1人くらいのものだ。
勇者パーティーともなれば全員が持っていても不思議ではないが、いくら実力が高いとはいえE級冒険者がどう背伸びしても買う事の出来ない代物である。
どうするか迷っているとガランが笑顔で俺に言った。
「あー、やっぱ持ってないっスよね? 一応予備のがあるんでそれでよかったら使うッスか?」
めっちゃくちゃいい奴だな。
『狂戦士』なんて物騒な二つ名を持っているとは思えない気遣いのできる男ではないか。
そんな二つ名はハンマーで2つに叩き割って、うちの馬鹿兄妹にでもくれてやった方がいいのではないだろうか。
そんな事を思いつつ、俺はガランに「お願いします」と言う。
「じゃあこれどうぞっス」
ガランは持っていた天幕一式を地面に置くとさらにもう一式を取り出し、俺に渡す。
「ありがとうございます」
すると俺とガランのやり取りを見ていたアルジールが不思議そうにガランに話しかけた。
「おいっ、ガラン。それはなんだ?」
「えっ、天幕っスけど」
うん。俺もそう思う。
まさか「クドウ様をそんな粗末な物に寝泊まりさせる気か!」などと意味不明な事を言い出す気ではないだろうな。
俺は後ろからぶん殴る準備をしつつ、アルジールの言葉を待っていたが、アルジールは俺の予想とは違う事を言い出した。
「だから、その天幕とはなんだと聞いているのだ」
「「……えっ?」」
ガランは、というか冒険者パーティー全員がだろう。何言ってんだ? こいつ。みたいな目でアルジールを見た。
「あっ、あははー。こいつ冒険者になったばっかで野宿初めてみたいなんですよー」
俺は苦笑いを浮かべつつ何とかそう誤魔化す。
冒険者云々の前にどこのお坊ちゃまだ。こいつ。って話だ。
そういやこいつの実家めっちゃ名家だったな。魔族なのに。
「アール、これは天幕と言ってだな。簡単に言うと簡易式の住居だ」
「なんと! そんな技術が! 流石はクドウ様、博識です」
多分、田舎の子供でも知っているだろう。天幕くらい。
ちなみに後ろを見ると、アルメイヤまで目をキラキラさせていた。どうやらこいつも知らなかったらしい。
「なんかアールさんってやっぱすげぇっスね」
「ガランよ、そう褒めるな」
違うぞ、アルジール。お前は今、遠回しに変な人って言われているんだぞ。
「……さて、じゃあ組み立てますか」
「そうっスね」
それから俺とガランは2人で天幕を組み立て始めるとものの5分くらいで組み立て終わる。
他の勇者パーティーが手伝わなかった所を見ると、こういう仕事はガランの担当なのだろう。
別にアルジールとは違って組み立てられないという事はないだろうが、ガランがやった方が早いってことらしい。
「流石はクドウ様」
俺とガランの早業を見ていたアルジールが感心したようにそう言った。
「お前もできるようになっとけよ。冒険者なんだからな」
「ふふ、もう覚えました。次からはこのアールにお任せを」
「じゃあ、次は飯っスね。御馳走するっスよ」
ガランは魔法のカバンから肉やら野菜やらを次々と取り出し、当たり前のように調理を開始する。
「えっ、ガランさんが料理するんですか?」
「そうっスけど?」
俺が勇者パーティーの女性陣2人を見ると、2人はあからさまに視線を逸らす。
どうやら、勇者パーティーの料理担当もガランらしい。
ガランの担当多すぎませんかね?
まぁ自分のパーティーじゃないからいいんだけど。
「メイヤ、お前もガランさんの料理見とけ。料理のできる女はポイント高いらしいぞ」
「えっ、本当ですか? クドウ様」
なんかメイヤだけでなくシステアとニアも食いついている気はするが、まぁいいだろう。
ニアは明らかにアリアス狙いな気はするが、システアにもいい相手がいるのだろうか?
俺はそんな事を思いつつ、ガランの料理をできるのを待った。
ちなみにガランの作った料理は肉と野菜がたくさん入ったポトフみたいな料理で凄くうまかった。
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