第17話 ゴブリン
ゴブリンの巣くう洞窟はシラルークから東に5km程歩いた森の中にあった。
普通に歩けば1時間ほどの距離だが、俺たちは道中で出会う小さな小動物の魔物やゴブリンを倒しながらゆっくりと進んだ。
「それにしても本当に弱い魔物しか出ませんね」
ゴブリンの最後の一体を初心者装備の剣で一刀両断にしたアルジールが俺に言った。
「まぁ始まりの町周辺のフィールドマップだからな」
そうここは始まりの町シラルーク周辺のダンジョンですらないただの森なのだ。
始まりの町とは俺が勝手に言っているだけで、別に強い魔物が出てもおかしくはないのだが、結局ゴブリン以上の魔物には今のところ遭遇していない。
これくらいなら初心者冒険者でもサクサクと進める事だろう。
後から聞いた話だが、ゴブリンでも複数体でF級冒険者が1人でいる所を襲われるとかなり苦戦し、中には命を落とす者もいるらしいが、今の俺達には知る由もない。
「魔界であれば逆に希少種な者達ばかりですね。流石にフェンリルくらいはいるかと思ったのですが」
「うん、そうだな」
これも後から聞いた話だが、フェンリルは単騎で倒すなら最低B級冒険者の実力が必要らしい。
つまりシラルークの中では結構強めなC級冒険者のプリズンでも単騎で挑めば、勝つ可能性の方が低い強力な魔物らしく、そんな魔物がシラルーク周辺にゴロゴロいるような状況だった場合、ほとんどの冒険者は町の外を出歩くことすらできなくなってしまうわけである。
「さーて、そろそろみたいだぞ」
木々の隙間からお目当ての洞窟が見えてきた。
いよいよ初の色々すっ飛ばしてのD級依頼のスタートである。
洞窟の前までやってきたアルジールが俺に素敵な提案をしてくる。
「クドウ様、ここから炎の魔法で洞窟内を全て焼き尽くせば、手っ取り早く済むのではないでしょうか?」
確かに手っ取り早い。
だが、却下だ。
「それだとないと思うが、洞窟内に他の冒険者がいた場合、不味いことになる。あとこの依頼達成には複数のゴブリンの体の一部分を冒険者協会に提出しなきゃいけない事になってる。基本は耳の一部だな」
そうでもしないと依頼を達成してもいないのに、達成したと嘘を言う輩が出てくるかもしれないからという事でそういう決まりごとになっているらしい。
冒険者がいないとしても、アルジールが放った炎魔法でちょっぴりこんがり程度で済めばいいが、全てが消し炭に……なんてことになれば依頼達成は不可能になってしまう。
ていうかこいつの事だ。加減なんてうまくできるはずがない。
それ以前に俺は初依頼を楽しみたいのだ。
そんなことをされては困る。
「……そうですか」
アルジールは少し残念そうだ。
久々に大きな魔力を使ってみたかったに違いない。やはり止めて正解だ。
そのままやらせていたら俺の予想通りの消し炭コースだったに違いない。
というわけで俺たちは洞窟内を進む事にした。
洞窟内はもちろん暗い。なので俺は光魔法トーチを使う。
別にやろうと思えば暗闇のまま戦うこともできるが、その場合相手の大まかな大きさは分かるが、相手のはっきりとした種族まで視認することはできない。
先に言った通り他の冒険者がいる可能性も0ではない。
いたとしてもあちらも光魔法か松明くらいは用意しているだろうが、念には念を入れてだ。
幸いトーチの魔法消費はF級冒険者だとしても大した負担にはならない。
「さて、進むぞ」
「畏まりました、クドウ様」
俺たちははっきり照らされた洞窟内を進み始める。
F級冒険者のトーチの場合、洞窟内の使用者周囲をある程度照らすくらいの規模しか出せないが、俺にかかれば、日中の町中にある建物並みの明るさを確保できるのだ。
少し歩いた所で俺たちは岩陰からこちらを窺っている存在に気づく。
ゴブリンだ。
「あれで隠れているつもりなのでしょうか?」
「F級冒険者なら気づかない事もあるんじゃないか?」
ゴブリンとしては真面目に隠れているつもりなのだろう。F級冒険者なら気づかなくても不思議ではないが俺達相手にアレでは、道の真ん中につっ立っているのと同じだ。
俺たちは気づいているが、あえてそのまま進む事にした。
ゴブリンの岩陰の横を抜けようとした時、ゴブリンは卑しい笑いを浮かべながら俺に小型のショートソードで襲い掛かってきた。
「キキィー!」
俺はそんなゴブリンの放った渾身の突きを躱すでもなく、右手の親指と人差し指の間に挟み込むとゴブリンは驚愕の表情を浮かべた。
ゴブリンは俺につままれた剣を引き抜こうとジタバタするが、微動だにしない。
すると、ゴブリンは剣を諦めたのか、必死の形相で洞窟の奥へ逃げ出した。
「アール! あ、魔法は使うなよ」
「畏まりました」
アルジールの事だ。魔法を使わせたら跡形もなく。なんてことになる可能性がある。
アルジールは逃走を図るゴブリンに目にも止まらぬ速さで迫り、後ろから一刀両断に切り捨てた。
さてと。
俺はゴブリンの死体に目をやると、耳の先端を持っていたナイフで切り離す。
冒険者協会に提出する用の証拠部位の回収である。
「こうやるんだ。分かったか?」
「なるほど、いちいち面倒ですが仕方がありませんね。クドウ様が嘘を吐くなどなどあり得ないというのに」
俺がつかなくても、他の冒険者がつく可能性がある。アルジールの言う通り面倒だが、仕方ない事だ。
洞窟内最初のゴブリンを倒した俺たちは更に洞窟の奥へと進んでいくのだった。
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