第24話


「…さて、本題に入ろうかの」


「…ああ、ごめん、待たせてしまって」


 向かい合ったソファに座る。先程までそんなものは無かった筈だが…これも長の力なのだろうか。


「良い良い。時間はたっぷりある。…中々に興味深かったしの」


 長の神秘擬きによって消えるようにその場を去った不可思議達。長の気遣いに甘え、彼は気兼ねなく至高の時間を堪能したのだった。


「…ほんとうに、あやつでなくて良いのだな?」


「ええ。…十分、堪能しましたから」


「そうか。…さて、そういえば、自己紹介がまだじゃったの」


 コホン、と可愛らしい咳払い。ソファから立ち上がった少女。


「妾はクォーリア。まぁ、好きに呼ぶがよい。…正直、妾に護衛は必要ないのだが…まぁ、その分無茶できると思えば良いか。…先にも述べたが、妾の目的は怪異の調査と知識の共有。仲間の捜索じゃ。お主の目的にも妾は役に立つはずじゃ。存分に期待するがよいぞ」


 若干まだ不満があるようにも見えるが、諦めたのだろう。ふんす、と無い胸を張って気分を切り替える。


「よろしく、クォーリア。…ところで、どうやって戦うんだ?」


 クォーリアが手を前に翳すと、小さな炎が出現する。


「まぁ、こういうことじゃ。…旅支度をする。今日は里に泊まるがよい」


「…ああ。世話になる」



 長の家の二階、夕焼けに照らされたベランダから里を眺める。里の住人は思い思いに過ごしているようだ。何か書いている者、読んでいる者、神秘擬きを操り遊んでいる者、里の端に流れる川で釣りをする者、何か編んでいる者……。

 里はそれなりに広く、修練場や畑もあり、それぞれを何人かが使っていた。ネアはというと、一本木の根元、フカフカの草のソファに座り、気の抜けた猫のように眠っていた。


「…」


 …クォーリア。彼女は一体何者なのか。

 不可思議の研究をしていて?他の怪異との交流を望み?訪れた人の理想を具現し、対価として人間に手伝いを依頼する。


 ……本当に、信用してしまっていいのだろうか。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…まだ森を抜けぬのか」

 歩くこと1時間ほど。大規模な森林だ。まだ出口まで半分ぐらいだろうか。


「あと半分ぐらいだが…転移できるとかって言ってたし、それを使えば良いんじゃないか?」


「余計疲れるわ!飛んでいくのも考えたが、あまり目立つわけにもいかぬ。…そういうわけで、ホレ」


 隣のクォーリアが歩くのをやめ、こちらを振り返る。そして、先日のネアのように両腕を広げ、ニヤリと彼を見上げる。


「…?」


 目的は分からなかったが、取り敢えず抱き締めることにした。

 10歳児ぐらいだろうか。確かにこれぐらいの身体のサイズなら、部屋に篭ってようとなかろうと、1時間も歩き続けるのはキツイだろう。


「ぬぅっあっ……って、ちがわーい!」


 ぐいぐいっと力一杯押し返され、彼は不満げに少女を解放し、?を浮かべる。


「ん!……運ぶが良いっ!」


「…ああ、そういうこと」


 おんぶ?…いや、両腕を広げているのだから…。


 脇からクォーリアを持ち上げ、胸に引き寄せる。言うよりも先に、クォーリアは両足を彼の腰に巻き付けた。


「…うむぅ。…なんというか、思っていたよりも照れ臭いな、この体勢は。やはり背負われるべきだったかの?」


 と、いうことで姿勢変更。


「…むぅ?まぁ、悪くは無いが…なんというか、安定感がもう少し欲しいのう」


「了解。なら…」


 再びクォーリアを降ろし…今度は正面から。背中と足の裏を掬うように抱え上げる。


「これならどうだ?」


「お、おおっ、良いではないかっ!澪、走るがよい!」


「…大丈夫かな」


 未だかつてしたことがない姿勢、知らない心地に目を輝かせるクォーリアに頼まれるがまま、彼はなるべく彼女を揺らさないように注意しつつ、森を駆ける。



「ぉぉおおおお…これは楽じゃのぅ!澪、妾はしばらく目を閉じておる。何かあれば言うが良い」


「了解。けど…酔わないのか?」


「まったくもって無問題じゃっ!ほれ、行くがよい!」


「…はは……了解。久しぶりに、全力疾走と行くか」


 初めて見る、クォーリアの外見相応の楽しそうな笑み。それに応えるため、彼は森を抜けるまでの間、一度も止まることなく走り抜けた。


 ―――――――――――――


「…そういえばクォーリア、お前。正体は基本隠すんだろ?」


「うむ。喋れる怪異など、奇異の目で見られるだけじゃろう。お主も異端扱いされるかもしれんしの」


「…その口調も、できればなんとかしたほうがいいと思うが」


「ふぅむ…。まぁ、そうじゃな…なんとかしてみるかの」


「そも、森で会った、って説明じゃ意味分からんだろ。一緒に旅してる理由とか、その見た目で戦える理由とか…」


「…1つ。それらを全部言いくるめる理由があるぞ」


「?」


「…お主、家族は何処に?」


「南の小さな村だ。村から出ることもそうそう無いから、家にいると思う」


「一人っ子か?」


「ああ。…?」


 質問の意味が飲み込めず、疑問符を浮かべる彼に、なんでもないかのように、少女はとんでもないことを言い出した。


「――妹はご所望かの?」


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