第47話 クドウとシステア
クドウが入った転移門の先は鬱蒼と茂る森の中だった。
確かにこれくらい視界の悪い森ならば転移門の存在に気づかれる可能性も低いだろう。
見事な手際である。
少しして出てきたのはアルジール、アルメイヤ。
さらに少ししてアリアス、ガラン、ニア、最後にシステアが転移門の中から現れた。
「敵がいないようでなによりです。クドウさん」
システアは転移門を閉じた後、俺にそう言った。
俺としては想定内である。システアとしては魔人を想定しての発言だろうが、そんなものはいない。危険など元よりないのだ。
「えぇ、そうですね」
俺は辺りを見回した。
恐らく、アルジールとアルメイヤがやらかしたゴブリンの洞窟付近なのだろう。なんとなく見覚えがあるような感じがした。多分。
「恐らくこの付近で魔人アルジールは雷神招来を使用したと思われます」
「そうなんですか」
俺はシラを切るが概ね正解だろう。
「それでどうしますか? 魔人アルジールはいないみたいですけど?」
アリアスが俺とシステアを見てそう言うが、俺としてはいもしない魔人を探す方法など分からない。
アルジールならアリアスのすぐ横にいるが、「アルジールなら隣にいますよ」と笑顔で言えるわけもなく、とりあえずシステアの意見を待つことにした。
「そうじゃ……ですね。とりあえず東に向かいましょうか」
東と言えば魔界方面である。
当然と言えば当然の展開だが、これはまさかアルジールを見つけるまで帰れま〇んでもおっ始める気だろうか。
もしそうなら、もう目標は達成していますよ。帰りませんか。システアさん。
そう言えたらどれだけよかったか。だが言えるはずもなく終わるはずもない苦行が今始まろうとしていた。
ていうかよく考えたら何日かかるかは分からないが、このままでは魔王がいなくなった魔界に侵略する冒険者になってしまう。
当初聞いてたのと完全に真逆の話だ。
だがこうなればなるようにしかならない。俺は仕方なくこう言ったのだった。
「えぇ、行きましょうか……」
東へ行く道中、なんとなく俺達『魔王』と勇者パーティーで少し離れて移動するものだと思っていたのだが、なぜか俺とシステアが先頭でその後を他の面々がついてくる形になった。
普通こういう場合は勇者が先頭で進むものではないのだろうか。
俺が後ろを見ると、アリアスはシアと呼ばれる聖女と何やらお喋りに花を咲かせている。
なんと危機感のない勇者か。
まぁ今に限ってはそんなものは必要ないのだが。
「すいません、危機感がなくて」
勇者を見ていることに気づいたシステアが俺に謝罪する。
「いえいえ、こちらこそすいません」
危機感がないのはこちらも同じだ。
アルメイヤはアルジールにべったりだし、かくいう俺も危機感など全くない。
残るガランはといえばアリアスとシアのお喋りに混ざっているのかと思えば、アルメイヤにべったりされているアルジールと何かを話している。
(メンタル凄いな、アレに割って入るとは)
しかもアルジールはアルジールでそんなに嫌がる素振りは見せていない。
魔界においてもあれほどアルジールと溶けこめる魔人はそんなにはいなかった。
同じ四天王内でもまともな会話が成立したのは姉であるアルレイラくらいのものだったし、部下と親しくしているのも見たことがあまりない。(アルメイヤは除く)
(まぁ四天王は四天王で変な奴ばっかだけどな)
ミッキーはやる気なさげで何を考えているか分からないし、ブリガンティスは頭は悪くはないと思うが基本はゴリゴリの脳筋だ。しかもアルジールとは絶望的に仲が悪い。
唯一まともなのはアルレイラくらいか。
今頃どうしているのか。もう俺がいない事には気づいたのだろうか。
(まぁ数少ない友達が増えてよかったな、アルジール)
少し歩いた所でシステアが俺に話しかけてきた。
「それにしても何も起きませんね」
システアはそう言うがそれはそうだろう。まだ歩き始めて10分くらいしか経っていない。
これくらいで音を上げてはこれから続きませんよ。システアさん。
なんせ苦行は始まったばかり。少なくても魔界に入らないと何も起きるわけはないのだ。
「そうですね」
俺がそう返事した後、無言が続く。
…………。
「……あのー」
「なんですか?」
突然、システアが俺に話しかけてきた。ちょうど俺も無言には飽きていた所である。
流石にシステアを一人にして、アルジール達に混ざるわけにもいかなかったので、俺としてもありがたかったのだが……。
「クドウさんの話を聞かせてもらいませんか?」
うん。困ったぞ。
最近王都で流行りのスイーツの話であればよかったのだが、なんせ俺のこの世界の人間としての歴史はまだ2日だ。魔王だった頃の武勇伝なら数百年分たんまりあるが、それを話すわけにもいかない。
とはいえ、ここで笑顔で「絶対いやです」は余りにも不自然だ。仕方なく俺は昔話を持ち込むことにした。
「……つまらない話ですよ」
「はい、それでも聞きたいです」
そして俺ははるか昔の遠い記憶を語り始めるのだった。
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