第3話

『城北第二高校二年の西守采佳あやかさんが今日未明、遺体となって発見されました。湖の湖岸沿いで釣りをしていた釣り客によって発見されました。警察は事件・事故の両方で捜査が進められています』

 日曜日の夜のニュースが流れてきた。


「ニュースを見た?采佳ちゃんが亡くなったって!」同じようなメッセージが友達から次々と送られてきて、私のスマホはずっとメッセージ受信状態で受信音が鳴りっ放しになっていた。クラス全員から私宛てに一斉にメッセージが送りつけられて来ているんじゃないか?と思うくらい何時まででも鳴り続けていました。

 ようやく静かになり落ち着いた頃に私は送られてきたLINEを見ることにした。次々と送られて来ていたメッセージ、特に采佳ちゃんと仲が良かった友達からは何度も私にメッセージを送ってきた様子でした。とても信じられず辛い・悲しいという悲痛な感じのメッセージが綴られていた。ほとんどのメッセージが信じられない、辛い、寂しい、悲しい、という内容のものでしたが一人だけ違うメッセージの人が居た。

 浮本莉菜まりなさんというクラスメートで私とはあまり話をしない人だった。クラスの中でとても大人しく物静かな感じの子で、いつも本を読んでいるタイプだった。何か忘れたけど何かのきっかけで一回だけ私と話をしたことがあり、そのときにLINE交換をしただけで、言ってしまえばただそれだけの人だった。その莉菜さんから私にLINEが来ていたことにまず驚いた。そしてメッセージの内容を読んで私はさらに驚くことになった。

「明理さん、こんばんは。今、大丈夫ですか?」

「この前、クラスで明理さんが数字だけのメールが来たと話をされていたことを聞いていてLINEしました」

「その数字というのは『11104』と『1056194』という数字でしょうか?私のところにも昨日、そのような数字のメールが来ていました」

 数分の間に続けて3つもLINEが来ていてかしこまった話し方でしたが、なぜだか私には莉菜さんは気味が悪いメールが来てどうしたらいいのか判らないから私に聞いてきたという状態になっているように感じていた。私はすぐに莉菜さんにLINE返信をした。

「莉菜さん、お風呂に入っていてすぐに読めなかったの、ごめんね。そのメールはまだ残ってる?警察で情報が欲しいって言っていたから、明日そのメールを見せて警察の人に相談をしてみたらどうかな?」

 私はLINE返信を送ったが、いつまで経っても既読が付くことが無かった。何故既読が付かなかったのか。その答えを次の日の月曜日、学校で知ることとなった。


 月曜日、私は学校に向かい教室に入るとすぐに、教室に居た担任の先生から校長室に大至急行くように言われることになった。校長室に入るともうすでに朝から警察の人たちが来ていた。

「中沢明理さんですね。朝から呼び出しして申し訳ないですが、浮本莉菜さんを知っていますか?」

 私が呼び出されたのは数字メールのこと、もしくは日曜日のニュースの西守采佳さんのことだろうと思っていたのだけど、私の予想を反して浮本莉菜さんのことを質問されたことに何が起きたのかよく判らないとても変な気分だった。

「莉菜さんとは同じクラスで仲が良いと言う訳ではないのであまり話をしないのですけど、LINE交換はしていましたので知っています」

「中沢さんは莉菜さんのスマートフォンにLINEを送っていますね。どのような内容だったのか教えて貰ってもいいですか?」

 私は自分のスマホを取り出し、莉菜さんとのLINEのやり取りを警察の人に見せた。

「昨日の夜に莉菜さんからLINEが来ていました。立て続けに3つも来ていて畏まった物言いでしたけど、文章の内容から莉菜さんがとても困っている感じを受けたので読んでから私からもLINE返信を送りました。スマホを見てもらうと時間も入っているので、莉菜さんが私に何時どのような内容を送ったのかがわかると思います。しかし私が莉菜さんに送ったLINE返信が何時まで経っても既読が付かないんです。それで私は不思議に思っていました」

 スーツ姿の二人以外にもあの警察のジャンパーを着た警察の人も一緒に来て居て、「ちょっとLINEのやり取りを見せてもらってもいいですか?」と言った。私は「はい。良いです、どうぞ」と答えるとその人はすぐに私のスマホを取り、内容を確認し始めていた。

