第7話

 次の日の朝、緊急の合同朝礼が開かれて全校生徒が講堂に集められた。全校生徒が集まると校長先生が壇上に上がって行き、そして話を始めた。

「今日、皆さんにとても悲しいお知らせがあります。二年A組の浅村美帆さんが交通事故で亡くなりました」

 またこの第二校の二年生の人が亡くなったということで集まった生徒達は言葉にならないくらいに驚いていた。そしてしばらくすると泣き声があちらこちらで聞こえてくるようになっていた。私も鼻をすすりながら涙を流していた。ハンカチをポケットから出して涙を拭くけど次々と涙が流れてくる。美帆は数少ない私の親友と呼べる大切な人だったから。昨日、美帆からLINEが来て私に助けを求められていたのに、私は何も出来ずに助けることが出来なかったという、とても悔しい思いもあった。合同朝礼ではほかにも何かを話していたけど、何を話しているのか良く判らなかった。話している事は実際に耳からは入っていたのかも知れない。しかし、私の頭の中は美帆が亡くなった事がとても信じられることが出来なくて、美帆のことしか考えられなくなっていた。

 教室に戻ると担任の先生から、またすぐに私は校長室に行くように言われていた。そして校長室に行くと、いつものようにスーツ姿の人が二名と警察のジャンパーを着た人が一名居た。

「中沢明理さん、朝早くから御呼び立てしまして申し訳ありません。ちょっとお聞きしたいことがありまして」

「美帆のことですか?昨日、美帆から数字メールが来たというLINEが来ました」私がそう言うと警察の三人はお互いに顔を合わせた。

「美帆さんと言うのは昨日、交通事故で亡くなった浅村美帆さんのことですか?」

「はい。二年A組の浅村美帆さんです。私のとても仲の良い親友でした」そして私はスマホを取り出しLINEを開いて机の上に置いて見せた。ジャンパーの人が私のスマホを手に取り、スーツ姿の人たちにも見せて確認しあっていた。

「午後6時21分に浅村さんからLINEが来ていますね。そのわずか二分後に今度は中沢明理さんから浅村さんに送っている」

「はい、それからすぐに既読になったので良かったと思ったのですが、それから美帆からの返信を待っていたんですけど来なかったんです」

「これは本当に昨日の出来事だったのですか?」LINEに表示されている時刻を見ればすぐに判るのに、警察からの質問の意味が私には良く判らなかった。

「昨日の午後の出来事に間違いがありません」私がそう答えると警察の人が何か話し合い、そして頭を抱えていた。

「浅村さんの事故は昨日の帰宅途中と見られる午後4時頃に起きた出来事なんです。事故現場から浅村さんの壊れたスマートフォンも見つかっています。ですから昨日の午後6時過ぎという時間には浅村さんにLINEが送れる訳が無いんですよ」私には警察の人が言ってきた言葉がとても信じられなかった。一体、何が起きているのかも判らなくなっていた。

「実は今日お聞きしようとしたのは、昨日の中沢さんの行動を聞こうと思ったわけです」また私のアリバイを聞こうとする警察の人たち。私の何処に悪いところがあるというのだろう。

「昨日は午後3時に完全下校になり同じクラスの兼房百希さんと一緒に帰りました。そして午後3時40分頃に家に着いて、そこから30分位してお姉さんが帰ってきて三人で一緒に話をしました。そして午後5時頃に話が終わって、遅くなってはいけないので百希とお姉さんと私で百希を家まで送ってから、私とお姉さんは一緒に家に帰りました。家に着いたのは午後6時過ぎくらいです。それでまたお姉さんと話をしていたら、美帆からLINEが来てすぐに私は返信しました。それから午後7時頃にお母さんとお姉さんと私の三人で食事をして、ゆっくりとテレビを見ていたら、午後8時頃にお父さんが帰ってきて、お父さんが食事をしているときに私はお風呂に入って部屋に行って、自分の部屋で宿題をしてから夜の11時半頃に寝ました」

 私は昨日の行動を話した。

「浅村さんから中沢さんのスマートフォンにLINEが送られて来たのは午後6時21分……一体どういうことだ……」私のスマホを手に取り画面に表示されている時刻を三人で見て小さな声で話していた。私にもこれはどういうことなのかと聞かれても答えようが無い。私は午後6時過ぎのその時刻に本当に美帆からのLINEを読んですぐに返信しただけだったからだ。しかし実際の美帆はその2時間前の午後4時頃に交通事故ですでに亡くなっていた。美帆のスマホも壊れているけど発見されている。2時間前に送ったLINEメッセージが2時間も掛かって私のスマホに届くことはまずありえない。でもそのありえないことが実際に起きたのでした。

