第7話 ナポリタン
時計を見ると5時半——
学校のある日よりも早い目覚めであった。
「そうか、今日先輩が一緒に楽器見に行ってくれるんだよな…」
昨日の出来事を思い出してたら、 朝っぱらからドキドキが止まらなくなった。
あ、勢いで買うことにしたけど今いくら持ってたっけ…。
そう思い僕はいくらあるか数えることにした。
「うーん。15万…」
お年玉とかお小遣いもらったのとか、ほとんどそのまま残してたもんな。この間大江君と使ったくらいだし。彼女がいるわけでもないからそうそう使うことないし…。うん、切ないからもう考えない。
「まぁこれだけあれば足りるよな」
そうして着々と出かける準備を始めた。
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ピリリリリリリリッ!
二度寝しても寝坊しないようセットしておいたアラームが鳴り響いた。8時から毎時間鳴らしているがこれが最後のアラームだ。
「もう11時か」
何だかんだ準備に時間がかかっていた。
とりあえず身だしなみは整えれたし、ご飯食べてから行くか——と思っていたら、 ピロンッ と携帯が鳴った。
確認してみると案の定真奈先輩からだ。
『ごめん藍斗君!! 今起きた! ちょっと遅れちゃうかも!!』
「昨日遅刻しないようにって言ってたくせに先輩が遅刻するんかいっ!」
とは送らずに、『あ、わかりました。大丈夫ですよー』って送っといた。
先輩が遅れてくるとしても僕は待ち合わせ時間につくように行こうと思ったので、昼食を取ってから家を出た。
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「これは、早く着きすぎたよなー…」
現在12時10分であった。
もう一本遅い電車でもよかったかなと思いながらも
とりあえずホームにある椅子に座って待つことにした。
だが、ただ待つだけというのはすごく辛かった。
ドキドキが止まらないのである。
こんな僕でもついに女の子と二人で出かけることができるんだという期待が大きく膨らみ、そわそわしてしまう。
そんな気を紛らわそうと、僕はスマホで適当に時間を潰すことにした。
「あっやっぱり神代君だ〜!なにしてるのー?」
30分経ったくらいだろうか――
いきなり名前を呼ばれたことに驚いて顔をあげると雪平さんが目の前にいた。
「え、あ!雪平さん!びっくりしたー!
今先輩来るの待ってるんだ。一緒に楽器見に行ってくれるって!」
動揺しながらもしっかり会話ができて成長したな、と感じていると
雪平さんはそのパッチリとした澄んだ目で僕を見ながら、「先輩って、部長?」と少しだけ首を傾げて聞いてきた。
そんな素朴な仕草は僕には刺激が強すぎますって……。
さっきまでの成長が嘘のように目線をそらして「う、うん。」と素っ気ない態度を取ってしまった。
先輩と話すときは結構気楽に話せるのに、雪平さんと話すのは難しいように感じる。
「そうなんだね~…あ、じゃあエレキやる感じ?」
「うん。少し弾かせてもらったんだけど、やっぱこれだな!って思えたから。
そういえば雪平さんは何やるの?」
「私はベースだよっ!今までキーボードやってたんだけど、他のもやりたくなっちゃって……あ、もう行かなきゃ!ごめんね、また話そっ!ばいば~い!」
「えっ。あっ。またねー!」
急いでいたらしく、時計を確認するや否や走って行ってしまった。
……やっぱり、雪平さん綺麗だしかわいいな。特に笑った時の表情が天使みたい。
私服も大人びてて雰囲気に合ってたし…って、ダメだこういうこと考えるのは家に帰ってからじゃないと!だが既にそれなりに人通りの多い場所だというのに僕はめっちゃニヤニヤしていた。
我に返ると途端に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「ごめん!待ったよねー!!」
椅子の上で小さくなっていると、真奈先輩が走ってきた。
あれ、もうそんな時間かと思い時計を確認してみるがまだ1時前である。
「全然待ってませんよ!遅刻しなかったですね!」
「いやぁもうご飯も食べずに急いできたよ!遅刻するなって言った本人が遅刻するなんて面子が立たないし!」
「え、食べてないんですか?! お腹空いてません?」
「ん……ちょっとすいてるかな」
少し照れ臭そうに、もじもじしながらそう言う先輩に少しドキッとしてしまった。
真奈先輩はちょくちょくこういう仕草するんだよな…。
「藍斗君はやっぱ食べてきちゃってるよね…? 一緒に食べればいいかーって思って家飛び出てきたんだけど……」
「あ!大丈夫です先輩!食べて来たけどもうお腹すいてきちゃってますので!一緒に食べましょう!」
何言ってんだろ。全然すいてないのについそう言ってしまった。
いや、これは言わされたのだ。そんなしょぼんとしながら言われて無視できるわけがないじゃないですか!
「やったっ!じゃあ行こっ!」
すると真奈先輩はわかりやすく表情が明るくなり、ぴょんぴょんと先に歩いて行ってしまったので、それを追いかけるように僕も歩き始めた。
「何食べますか?」
「ナポリタン!」
「あ、わかりましたー。」
その後も他愛もない話をしながら目的地に向かった。
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「わー! ここのメニューいっぱいある! どれにしよー……」
「食べれる量だけにしてくださいね」
小さい子供みたいにこれも食べたいこっちのも食べたいと言っているので、一応促しておいた。
「むむ、じゃあ藍斗君これ頼んでよ!そして一口だけちょーだいっ!」
「え、いいですけど…」
2つから1つに絞ることはできなかったらしく、片方を僕に頼ませることにしたらしい。
返事をするとすぐに真奈先輩は店員さんを呼び、注文していた。
その後、約10分くらいの間先輩がパスタの話をずっとしていると、料理が運ばれてきた。
「おぉー!やっぱこれ美味しそうだよ! ね! 藍斗君!」
「先輩、本当にパスタが好きなんですね」
10分間ずっと語っている時点で思っていたが、目を輝かせているのを見ていると、本当に嬉しそうだ。
「うん! 付き合ってくれてありがとっ!」
「こちらこそありがとうございます」
美味しそうに食べだす先輩をみていると微笑ましくなってきたのでこちらもお礼を言った。
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