第29話
「…相席、いいすか」
「…良いですけど」
王都の外れにあるハンバーガーショップ。1週間の療養で歩けるまでに回復した彼は、なんとなくバーガーショップを訪れたのだった。
そしてそこで…以前、時止めの怪異を一瞬で蹴散らした、ネアに良く似た女性が一人でバーガーをのんびり食べている場面に出くわしたのだった。
周りは見事に席が埋まっており、店内に入った際に、相席かしばらく待つかの二択を突きつけられ、店の隅にいつか見た長い白髪を見つけ、「相席にします」と相手の許可を店員に取ってきてもらうこともせずに突撃したのだった。
「「……」」
無言で食べ進める彼女をじっと見つめる。彼女はそれを気にした様子もなく、眠そうな瞳で、別段美味しそうでもなくバーガーを食べ進める。
「ここのバーガー、好きなのか」
「…普通です。たまに、食べたくなる」
「…」
そして会話は終わってしまう。生まれてからこれまで女慣れしていない彼であったが、夕空達との出会いを通して最近は平気になってきているはずだった。だが…妙に、彼女の雰囲気に彼は緊張してしまう。
「…あんた、風の長だろ?こんなところにいていいのか」
「…?」
「いや、仕事とか…」
「今は無いです。メイドも休んでるから、お昼ご飯食べに来ただけです」
「…?メイド?…そうか、長なんてやってるぐらいだ、豪邸持ちは普通か」
もしかしたら秋堅も…?火の長は間違いなくそうだろうと思うが。
「…それよりも、聞きたいことがあるのでは?」
なんて言いつつもバーガーを食べ進める少女。ついでに彼のバーガーも届けられた所で、彼は唾を飲み込む。バーガーの包みを解くより先に、ずっと引っかかっていた疑問を投げかける。
「…この前の、どういう意味なんだ」
「そのままの意味です。…周りの耳もあります、固有名詞は出さないように」
「…?ああ。……んで、根拠は。知り合いなのか?」
「…ごめんなさい、言えません」
「言えないって…じゃあ、どうしようもなくないか…?」
バーガーの包みを開けて頬張る。
…時間停止(制限あり)と、時間巻き戻し(彼さえ殺せば無制限)。
…失敗したらその時点で終わり。チャンスは、一度きり。
言えない理由は彼が…巻き戻しに”唯一抗えない”存在だから。
「…人間社会で、最も強い力とは何か、ご存知ですか」
真っ直ぐに見つめてきた銀髪の女性。随分と大人びているが、どことなく雰囲気がネアに似ている気がした。
金か、名声か、力か、情報か、それとも大義名分か。
…メタ的な推理をするなら、夕空に当てはめられるものだろう。ならば…。
「…団結、とか」
「大正解です。多くの人を助け、多くの人と仲良くなれば、その人はそれだけで”正義を手に入れられる”。過半数の同意を得ることができれば、ルールだって変えられます」
―――――――――――――――――
既にバーガーを食べ終えた彼女はちょっとだけ嬉しそうに話した。
「変えたいルールがあるとか?それとも世界征服か?」
「解りません。ですけど、少しは信用して貰えましたよね」
「「いいや。それだけじゃ判断できない」」
…いつか彼がやってみせた、完全予測。先日あったばかりの彼女が、どういうわけかそれを彼に向けてやってみせた。
「――!?」
「…じゃあ、またどこかでお会いしましょう」
そそくさと立ち上がり、その場から去る女性。追うこともできず、ただポカンと、初めて会った時と同じように、彼は1人置いてけぼりを食らうのだった。
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