「一緒に帰ったというそのクラスメートの兼房百希さんという人に会って話を聞いてみるか……」という言葉が聞こえてきた。そしてスーツ姿の一人が窓際で椅子に座っている教頭先生に話しかけている。そして教頭先生が電話を掛け始めていた。しばらくすると校長室に百希がやってきた。そして昨日の行動を警察の人に話すことになったが私の話していた通りに、一緒に帰って私の家に一緒に行き、私のお姉ちゃんと話をして家まで送ってもらった事を話をしてくれた。私の言っていることに間違いが無い事を証明してくれたのだった。

「実はですね。昨日、浅村さんの事故現場に中沢さんが居たという証言があり、それを確かめたかったのです」警察の話は私をさらに驚くことになった。私が美帆の事故現場に居た?そんなはずは絶対に無いことだった。

「絶対にそんなことはありえません。私は百希とずっと一緒に居ましたし、美帆の事故現場は何処なのかも私は知りません」そう言うと警察の人が美帆の事故そた場所を教えてくれたのでした。私の家や百希の家と凄く離れている場所を警察の人は言ってきたのだった。

「市野ショッピングモール前の道路で急に飛び出してトラックにはねられたのです」警察の言っている事故現場は私は耳を疑った。学校からも家からでも市野にはあまりにも遠すぎて行く事が無かったからでした。学校から市野まで行くにはバスで街に出てから、バスを乗り換えて市野に行くと言うことが出来るのですが、とても大回りになるので普通はバスを使う人いません。学校から直接、自転車で行くにも1時間以上も掛かります。私の家からでは乗用車を使っても40分位の時間が掛かってしまい、とても遠すぎるので私達は市野には行くことが無いのです。そこまで時間を掛けて行くのなら同じような総合商業施設のサンストやプレ葉に行くほうが近くて便利なのでした。

「私は市野は行っていませんし、学校から家までの道のりでも市野とは方向が全然違います。百希の家も同じように方向が違います」私ははっきりとした口調で否定した。そしてすぐに私は兼房さんと共に校長室から解放されたのだった。

「なんか明理のことを疑っているみたいな感じだったね」百希さんにそう言われて私はなんか気分が悪かったが、警察とのやり取りで疑問に思った事を百希に聞いて見ることにした。

「百希、LINEって受信遅延は起きることがある?」

「LINEの受信遅延が起きたら普通にネットで騒がれないかな。どのくらい遅れていたのかという遅延時間にもると思うけど」

「軽く見ても2時間くらいの遅延かな」

「そういうニュースが無いしネットでも騒がれていないから、2時間の受信延滞はありえないんじゃないかな。それで何かあったの?」

 私はスマホを取り出して、百希に表示されているLINEの時間を見せた。

「美帆が私にLINEを送ってきた時刻の2時間前に、美帆が交通事故で亡くなってるの」と百希に話すと「はぁ?!」と大声を出して、とても信じられないという様子で私を見ていた。

「まず確実に言えることは、そのようなことは絶対にありえないと言うしかないかな……」百希の言いたいことは私にも判っている。でもその実際に起きる筈の無いありえないことが、実際に私の身に起こっている事を考えないといけないのだった。そして教室に戻り自分の席に座ると百希も頭を抱えて考えていた。

(LINEの2時間の受信遅延……実際に美帆から私のスマホにLINEが来た時刻の2時間前には、美帆はすでに交通事故にあって亡くなっている。スマホも事故の衝撃で壊れているけど見つかっている)

  私の周りで一体何が起きているのだろう。私の周りだけ空間が変わっていて、時間と言うものが歪められている様な感じだった。

「そういえば警察の人が言っていた美帆の事故のあった時間の午後4時過ぎって言ったら、私は百希と家で話をしてた時だよね。昨日の下校時刻って午後3時位じゃなかったっけ?」

 完全下校時刻の1時間後に美帆はもうすでに学校から遠く離れている市野に居たことになる。完全下校時刻になったらダッシュで教室から出て自転車に乗り、信号も交通法規なぞ何もかも無視して走りぬくことが出来たら、それでもギリギリなんとか行けるか行けないかという時刻になると思うのだけど、そこまで急ぐ必要があったのだろうか?交通事故って言うだけだけど自転車で事故したのだろうか?あれ?自転車のことは何も聞いていない気がする。

