第21話

 …騎士達の修練相手として勤務し始めて1週間ほど経った。


「…参った」


「ありがとうございました」


 その日も、騎士協会の修練場は異様な光景となっていた。


 本来あるべき勝敗と、今現在決着がついた試合の勝敗が真逆なのだ。




 神秘使いと非神秘使いの…ではなく、騎士と侍の、だ。




 それを少し離れた位置から見る、王都騎士団団長、ライクローゼはその様子に、誰にも見えぬように溜息をついた。


『俺が鍛えてやる』とまで言っていた彼だったが、実際取った行動はその真逆だ。

 不幸を、無才を嘆いて強くなれるのなら、勘違いをさせてやればいい。それも、絶対的なレベルで。

 これまでも彼は、秋堅に勝った時、ゴーレムを討った時、神秘剣使いを打倒した時…その都度『これはマグレだ。こんなとこで勝っても意味なんてない』と、無自覚に自分に言い聞かせることで、慢心、満足せずに力を持ち続けていた。


 しかし先週…彼は最早、言い訳も自分騙しもしようのないほどの、まるで『今までの努力は無駄ではなかった』とでも言いたげな程の”成果”を得てしまった。


 偶然だ、意味なんてない、そんな言い訳は「そういうもんだろ人生って」という言葉で消され…彼は初めて”満足感”を得てしまった。


 この1週間、彼の勝率は3割程だ。…その勝率の低さに悔しい気持ちはもちろんこみ上げる。またあの力が欲しいと、手を伸ばす。


「…あれ?」

 両掌を見つめる。握り拳を開き、マメの出来た手の平。…以前まではあった”何か”が完全に消えてしまっているのを、認めてしまう。


 もう彼は”自分がどう戦っていたか”を思い出せなくなってしまった。


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 城の復興に騎士と衛士が駆られて十数日。気分転換がてら、力を取り戻す為もあるが、溜まりに溜まった怪異討伐依頼を受けることにした。街の復旧の為に地神秘を酷使することが最優先事項の為…夕空は今回は彼と別行動だ。


 ナナホシの森にいる小さな怪異に、大事なネックレスを奪われてしまいました。珍しい鉱石の物だからか、ネックレスを取ると、一目散に逃げられてしまいました。取り返してきてほしいです。

 』

 依頼書には怪異の絵と、場所や報酬の詳細が記されていた。


 …怪異が欲しがる宝石?今ならブーメランダガーもある。神秘の気配に反応しているのなら、うってつけだろう。


 そんな軽い気持ちで依頼を受けた彼はその日…運命に出会うこととなるのだった。


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 大陸西部の端の端。いつぞやのタヌキの森を思い出させる深い森の中。目当ての怪異を探して歩くこと数日、中々見つからず途方に暮れていた所で…不意に、眼前を通り過ぎる何かの気配に気が付いた。


『…』


 目が合ったわけでも、手招きされたわけでも、呼ばれたわけでもないが…何となく惹かれるがまま、気配の跡を追う。


 気配の正体に意識を凝らすと…透明な人間でもいるのか、空間の歪み?揺らぎ?を見つけた。


 ふと、気配が動きを止める。それに習い、多少距離を残して彼も止まった。


 …気配が、消えた?


 揺らぎは僅かに残っているが、徐々に消えつつある。今ここで逃せば、次は無いかもしれない。


 どうすればいいのかすら解らぬまま…彼は走り、揺らぎの残滓に手を伸ばした。


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