第2話
一年一学期の中間テストも何とか無事に終えることが出来て、学生の私達はちょっと気が緩みがちになっていた。
ちょうど予定されていた試験日に国房さんのニュースがあり、テスト期間が後ろにズレるという事態にまで陥ったが、このような事態でも中間テストは無くなることが無いのかと残念な気持ちになっていたのも事実だった。
しかしその中間テストが無事に終わり、私達はしばしの休息を楽しんでいる様子でもあった。
国房美樹さんの犯人逮捕のニュースも無く、未だに警察車両が町内や学校の周りを何回も走っている、私達の学校内にもいつも通りに警察の人が来て、校長室を占拠している感じだった。
捜査は未だに進展せず、そういう雰囲気も漂っていた。唯一の手掛かりと言うと、国房美樹さんはメールの着信が有るとかなり怯えていたと言う証言があり、その証言を特に警察は重要だと見ているらしく、他にも怪しいメールが来ていた生徒が他にも居なかったか探し始めていた。
まず担任の先生から、『怪しいメールを受け取った人が他の生徒にも居なかったのか、怪しいメールに関することで何か知っている人が居ないのか。警察の方々は情報提供を求めています』ということを朝礼などで話し、
『どんな些細なことでも良いですから怪しいメールが来た生徒は名乗り出るようお願いします』という話があった。私は先生に自分にも変なメールが来たことがあることを話し、そしてまた校長室に呼ばれることになった。
校長室に行くと3人くらい警察の人と思しき人たちが居て、スーツを着ている人が二人、もう一人警察のジャンパーを着ている人が居た。
「中沢明理さんですね。今日は来て頂いてありがとうございます。どうぞお座りください」
私はソファーに腰掛けるとすぐに他の警察の人から話しかけられた。
「早速ですがお聞きしてもよろしいですか?」
私は話しかけて来た方を向いて「はい」と言い頷いた。
「中沢さんにも怪しいメールが来たということですが、怪しいメールというのはどういったものでしょうか?」
「5桁とか7桁くらいの数字が書かれているだけのメールでした」
「それはいつ頃に来ましたか?」
「国房さんの事件の一日前です」
このメールが事件と繋がっているのかわからないけど、事件の一日前という日を考えると私は無関係とは思えないのでした。警察の人もその点は考えた様子で少し興味があるような感じで私の顔をずっと見て前
「誰からそのメールが来たのか判りますか?」
「全く知らない人からのメールでした。メルアドは覚えていないですけど初めて見るメルアドでした。私達は友達と連絡するときはLINEを使いますし、家族や友達のメルアドなら登録はされていて送られてくると名前で表示されるので、家族や友達から送ってきていないことは確実に言えます。それで最初は業者メールだと思いました」
「それで業者メールでは無かったんですね?」
「はい。業者メールだったら数字だけって言うのはとても変なので、これは業者メールじゃないということが判りました」
「そのメールは数字以外に何も書かれていなかったのですか?」
「はい。数字だけの一行で終わっていました」
「他に変わったことは無かったですか?」
「変わっているとしたらそのメールですけど消去が出来ないんです。普通に消去をしようとすると『消去ができません』とメッセージが出てきました。そしてメールを開いて内容を見ると消去が出来るようになったんです。それ以外にはメルアドの拒否をしても次々とメールが送られてきました。メルアド拒否が出来なくて、そのまま消去も出来なくて次々と数字だけが送られてきて、とても気持ちが悪くて怖かったことを覚えています」
警察の人が私の消去できないメールという言葉を聞いたとき、明らかに表情が変わりその場の空気も変わっていくのを私は感じていた。
「今、そのスマートフォンを持っていますか?出来たらその拒否したというメールアドレスを教えて欲しいんです」
私はスマホを取り出して机の上に置いた。
「ちょっとだけお借りしても良いですか?」
私は「はい」と答えると警察のジャンパーを着た人が私のスマートフォンを手に取りなにか弄り始めた。
「メールアドレスの着信拒否をしたんですよね?拒否しているメールアドレスが一つも無いのですが……」
(拒否しているメルアドが一つも無い?そんな馬鹿な!)私はとても驚いていた。絶対に私は拒否設定をした。操作方法も間違ってはいないし拒否操作をしたときにスマホの表示に拒否が出来たことを告げるメッセージが出たことを私は見ている。
「絶対に拒否が出来ています。拒否しましたというメッセージも確認してます。だから操作ミスということは絶対にありません」
私がそう言うとスマホを返してくれて拒否メルアドを見ることが出来た。警察の人の言われた通り、拒否設定されたメールアドレスは一件も登録されていなかった。
(こんなことって……)私は絶対に拒否設定をした。間違えが無かったのに登録がされていない。とてもありえないことがまた一つ起きたことを知ることとなった。
「ちょっとしたことでも良いので、そのメールアドレスに特徴というものを思い出すことは出来ませんか?」
「特徴と言ってもよく判らないです」
「たとえばメールアドレスを作るときに、名前から作るとか誕生日を入れるとかそういうものがあるでしょう。他に契約されたキャリアとかで@(アットマーク)以後のドメインと呼ばれるところがが決まってたり、何か小さなところでもメールアドレスには特徴というものが一つはあるものなんです。少しでもそういう文字列が少しでも判ったらと思うんですが?」
