第6話 先輩からのお誘い

「藍斗はまだ何やるか決めてないの?」


「だって、エレキもかっこいいけどベースもかっこいいじゃん。迷うよ…」



かれこれ部活見学から一週間以上経つのに未だに何をやるか決めれていない…。

エレキは最初に聴いた時に良いと思ったけど、ベースの低音にも憧れる。


ちなみに大江君はドラムをやるらしい。ドラムもいいなーなんて思ってたけど、「そんな大きいもの置けない」ってお母さんに言われたからドラムは諦めた。


そういえば雪平さんはなにやるんだろう。ベースの人に貸してもらって弾いてたし、もう決めたのかな。あの日以来ほとんど話してなくて全然わかんない。なんならそれくらい聞いても良いと思うが、いつも他の女子と一緒にいるから話しかけれないし…。

やっぱりあの日のうちに連絡先くらい聞いておけばよかった。

もっと話したいな——


「おーい、なにぼーっとしてんのさ。大丈夫?」


「あ、ごめんごめん考え事してた。大江君はどっちが良いと思う?」


「両方」


「…」


「まぁゆっくり決めればいいじゃん。早く部室行こーぜ」


「ちょ、廊下は走っちゃいかんって」


大江君はあの日から毎日、授業が終わるとすぐに音楽室に行く。急いで行きたい気持ちはわかるけど走ったら危ないのに。



---



「藍斗君まだ決まらないのー?」


「そうなんですよー。エレキかベースにしようかまでは決めたんですけど…真奈先輩はどっちがいいと思いますか?」


「んー。エレキやるなら私が教えたげるよー??」


パッチリ目で髪が軽いウェーブのかかったこの先輩は、見学の時にステージでギター弾きながら歌っていた人だ。ちなみに部長。

部室に着くと大江君はドラムのところに行っちゃうし、どうしようかふらふらいろんな先輩が練習しているところを見て回ってたら声をかけてくれて、それから面倒みてもらえるようになった。


「エレキかっこいいですもんね。そうしようかなー。」


「じゃあこれ貸してあげるからお試しでちょっと弾いてみなよ」


「えっ。いいんですか?」


「まぁまぁ、とりあえずジャーン!ってやってみて!」


貸してもらえるとは思ってなくてちょっと困惑したが、とりあえず適当にならしてみた。


「どう? どう? 良くない?」


すごく食い気味で先輩が聞いてくる。実際すごくよかった。

他人が出す音を聞くのではなく自分で出す音がこれほどまでに違うとは…。

やっぱりこれがいい。うん。


「良いですねこれ!先輩、教えてくださいっ」


「おや?それはもうエレキの道に決めたってことかな?」


「はい。やっぱり心に響くこの感じが好きです」


真奈先輩は何か感激を受けたのか、ちょっと涙目になりながらうんうんと頷いている。


「よかったぁ。新入生8人入部したけどみんな他いっちゃったもん。もう今年はエレキの良さを一緒に語れる人いないかと思ったよ。」


「あれ、先輩って二年生でしたよね。三年生でやってる人いないんですか?」


「あーそっか、その辺なんも言ってなかったね。三年生はいないんだよ。

この部活は去年私たちの代がつくったからか、誰も入部してくれなくてね。

だからまだ二年生だけど、私が部長やってるんだよーっ!」



「え、そうだったんですか?!創立者とかすごいですね…」


「そんな言い方しないでよーなんかかっこいいじゃん」


あ、ちょっと照れてるのかな。若干そわそわしてて可愛い。



……ダメだこんなこと考えてたらニヤニヤしちゃう。気を付けないと。


「だからさ、お互い頑張ってこうね!わかんないことあったらいつでも聞いてきていいし!」


「あ、じゃあ一ついいですか?」


「何かな何かな」


さっそく聞こうとしたら、にこにこしながら話を聞いてくれた。


「明日もう買いに行こうと思うんですけど、おすすめとかってありますかね」


「明日って、決断から実行まで早いね君…。

んー、私はお店で一番売れてますって書いてあるやつ買ったけどなー……あっじゃあ一緒に見に行ってあげる」


「え、一緒にですか…?」


「いやなの?」


「全然いやじゃないです先輩と一緒に行きたいですお願いします!」



初めて女子と学校の外で会うということに戸惑っていただけなのだが、それが嫌がっているようにみえたらしい。すごく悲しそうな顔にさせてしまったので全力で行きたいことをアピールしたが、これはこれで引かれないだろうか…と少し不安になった。


「じゃあまた予定決めたりしたいから連絡先交換しよっ!」


「了解ですありがとうございます」


受け答えがおかしいなと思いつつも、生まれて初めて家族じゃない女子の連絡先を手に入れられたので勝ちである。


キーンコーンカーンコーンッ


「あ、今日はもう終わりだね。おつかれっ!」


「お疲れ様です。ありがとうございました」


結局最後は話し込んでしまって気づいたら外は薄暗く

部活終了時刻のチャイムがなったので皆片付けを始めだした。


明日、初めて家族じゃない女の人とお出かけだ…。

僕は緊張ですごくドキドキしていた。



——その後大江君と帰ったのだが、「なにニヤニヤしてんだよ」って言われたのはいうまでもない。


---



ピロンッ


10時くらいに自分の部屋で楽器について調べていると、先輩からメッセージがきた。


「やばいすごい緊張する…これ開いたら既読ついちゃうんだよな…」


独り言をいいながら勇気を出して開くと、


『やっほー後輩君! ちゃんと届いてるかな…? 

 明日のことだけど、どこのお店行く?私は学校に近い商店街のとこで買ったけど…。』


と来ていたので、返事をしようといたらもう一つ送ってきた。


『ごめんごめんそういえば藍斗君どこ住みなのか聞いてなかったね…そっちの近いところでお店ある?』


今まで書いていた文を全部消して、

『あ、僕の住んでるところ田舎なので田んぼしかありません。なのでそこで大丈夫です!』

と、既読付けてから10分ほどしたところでやっと返せた。


こんなにも異性と連絡とるのが難しいとは思わなかった。話すのと違って文字にすると変な感じがしてしまう。


ピロンッ


『そうなんだ(笑) じゃあ一時に駅前集合ね!遅刻しないように早く寝るんだぞっ』


『わかりました!ではもう寝ます。おやすみなさい』


…なんとか無事にやり遂げたかな。


あぁ、ついに僕も女子と遊びに行けるのか…。

早く明日にならないかな。


――その後布団に入り色々期待を膨らませながら寝た。

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