「他にも沢山の人からLINEが来ている様子ですけど、莉菜さんのLINEを読んだのはなにか意味がありますか?」

「昨日はクラスメートの西守采佳さんが亡くなったと言うニュースがあって、ずっとスマホが鳴りっ放し状態になったんです。それで落ち着いた頃に友達数人のLINEを読み始めました。そして大体の人が西守さんのニュースのことを言っていたので、全員を見るまでもないかなと思っていました。ところがめったに話をしない莉菜さんからLINEが来たことに驚いて、私は莉菜さんのLINEを読んだのです」

「そしてメッセージの内容を読み終わったら、莉菜さんのところにも数字だけのメールが来ていることが判ったと言うことですね」私のスマホの内容を見ていたジャンパーの人が何故か納得した様子で私に語りかけていた。

「はい。その数字だけのメールの事は私が警察の人に話をしていたので、まだ消していないのなら警察に見せて相談したらどうですか?と伝えたのです」

「メッセージを読みLINE返信をしたのは良いが、何時まで経っても既読が付かなかったということか……」

 私のスマホをスーツの人にも見せて確認し合っていた。

「中沢明理さんが浮本莉菜さんにLINEを送った時刻は午後9時35分。浮本莉菜さんが中沢明理さんにLINEを送った最後の時刻は午後9時22分……」スーツ姿の人が確認をしていくように言いながら手帳に書き込んでいた。

「中沢さん、日曜日に家に帰ったのは何時頃ですか?」スーツ姿の一人が私に質問を始めた。

「日曜日は部活があったので部活に行き、終わってから友達とショッピングモールに行って、みんなと一緒にお昼ご飯を食べて、それからモールのお店を見て回りながら話をしていて友達とは午後3時頃に別れました」

「それから中沢さんはどこかに行きましたか?」

 スーツ姿の警察の一人が私のアリバイを調べるかのように聞いてきたので、私は細かく正直に日曜日のそれからの行動を話した。

「みんなと別れてから私は図書館に行って机に座って本を読んでいました。それから午後5時過ぎに5冊の本を選んで借りてきました。そして家に向かって午後6時前には家に帰っていたと思います。家に帰ってからはずっと私は家に居てお母さんとお姉さんと一緒に夕ご飯を食べて、借りてきた小説を読んでいたりテレビを観ていたりしていました。夜8時過ぎにお父さんが帰ってきて、お父さんは食事を始めました。私はその時刻にお風呂に入りました。お風呂から出てから髪を乾かしたりしていたときに夜の9時前にニュースがあって、クラスメートの采佳さんが亡くなったというニュースがあり耳を疑っていました。ニュースが終わった午後9時過ぎにスマホが着信で鳴りっ放しになって、友達のLINEを見ると采佳さんのことが書かれていて、他を見ても大体みんな同じようなメッセージだったので読むのを止めようかなと思っていると、莉菜さんからLINEが来ていることが判って、気になって読んでみたら数字メールのことが書いてあったんです」

「その莉菜さんのLINEのメッセージの中に『11104』と『1056194』という数字が書かれていますが、中沢さんの言っていた数字のメールも同じものでしたか?」

「はい、そのような数字メールと似たようなものが私のところに5通くらい来ました。書かれていた数字まで同じだったかというと覚えていないので判らないですけど、こういう数字だけのメールが私のところにも来ていました」

 スーツ姿の人は手帳に書き込んでた、そして質問を始めた。「中沢さんはこの『11104』と『1056194』という数字を見て何の事だと思いますか?」

 私は首を左右に振りながら「ぜんぜん意味が判りません」と答えた。

「そうですか。朝早くから来ていただいて本当にありがとうございます。もし中沢さんのところに送られてきた数字を思い出したらすぐに連絡をください」そして私は校長室を後にした。


          ☆ミ


「明理、また校長室に呼ばれていたの?今度は何があったの?」隣の席の友達が聞いてきた。

「昨日の夜に莉菜さんからLINEが来たの。そのLINEのやり取りでこの前に話した数字のメールのことを話していたんだよね。その事を警察の人が私に聞きに来たの。私に聞かずに莉菜さんに直接聞けばいいのにね」私がそう言うと集まってきた友達の一人が私に話しかけた。

「明理は朝から校長室に行っていたから聞いていないんだっけ。莉菜さんは昨日の夜に亡くなったみたいよ」

「はぁ?何言ってるの?昨日の夜9時半頃に莉菜さんからLINEが来ていたんだよ?」私はとても信じられないと思ったことと、茉莉さんの送ったLINEの既読が付かなかった理由をここで初めて知ることとなった。