私はあのときのメールアドレスがどういうものだったか、アットマーク以後の文字列も初めて見るものだったがなんとか少しでも思い出そうとしていた。
「アルファベットと数字が沢山並んでいるメルアドだったと思います。アルファベットは単語という感じでは無くって、意味も無くただ文字を羅列しただけのような感じでした。他にはと言うと最後がne.jpだったような……」
「ne.jpで終わっていたんですね。その前は何だったか思い出しませんか?」
「えっと……、ido……」私がそう答えるとジャンパーの人が驚いて聞いてきた。
「ido? ido.ne.jpだったんですか?」
「そんな感じの見たことも無い変なメルアドだったと思います」私がそう答えるとジャンパーの人が他の警察官と話し始めた。
「そのアドレスに間違いはありませんか?」スーツ姿の警察の人から質問されて私は答えた。
「よく覚えていません。でもそんな感じのアドレスだったように思います」私が答えると次にジャンパーの人が私に話しかけてきた。
「本当にido.ne.jpだったんですか?」
「そんな感じの一回も見たことが無いメルアドだったんです。だから絶対に友達や家族からのメールじゃないって思ったんです」
同じような質問をされて私はとても気分が悪かったが、聞かれたことにしっかりと答えることにした。そして私が答えるとずっと聞き役だったもう一人のスーツ姿の警察の人が立ち上がり、私達の居る場所から離れて窓際に行きガラケーを取り出し連絡を始めた。
「中沢さん、何回も同じ質問をして本当に申し訳ありませんが、もう一度だけ確認の意味で質問をさせてもらって良いですか?」
私に質問してくるスーツ姿の警察の人が申し訳が無さそうに話しかけてきた。
「はい。大丈夫です」私は話しかけてきた方を向き頷いて答えた。
警察の人は手帳を見て私に質問を始める。
「事件のあった一日前に中沢さんのスマートフォンに怪しいメールが来た。そしてそのメールは消去できずメールを開いてみた。そうすると5桁か7桁の数字が書かれているだけだった。メールアドレスの拒否をしたが拒否されずにメールが送り続けられてきた。ここまででなにか間違っているところはありますか?」
手帳から目を離し顔を上げて私の顔を見た。
「いえ、間違っているところはありません」私が答えるとまた手帳を見て私に語りかける。
「最初は業者メールだと思ったが数字だけが送られてきたこと、見たことも無いメールアドレスから送られてきたことで業者メールでもない思った。メールアドレスはアルファベットと数字が沢山並んでいてドメインで覚えているのはido.ne.jpのような感じで見たことも無いアドレスだった。ということで良いかな?」また手帳から目を離し真剣な顔で私の目を見て話した。
「はい。間違いありません」と私も警察の人の目を見て答えた。
「その一日だけで、それからそのようなメールは来たかな?」
「いえ、その日の一日だけでそれからは一通も来ていません」私がそう答えるとちょっと残念な顔をしていたのがイラついた。
「中沢さん、ありがとうございます。もしまた同じように怪しいメールが来たら、消さずに警察に届けてくれないかな?」
真剣な表情をしていた顔が急にニコッと笑顔になった。あの笑顔は私の頭にそれからもずっと今でも残っている。私もあの時は緊張して顔が強張っていたと思うのだが、その笑顔で強張りが解けたような感じがしていた。
「はい判りました」と答えると私は立ち上がり校長室から出た。
「失礼しました」
☆ミ
私が長い時間、校長室に呼ばれて話しに行ったことがクラスで話題になっていて、ちょっとした騒ぎになってしまっていた。
「明理、なにか変なメールが来ていたの?」私の隣の席の友達が聞いてきた。
「数字だけ書かれたメールが何通も私のところに来たの。その話をしてきた」
「数字だけのメール?それってどういうものなの?」
「5桁とか7桁くらいの数字しか書かれていないメールで意味が判んなくて気持ちが悪かったんだよね……」
「数字は覚えてるの?」
「5通くらい来ていたと思うんだけどぜんぜん覚えてないよ。メルアドも見たことが無い所から送られてきていてすぐに消しちゃったの」
私がそう答えるといつの間にか周りに集まってきたクラスの人たちがとても残念そうにしていた。
「そういうミステリーぽいのってなんかワクワクしてくるね」
その言葉に私は無神経な言葉のようでムカッと来ていた。実際にそのようなメールが来るととても気持ちが悪くて怖かったからだ。
「ワクワクはしなかったよ。気持ちが悪いし怖かったのを覚えてる」
「確かに意味の判らないメールが何通も来られたら気味が悪くなるよね。すぐに拒否しちゃえば良かったのに」
友達の言葉があったとき、私は拒否したけどそれでも来るということを言おうと思ったが、何故かそのときは言わなかった。今思うと私が何故、友人達に拒否しても来ることや、消去しようとしても出来なかったのかを言わなかったのか判らない。しかし、何故かその時はその事を言わないほうが良いような気がしていた。何故そういう気がしたのかは全く判らない。そのことを話したところでそんなことあるわけが無いとか、そんなメールがあるわけが無いとか言われると思ったからかもしれない。
もし私がそこでみんなにしっかりと話しておけば、私のそのときの行動が大きな過ちだったということがそれから三日後に判ることになった。
クラスメートが事件に巻き込まれることになったのだった。
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