第2話 登校

——次の日の朝


んー、眠たいね。

僕は6時に目覚まし時計を設定したはずが、今はなぜか7時だった。

無論設定を間違えたわけではない。


「…まさかね。」


なぜかと思ったり、まさかなんて言うまでもなくただ自分が寝坊しただけだ。


え、やばいやばい。流石に2日目から遅刻って印象悪くなるよねうん。

高校デビューっていうのか、僕は真面目で明るい人だと思われたいなって、そういった人物になりたいなって思ってたのに、遅刻なんてしたら不真面目に思われてしまう。それは嫌だ!


という事情があり、ご飯も食べずに急いで制服に着替えて家を出た。


「たしか、9時過ぎたら…遅刻だったよな…。なら、まだ8時の電車に乗れば間に合うか…!」

ただでさえ走って息を切らしているのに、わざわざ口に出して言わなくても良いのに。と、心の中で思った。


そしてしばらく走り続け、なんとか

8時発の電車に駆け込むことができた。


危ない危ない、もうダメかと思った。

僕の住んでいるところの最寄駅では、電車が1時間に数本しか停まらないため、これに乗り遅れていたら本当に遅刻になるところだった。


それにしても、この時間の電車は人が多いな…。ちょっと蒸し暑くて嫌な気分だ。

よくサラリーマンが満員電車がどーのこーの言ってる話を耳にするが、こういう気持ちなのかな。


「あの…痛いです。」


なんて、もの思いにふけていると近くで女の人の声がした。


声のした方を向いてみると、長さは肩よりすこし長いくらいだろうか。綺麗な黒髪の女の人が、僕を見ていた。

あれ、これ僕に言ってるのかなーなんて考えながら目線を合わせていると、


「さっきから何回か鞄で顔を叩かれてます…」


と答えてくれた。

あぁなるほど。やっぱり僕に言ってるのだ。

肩にかけているトートバッグが少し背の低めなこの女性の顏を押しつぶしていた。

走って体力が根こそぎ持っていかれていたので、そこまで気が回らなかったな。とりあえず謝らないと。


「あ!すみません…気づきませんでした…。」


「いえ、大丈夫です」


「すみません…」


「大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


こちらがこの人の心の広さに対しお礼を言うと、

ぺこり と頭だけ下げてお辞儀をしてくれた。


…え、この人可愛い。なんて、浮ついたことを思ったのは胸の奥にしまっておこうと思う。



——駅に停まるごとに人が沢山出て行くが、その分乗ってくるのでいつまで経っても満員である。

そうして揺らされること30分ほどして、到着した。


「あっ」

電車を降りると、さっきの女の人も降りていたので、つい声に出してしまった。

案の定聞こえてたらしく、こちらを向いて今度はニコッと微笑みながら、ちょっと頭を下げて手を振ってくれた。


あっそうか。同じ学校の人か…。なんか見覚えのある制服だと思った。


先ほどのことで申し訳ない気持ちはあったが、そんなもの今の笑顔をみたら全て吹き飛ばされ、逆に胸が熱くなるのはいうまでもない。

それに加え、同じ学校ならまた会えるかな、今度は会話できるかな、など期待してしまった。


恋愛経験0の僕からしたら、こんな些細な出来事でも夢を膨らませて、ドキドキしてしまう。


…ただ一方的に鞄を当ててそれに対し謝っただけで、何を勝手に想像しているのだろうね。

仕方ない、男子高校生ですもの。


なんて ささやかな想い を抱いていたら、後ろから名前を呼ぶ声がした。


「おーい、藍斗ー!おはよーう!」


「あ、大江君じゃんおはよ」


同じ電車に乗っていたらしく、その後大江君と一緒に学校に向かった。

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