「美帆さんって何処のクラスなの?」いきなり百希が話しかけてきて、驚きはしたものの冷静に装い私は答えた。

「お隣のA組だよ」そして私は百希に連れられてA組の教室に向かった。

「すいません。お聞きしたいのですけど、A組に浅村美穂さんと言う方が居たと思うのですけど、昨日は早引きをしていましたか?」

 A組に入ろうとした男子生徒を捕まえて百希はその男子に聞いていた。

「昨日は完全下校時間まで全員が居て一人も早引きした人は居なかったよ」

「それでしたらA組の完全下校時刻は何時でしたか?」

「昨日は午後3時で間違いないよ。クラス毎に完全下校時刻が違うって事は無いだろ」聞かれた男子生徒が笑って答えていた。

 完全下校時刻が午後3時で、美帆が亡くなった時間が午後4時頃?やっぱりありえないでしょ。でもそのありえないことが実際に起きている事も事実だった。

「あのさ百希。もし今起きていたをオカルトチックに言うと説明が付く?」私はミステリーやオカルトや超常現象なんてものは私は全く信じていないけど、今の私にはオカルトでもミステリーでも超常現象でも何でも良いから、今私に起きていることを説明できる何かが欲しいと思い始めてしまっていた。

「オカルトっぽく言うと……。たとえばパラレルワールドという平行世界があって、何かの原因で私達の世界と繋がってしまって……」

 私は百希の話を真剣に聞いていた。その私の顔を見て申し訳無さそうに百希は話し始めた。

「私達の違う世界の浅村美穂さんは市野に居たのね。それで私達の世界となにかの拍子に繋がってしまって、でも同じ世界に二人は存在できなくて、こっちの世界の浅村美穂さんは違う世界に行ったとか……。それでこっちの世界に来た浅村美帆さんは交通事故にあって帰れなくなって……。こっちの世界の浅村美帆さんも帰れなくなってしまったとか……」百希さんも自信が無くなって行き、段々と声が小さくなっていた。

「そのようなことなら西守采佳さんのことも言えるかもしれないね。こっちの世界の西守さんはちゃんと自室に居て、違う世界の西守さんは湖に行っていて、違う世界がこちらの世界と繋がってしまって、こっちの西守さんが違う世界に行ってしまって、違う世界の西守さんは湖で溺死しちゃって帰れないから、こっちの西守さんが違う世界に行ったままになっているとか」

「まあ、オカルトや超常現象っぽく言ってしまったら、そういうことになっちゃうかも……」

「しかし今の私には百希のオカルト・超常現象の話が一番しっかりとした説明になっていて、とてもしっくり来るというところも、なんと言ったらいいのやら……」

「でもこの説明にはとても大きな穴があるんだけどね。警察の人が言っていた明理の目撃証言だけど、もしこの説明が実際に起きたとしたら市野で見かけたという、もう一人の明理の説明が出来なくなるんよ。だって明理は私とかお姉さんとずっと一緒に居たでしょ。違う世界の明理がこっちの世界に来ている間は、こっちの世界の明理は消えて違う世界に居ないといけないんだから、この説明では不十分になるのよ」百希はオカルトっぽい平行世界説を自ら否定してしまった。

「例えばそのオカルトチックな並行世界説を警察の人に説明したとして、信じてくれる確立ってどのくらいあると思う?」

「オカルトを全く信じていない人にオカルト話をしたら、どのくらいの確立で信じてくれるかって事?この世に幽霊が存在するんだよって言って信じてくれると思う?確率で言ったら、絶望的なくらいに絶対と言って良いほど信じてくれることは無理なんじゃないかな」

 平行世界説の落とし穴を見つけて、さらに確立としてもほぼ零パーセントの確立とはまったく絶望的ですよねえ……。予想していたことですけど…。結論から言ったらしっかりと事実を見よ。ということなのでしょうかね。

「他にもオカルトチックに言って、今私たちに起きている事を説明できるものはある?」

「美穂さんが瞬間移動して市野に行っていたとか、明理のドッベルゲンガーが居て、この世界に明理が二人存在して居て、美帆さんの事故現場に居たところを目撃されたとかじゃないかな。全部否定が出来ちゃうけど」

 オカルトチックに考えても今の私達に起きていることが全部否定されてしまう。つじつまが合わない部分が出来てしまう。どのように考えても不思議で説明が出来ないことが私の周りで起きているのでした。


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