第?話

「澪、もう大丈夫なの?」


 病室にて、ベッドから立ち上がり外出支度をしていた所に、扉を開けて夕空が現れた。


「ああ。体の置換も済んだ。…夕空には、まじで世話になったよ」


「ううん。こちらこそ!そもそも澪があそこまで頑張ってくれなかったら、全滅してたかもしれないしっ」


 夕空のあの応急手当ては正直神がかっていた。医者にも「何してんのこれ」と匙を投げるかのような文言を開幕で言われてしまった。

 つい昨日、ようやく夕空の神秘による縫合を外し、自然100%の元の肉体に戻れたのだった。その間にも必要なものは夕空がほとんど持ってきてくれて、何かと世話になってしまった。(クォーリアが来たのは一度だけ)


「それで、どこに行く予定だったの?」


「ああ、騎士団本部に。たまには見学も良いかなと」


「成る程成る程、確かに、普段とは違う発見もあるかもだし…」


 少し照れくさいが、今更だろう。


「「一緒に…」」


 誘おうとしてハモってしまい、2人して赤くなる。考えてみれば今の流れは別に彼から言わずとも彼女から申し出ただろう。だが…仕方ない。自分から誘いたい時だってある。


「一緒に行こっか、ね?」


「…ああ」


 朝一番の少女の笑顔。彼もつい、口元が緩んで笑顔を零した。


 ――――――――――――――――――――


 見学もそこそこに、「昼飯にするか〜」と出口へ向かった2人。ふと、彼女が足を止めて眺める先には…一枚の依頼書があった。


「 謎の黒い影

 子供からの目撃情報。「劇場近くの路地裏で、黒いローブを羽織った怪異を見た。すばしっこくて逃げられたけど、すごく臭くて、長い爪を持ってたから怪異だと思う」。

 とのこと。

 報酬金1万、他受注者無し

 」


 その下には発見者の住所も書かれていた。


「…これ、やってこようかな」


「ふむ…。…これはまた、面倒そうな…」


「でも、ほっとけないよ。いつ誰が襲われるかわからない」


「……この、ただでさえ最近怪異に襲われて殺気立ってる街で、怪異が隠れ潜み続けられるのか…?」


「あの液状怪異みたいに、何か手段があるかもしれないし…とりあえず、目撃者に会ってくるよ」


「待て。俺も行く」


 彼を置いて今にも走り出しそうだった夕空。反射的に出た言葉だったが、覆すつもりはない。見上げて目が合い、それでも視線を合わせたまま耐える。


「街中での戦闘なら俺以外にも足手まといは大量に出るだろ。リハビリがてらだ」


 何か言われるよりも速く、どうせ拒否しないだろう、という期待の元で彼女を追い越し前を歩く。


 すっかり馴染んだ2人行動に、花開くような笑顔を咲かせると、彼女は彼の横へと駆け出した。


 ―――――――――――――――

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