 私はスマホを取り出し莉菜さんからのLINEを見ていた。午後9時22分の時は莉菜さんはまだ生きていた。そして私が送った時刻は午後9時35分。このたった13分の間に莉菜さんの身に何かが起きたに違いないと思っていたが何が起きたのかが全く見当も付かない。

「ねえ、莉菜さんはなんで亡くなったの?」

「自宅で亡くなったということしか先生は教えてくれなかったからよく判んない」

「それなら采佳ちゃんの死因って何だったの?」

「溺死って言っていた様な気がする……」

 こんな静かな田舎町が全国ニュースの話題になり、マスコミも押し寄せてくる事態にまで発展して、一気に騒々しい町に変わって行った。未だに最初の殺人事件の犯人も見つかっていなくて、犯人の目星もついていない。殺人事件の後に高校生が2人も亡くなっていて、ゴシップ雑誌には『静かな田舎町に恐怖が訪れる!連続殺人事件か!?』という雑誌記事までも出てしまってとても酷い有様になっている。月曜日の今日、城北第二高校では全部の部活動中止が決まり、登下校は一人で居ないことという決定が下されることとなった。数日後には城北第二高校だけの問題では無くなって松浜市全体の問題となり、市内すべての小学校では保護者付き添いの集団登下校となって行った。市内の中学校や高校でも第二高と同じように部活動の禁止となり、登下校では一人で行動しないということが決まっていった。市内のあちらこちらの町内では自警団なるものが出来上がり、登下校時に生徒が良く通りそうな交差点に立って生徒達を見守る運動が行なわれていった。どこを通っていても交差点には保護者達や警察の人達が立っているという異様な光景になっていった。

 私達も一ヶ月前に国房美樹さんの葬式が行なわれたばかりだというのに、今月に入ってから西守采佳さんと浮本莉菜さんの2人のお通夜とお葬式が執り行われることになり、クラス全員で二人の家に行くことになった。浮本莉菜さんのお通夜のとき、記帳すると私の名前を見てすぐに莉菜さんの家族が私のところに来て話を始めた。「莉菜がご迷惑をお掛けしたみたいで本当に申し訳ありません」と言われてしまった。「私こそ申し訳ありませんでした。もし莉菜さんからのLINEをすぐに読んで返信していたら、もしかしたら何かが変わっていたんじゃないかって思ってしまって……」

 LINEの返信一つで状況が変わると言うことは実際には無いのかもしれない。しかしもしかしたら数パーセントのことだけでも微妙な違いで結果が大きく変わっていたかもしれない、もしかしたら莉菜さんが生きていたかもしれない。そう思うと私の心が痛くなってくるのだった。

「もしよろしかったら莉菜さんがどのように亡くなったのか教えて頂けませんか?」私がそう言うと家族の人達はお互いに顔を合わせて目で何かを言い合っている様子だった。そして莉菜さんのお母さんが口を開いた。

「莉菜は自殺しました。自分の部屋で首を吊って亡くなりました……」お母さんがそう答えると、私は絶対に泣かないと強く決めていたものが一気に崩れてしまいました。莉菜さんのお母さんは私を優しく抱きしめ一緒に泣いてくれました。

 私が落ち着きを取り戻してから、削除しても削除出来ないメールのことを思い出していた。私にあのメールが来たときとても気持ちが悪くて怖かった。でも自殺するくらいに怖かったのかというとそこまで恐怖と言うものは無かった。どちらかと言うと気持ちが悪いという方が強かったのではないか?今思うとそう感じていた。

「莉菜さんのスマホに数字のメールが来ていたらしいのですけど、そのメールはまだ残っていますか?」私がそう聞くとお母さんは首を横に振った。

「警察が来て莉菜のスマートフォンを見ていたのですが、メールは一件も入っていなかったそうです」

 私と同じように莉菜さんも気持ちが悪くて消したのだろうと思った。しかしそれなら余計に自殺の動機が無いようにも思えていた。

(私のところに来た数字メールとは違ったメールが来ていたのでは無いだろうか?そしてそのメールを読んでから、その内容にとても酷いことが書かれていて、莉菜さんはとても苦しくなり自殺をしたのではないだろうか?)それしか私には思いつくことが出来なかった。しかしそれを確認しようにも、消去されていて莉菜さんのスマホには受信メールが一通も残っては居なくて確認することも出来ない、私の考えはただの憶測に過ぎないことだということもよく判っていた。



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