第25話


「相変わらず、やかましい街じゃのぅ…と、言いたいところじゃが…」


「2週間ぐらい前、大量の鳥型怪異に襲われたから今はみんな復興に駆られてる。連れの衛士がいるから紹介したいんだが…」


 一陣の風が巻き起こる。勢いの割に優しく、ぶわっ、というよりふわっ、という感じ。…曖昧な違いだが。


「あっ、澪!おかえりー、どうだった??」


 大門をくぐった先、とりあえずどうしたものか…と思っていたところで、見覚えのある桜色の装束の少女が空から降ってきた。門の修理を任されていたのだろう。


「ああ、お疲れ。依頼は達成だ。…それから、こっちが…」


「はじめまして。妾はクォーリア、これから世話になるぞ」


「?はじめましてっ!私は夕空逢、よろしくね!」


 若干偉そうなクォーリアにも笑顔で返し、握手を求める夕空。目を丸くしたクォーリアだったが、警戒した様子でありつつも、その握手に応じた。


「それで澪、この子は…?」


「妹。さっき会った」


「妹っ!?……似てない」


「俺もそう思う」


「クォーリアちゃんは幾つなの?」


「ちゃんはよすのじゃ、背中が痒くなる。数えておらぬが12ぐらいじゃ」


「ついでに言えば、俺やお前よりも間違いなく強い」


 思わず出た普段の口癖を誤魔化すように彼が注意を買う。やべっ、という顔は一瞬で隠れ、照れたように頬をかくクォーリア。


「じゃ?…って、ほんとに?澪より強いの?」


「ああ。村からここまで1人で来れるぐらいには強い。独学で火の神秘も覚えるような奴だしな」


「ぬふふ、褒めても何も出んぞっ」


「…??」


「まぁ、この通り…その代わりに色々拗らせた奴なんだ。変な口癖とかは目を瞑ってくれ」


 彼のセリフにハッとした彼女は若干恨めしげに彼を睨むが、やれやれという微妙な表情を彼が返すと、吹っ切れたようにずかずかと彼の元へ。


「兄あに、妾はもう歩き疲れたぞ。宿に連れてくのじゃ」


「りょーかい。行こう、夕」


「うんっ」


 宿に戻り、追加で部屋を取る。祭りの旅客が帰ったお陰か部屋は空いていた。勿論、復興の為に新たに来た衛士たちもいたが。


 ―――――――――――――――――――――――


 部屋に入った少女2人。その光景を側から見れば、そちらこそ姉妹なのではないかと思うだろう。

 前を行く少女は久々の外出に意外にも胸膨らませた様子で、物珍しいのか部屋の様子をぐるぐると回って眺めている。


「……」


「ほぅ…中々面白い部屋じゃな」


「…クォーリアさん」


「む?」


 部屋の扉を閉め、真っ直ぐに2人は見つめ合う。


 射抜くような視線は、彼女と少女を、一直線に結ぶ。


「本当は、誰なんですか?」


「誰も何も、妾は…」


「北本 クォーリア、ですか?」


「…そこじゃったか」


 ぽりぽり、と頬をかく少女。どうしたものかのぅ…と、バレないように右手を自身の後ろに隠す。


「…本当の目的は?」


「怪異の研究。あ奴には全て伝えておる」


「妹って?」


「妾も怪異じゃからな。身元があった方が何かと動きやすい。あ奴は強いからの、妾が強い理由の一端にもできる」


「…何の怪異、何の能力?」


「夢を司る怪異。出来ることといえば、人の願いを叶えることぐらいかの」


「…?」


「あやつと会った経緯を話そう」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「纏めると…妾が創った理想郷、迷い込んだ者の理想を具現する世界にて、あ奴に妾は「1人選んで旅に連れてってくれ」と言った。そしたらあ奴は妾を選んだ。他の理想達に促されるまま、流れ着いて今に至る」


 ――――――――――――――――――――――


「…?結局、貴方が’何なのか’全然わからない」


「そうじゃの。妾も分からん。ただ”できたから”やってるだけに過ぎんしの」


「…できたから、やってるだけ」


「うむ。お主のことは道中、あやつに聞いておる。正義感の強い、危なっかしさもあるが確かな衛士だと」


「…」


「で、どうじゃ?お主の正義に、妾はどう映る」


 刺していたはずの視線が、気がつくと差し返されていた。


 しかし彼女は汗1つかかず、凛々とした瞳でそれを反射させる。


「――勿論、おっけーだよ!そもそも、私達、怪異の知り合いいるし」


「…それもそうじゃったか」


「その怪異が、人の意識をぼんやりさせる力を持ってたから、もしかしたら…って思ったけど。今も意識ははっきりしてるし」


「まぁそれぐらいだったら妾もできなくはないが…」


「それよりっ!さっきの理想の具現化って澪にもやったんだよね!?」


「う、うむ」


「どんなのだった?ちょっと見てみたいんだけど…!」


「それだったらほれ、こんなのじゃ」


 クォーリアが右手を翳すと、一枚の鏡が出現する。それの表面をなぞるように何事か操作すると、ナナシの様子が鏡に浮かび上がり、陽光に照らされてベンチで眠る少女の姿が見えた。


「ふんふん……。………へぇ……ほぅ…」


 白くボサボサな長い髪と、長いまつ毛と眠そうな緑色の瞳。スラリとした体躯と妖精のような雰囲気の少女はまさに…自然に生まれ出でることなどあり得ない”理想”。


 嬉しいような悲しいような、興味と熱と、新たな知見との邂逅が、気がつくと彼女の頬を熱くする。


「妾から聞きたいのじゃが、お主達、恋仲なのか?」


「え、いや、付き合ってないよ」


「…あれ?……ふっむ。…現代の子らの感覚はよぅ分からん」


 …てっきり、恋仲だからネアのことを辞めたのかと。


 …さて、


「妾、彼奴の部屋に行こうかと思うが、お主はどうする?」


「じゃあ先にお風呂入ってるよ」


 ―――――――――――――――――――――――


「澪、入るぞ」


「ああ。…っと、どうした?」


「夕空にバレた」


「…早かったな」


「名前が名字と合わないとな」


「…ああ」


 言われてみればそうだ、溜息をつきながら座っていたベッドに仰向けに倒れこむ。


「それから、お主が思っている以上にあ奴、しっかりしておるぞ」


「へぇ…?…まさか剣を向けられたとか?」


「いいや。…ただ、なんというかな…うぅむ…」


「??…まぁ、警戒してたなら多少殺気立つのも仕方ないんじゃないか?」


「う〜…ぬ……まぁ、そうか。…明日の予定は?」


「明日には夕空も合流できるから、王城に初出勤の予定だが…一緒に来るか?」


「ふぅむ…そうじゃな…野良の炎使いとして怪しまれてしまうやもしれんが……興味があるのぅ。……戦いはせんが、一度訪れてみるかのぅ」


 ―――――――――――――――――

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