第46話 話の分かるやつら



「なんか大声で叫んでたみたいですけど大丈夫でしたか?」



「いえ、うちのガランがつまらないことを言ったもので」



「どこのパーティーでもそんなもんなんですね」



俺達は約束の10分が経ったので『魔王』と勇者パーティーとで集まっていた。



既に冒険者協会内に勇者パーティーと『魔王』以外のメンバー以外の姿はない。


それ以外に残っているのはギルドマスターと冒険者協会職員くらいのものである。


ついさっきA級冒険者ギランディーに引き連れられて俺達以外の冒険者は先に東に向けて出発したのだ。



「早速ですが私達も向かいましょう」



システアはそう言うと、第2級魔法転移門を行使する。


システアのかざした手の先に黒い渦が発生する。そんなには大きくはないが、クドウでも少し屈めば充分通る事のできる大きさはある。



「凄いですね」



率直な俺の感想である。魔人の中でも転移門を使える者はそう多くはないのだ。



「では早速」



「えっ、ちょっと」



俺が転移門を潜ろうとするとシステアに服を掴まれた。何か俺に伝える事でもあるのだろうか。



「クドウさんが先頭でいいのですか? 一応森の中に出れるようにしましたが、奇襲の可能性もあるのですが……」



なんだ、そんなことか。まぁ確かに転移門を使用する注意点の1つだが、今回で言えば関係のない話である。


まぁ転移門から出てきた俺に反応し、魔獣が襲い掛かってくる可能性もなくはないが、最悪でもゴブリン程度のものだろう。奇襲を受けようが普通に戦おうが関係のない相手なので、警戒するだけ無駄だ。



システア達は約束の10分の内ほぼつまらない話に終始していたわけだが、転移門を誰が最初に潜るかだは話し合っていた。


そこまで高い可能性ではないが潜った瞬間に魔人と鉢合わせ。ということもありえなくはないので、誰もが渋っていたのである。さすがにこちらから同行を頼んだ手前クドウ達の誰かに任せるわけにはいかない。


女性陣2人は最初からなんとなく除外されていたので勇者であるアリアスか戦士のガランかのどちらかだったのだが、ガランが「えー、嫌っスよ、そんな怖いの」と頑として譲らなかったので結局アリアスが一番乗りすることになった。


凶戦士が聞いてあきれると思ったシステアだが、気持ちは分からなくもない。


勇者アリアスでもしぶしぶ了承した事なのにクドウは躊躇すらしなかったのだ。



「かまいませんよ、では」



そう言ってクドウは転移門の中に消えていった。



「ひゅー、クドウさんかっけぇーッス」



直後、ガランが口笛を鳴らしながらそんなことを言う。



「やめろ、バカ」



システアはからかうように言ったガランをたしなめる。ここには『魔王』のアールとメイヤもいるのだ。


失礼うんぬんの前に恥ずかしい。


そんな勇者パーティーの様子を見ていたアルジールはつかつかとガランに近づいてきた。



「おいっ、貴様!」



(しまった! 怒らせたか! まずい)



アールという男をシステアはよく知らないが、気難しい印象を受けていた。リーダーであるクドウをからかわれたと思い、怒ったとしても不思議ではない。


アールの不興を買うことがクドウにどう影響するかまでは分からないが、このアール自体がこの作戦における重要なファクターである。


 アールの隣にいたメイヤという女も今までの様子を見る限りアールとはかなり親しそうだ。恋人という可能性もある。



「すいませ——」


システアが謝罪しようとした瞬間、アールは笑顔を溢しながら言った。



「クドウ様がカッコいいのは当たり前だ。だが、よく分かっているな。そこの女といい中々話の分かるやつらだ。褒めてやろう」



身構えていたガランは拍子抜けしたように「え、あ、どうもっス」と返事する。


一方、システアはアルメイヤを見ると、アールの言う通りと言わんばかりにうんうんと頷いている。


どうやらクドウが褒められたと思い、ガランに好印象を受けたようだ。いつの間にかシステアも好印象を受けていたらしい。



「さて、では次は私が続くとしよう」



アルジールはそう言い、転移門の中に消え、更にその後にメイヤが続いていった。



「……なかなか面白い人たちですね。じゃあ僕も」



「俺もっス」



「じゃあ、私もお先に」



「…………。」



システアも勇者の後に続いていったのだった。 

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