第18話 頭が悪いのではない。頭がおかしいだけなのだ。
「うはー、結構いんなー」
その後も、ゴブリンを数匹倒しながら、洞窟内を進んでいくと俺たちはかなりの数のゴブリンがひしめき合う空間に到達した。
洞窟内で最初にあった剣を使うタイプのゴブリン以外にも弓を持った個体やや体の大きなゴブリンもいた。
この時俺たちは知らなかったが、少し体の大きなゴブリンはホブゴブリンというらしく微妙に種族が違うらしい。
とはいえ、俺達からすれば誤差の範囲でホブゴブリンも魔界では見かけない弱小種族だ。
「36、いや37体ですね」
アルジールは平然と空間内のゴブリンを数えると俺にそう報告する。
37体と言えばそれなりの数だが、ゴブリンはゴブリンだ。
数は力なりとも言うがアリが100匹いようとも象には勝てない。せめてフェンリルならばそれなりに楽しめたかもしれないが、所詮はゴブリンなのだ。
これがD級ランク任務。F級冒険者パーティーでは依頼遂行不可能とされる難易度だが、俺達にとっては取るに足らないものだった。
「さて、さっさと終わらせてサクサクランク上げていこう」
「畏まりました」
アルジールと俺は何の対策もなくゴブリンひしめく空間へと侵入するとゴブリンたちが俺達にニヤニヤと卑しい笑みを浮かべた。
最初のゴブリンとほぼ同じ反応である。
人間2人にこの数のゴブリンは倒せないと思われているようだ。
恐らく大した事がない敵としか戦ったことがないのだろう。
そもそも、高ランクの冒険者がゴブリン討伐の依頼など受けることなどないので当然と言えば当然である。
弓を持ったゴブリンたちが一斉に俺達に抜けて弓矢を放った。
明らかに大した威力がなさそうなへなへなの弓矢で特に魔法的な効果も毒も付与されていない。
まぁそもそも毒なんか効かないけどな。
転生して人間の体にはなっているが、俺やアルジールは魔力の操作で毒を瞬時に分解する技術を持っている。
魔界の強大な魔獣の体内で生成された猛毒ならいざ知らず、ゴブリン如きが作った毒など人間の体であったとしても問題はない。
色々考えているうちにようやくゴブリンが放った弓矢は俺たちの間近まで迫ってくる。
「まぁ当たった所でだが」
俺は防御魔法の1つ、フレイムヴェールを俺とアルジールの前に展開した。
フレイムヴェールに触れた弓矢は瞬時に消し炭となりパラパラと俺たちの足元に落ちた。
それを見ていたゴブリンたちには何が起こったのか理解できなかったのか「キキィーキキィー」と喚いている。
「魔風刃」
俺がそう呟くと音もたてず、風の刃が同時に6発放たれた。
弓矢を放った6体のゴブリンにちょうど1発ずつ。正確にゴブリンの首に目掛けて放たれた風の刃をゴブリン達は認識することなく首に受け、ボトリと6体全てのゴブリンの首が落ちた。
「キキィー! キキィー!」
仲間を一瞬で6体もやられ、生き残っている他のゴブリン達は怒り狂って喚き散らすが。
すまん。何言ってっか分からん。
流石の俺もゴブリン語まで嗜んではいない。怒っていることはギリギリ理解できるがそれ以上の感情を読み取るのは難しい。
「キィキィとクドウ様の前で喚くな、ゴブリン共が!」
アルジールが魔法も使わず、ゴブリンの群れに突進をかける。
別に、俺みたいに証拠部位が残る形でなら魔法を使ってくれても構わないのだが、俺との約束を守るためか初心者用の剣で次々と喚き散らすゴブリンをばっさばっさと切り捨てている。
そして、気づくとゴブリンはたった1体になっていた。
やや後方でアルジールとゴブリン達の戦闘を見守って——というよりは手助けする間もなくアルジールが全て切り捨ててしまったのだろう。
少し体の大きなゴブリンが俺たちの前に出てきた。
よく見ると、ノーマルの普通ゴブリンよりもやや大きな個体よりも更に体が大きい。
恐らくはこの群れのボスなのだろう。
ボスゴブリンは前に出ると、俺たちの予想外の行動に出た。
「我はゴブリンロード。ゴブリン王に仕える四天王が1人」
なんと人間の言葉を発したのだ。
これほどはっきりと人語を話す魔獣は魔界においても結構レアだ。これはかなり期待できそうで……
ってあれ?
俺がこれから始まるであろう激闘を予感していると、気づいたらゴブリン四天王の首が地面に転がっていて、俺と視線が合った。
「なっ!」
ゴブリン四天王は自身の首が落ちているにも関わらず、自分の現在の状況に驚愕し、わずかだが、驚きの言葉を発した。
だが、その言葉以降ゴブリン四天王は言葉を発することなく、絶命してしまった。
アルジールは既に倒してしまったゴブリン四天王に背を向け俺の所まで戻ってきて、さわやかイケメンスマイルで言った。
「終わりました。クドウ様」
「終わりましたじゃねーよ! このクソボケぇぇぇーーーー!」
何勝手に終わらせてんの? 四天王まだ喋ってたじゃん。つかなんかレアキャラっぽかったのにあっさり殺してんじゃねーよ!!
仮にもお前も元とはいえ四天王だろうが! なんかないのか!
心で叫び声を上げた俺だったがアルジールにはあまり響いてないようだ。
「えっ、どうされましたか? クドウ様」
などと言いながらきょとんとした顔で俺を見ている。
えっ、俺なんかしました? みたいな反応である。
そういえばこいつは最初に俺と出会った時、自身が持つ最強魔法を俺が自己紹介をしている最中にぶっ放してくるようなサイコ野郎だった。
俺でなければ確実に死んで、目の前のゴブリン四天王と同じ運命をたどっていたことは間違いない。
それに激怒した俺はアルジールを容赦なくボコボコにして言う事を聞かせて今に至る事になったのだが、まだ理解できていなかったようだ。
俺は今回はボコボコにすることなく、血管をぴくぴくさせながらだが、極めて優しくアルジールに言い聞かせる。
「いいか、アール。自己紹介中とか大事そうな場面では相手を攻撃してはいけないんだ。分かるか? 分かるよな?」
俺がそう言うとアルジールは納得したのかしていないのか——
「それは大変失礼いたしました。クドウ様の命令であればこれからはそうすることにします」と言った
。
理解はしていなくても俺の言う事は聞くんだよな、こいつ。もうダメだ。諦めよう。
俺はそう心に誓い、戦後処理をアルジールに指示する。
「……それでいい。証拠部位の回収は任せた」
なんかやる気が失せた俺は証拠部位の回収をアルジールに任せることにした。
やり方はおしえてあるので、これくらいは問題なくできるだろう。
間違ってはいけないがアルジールは頭が悪いのではない。頭がおかしいだけなのだ。
俺に指示された通りアルジールは手際よくゴブリン達の耳を回収して、俺が渡しておいた皮袋に次々と放り投げていき、数分で作業は完了した。
「……帰るか」
「はい! クドウ様!」
ちょうど俺達が帰ろうとしたその時だった。
ごぉぉぉー!
凄まじい勢いの炎が熱波と共に俺達に襲い掛かってきた。
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